『鉄拳』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『鉄拳』今更レビュー|確かにアイアン・フィストではあるが、反則では?

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『鉄拳』

阪本順治監督が『どついたるねん』に続いて撮ったボクシング映画の異色作。

公開:1990 年  時間:128分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:     阪本順治


キャスト
中本誠次:      菅原文太
後藤明夫:      大和武士
田村君子:     桐島かれん
筒井専務:       ハナ肇
長井トレーナー:  大和田正春
滝浦勇:       原田芳雄
池田医師:      藤田敏八
平岡稔:     シーザー武志

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

あらすじ

中本誠次(菅原文太)は家業を専務の筒井(ハナ肇)に任せっきりで、ボクシングジムのオーナーをやっていた。

ある日、ふとしたことから少年院上がりの後藤明夫(大和武士)と知り合った誠次は、彼にボクサーとしての素質を見つける。

恋人の君子(桐島かれん)に見守られながら明夫は破竹の快進撃を見せるが、有頂天気味の明夫は交通事故を起こしてしまい、ボクサーの命である右拳を負傷してしまう。

今更レビュー(ネタバレあり)

赤井英和主演の『どついたるねん』でデビューを果たした阪本順治監督は、「この世にボクシング映画は数あれど、二作続けて撮った監督は他にいないだろう」と考え、本作を撮る。

主演は、前作で対戦相手を務めた大和武士赤井英和同様、彼も元チャンピオンのボクサーだから、動きと迫力は本物ならでは。

ただ、完全に赤井英和の単独主演だった前作に比べ様相が異なり、共同主演には元ボクサーのジムオーナー役で菅原文太が登場する

菅原文太が演じる高知県で代々の林業を渋々継いだ社長の中本誠次は、副業であるボクシングジムのオーナーに心血を注いでおり、本業は専務の筒井(ハナ肇)に頼りっきり。

この筒井が、レンタカー屋でクルマが借りられず大暴れしている少年院上がりの後藤明夫(大和武士)をみかけ、中本に知らせたのが出会いに繋がる。後藤は強引にスカウトされてジムに入り、瞬く間に人気選手にのし上がっていく。

(c) 1990 Arato Genjiro Pictures

ボクサーが元不良なのは矢吹丈からのお約束だが、レンタカーの事務所やらスーパーマーケットのウィンドウやらを破壊しまくる単細胞で怒りっぽい怪力男の後藤は、相当乱暴なキャラ設定だ。

しかも、そのレンタカー屋にダスキンのマット交換に来ていた君子(桐島かれん)とは、偶然の出会いから一度食事につきあわせただけすぐに恋人同士になってしまう。

ジムに入ってすぐに勝ち進んでしまうのと同様に、何事もあまりに展開が急すぎて、かなり戸惑う。

だが、このハイペースな進行には理由があった。勝ち続けて天狗になって君子を乗せてクルマを暴走させていた後藤は、派手な交通事故を起こし、ボクサーの命である右拳を負傷してしまうのだ。

これは自業自得もいいところだし、正統派のボクシング映画として成立するのか心配になったが、どうやら不安的中。

阪本順治監督は『どついたるねん』できちんとボクシングを撮りきったので、次にはリングの外のドラマを撮ろうと考えたそうだ。だから、本作にまともなボクシング映画を期待してはいけない。戦いの場はリングではなく場外なのだ。

主力選手の後藤が再起不能になったことで、中本のジムはつぶれ、林業の会社も人手に渡る。転職した中本は失踪したままの後藤と偶然再開することになる。

中本が大の苦手とする犬から逃げて走っているとそこに後藤がいるという、凄まじいご都合主義。そこで、松葉杖姿で無気力に日々を過ごす後藤を見て、中本はショックを受ける。

何とか後藤を立ち直らせたい。ここで更なるご都合主義。義手をつけて器用に和紙を漉く職人滝浦(原田芳雄)をたまたま見かけた中本は、彼に無理を言って、義手を造った医師(藤田敏八)を紹介してもらうのだ。

こうして、新たな義手により、後藤の右拳は復活する。

えっ、だからタイトルは<鉄拳>ってこと? 鉄拳制裁ではなく、鋼鉄製の義手のことなのか。中本が失意の後藤に生きる力を与えたいと願うのは分かるが、この鉄拳でボクシングは無茶ではないか。

義手といっても海賊のようなフックではなく、ボウリングのメカテクターを小型にしたような形状。これでパンチすると、本人も相当痛いらしい。アダマンチウムの刃を拳からぬるっと出して、自身も痛がっていたウルヴァリン(X-Men)みたい。

こんなアイアンナックルみたいな武器を装着してボクシングの試合に出るのは、明らかに反則なのではないかと思うが、どうなのだろう。

昨日まで松葉杖だった後藤が、すぐにボクサーの身のこなしを取り戻すのは嘘くさいが、中本や君子、そしてトレーナーの長井(大和田正春)の協力でリハビリに励み始める。

これで後藤が再びリングに立つようになる話なのかと思えば、今度は謎の格闘家集団が現れる。リーダーは身体障害者に異常な冷酷さを見せる平岡(シーザー武志)。舎弟のバイクにニケツで乗るのだが、なぜか後ろ向きに跨るのが不気味。

こいつらが後藤を襲い、愛犬を殺し、ついには和紙職人の滝浦の義手を万力で潰し、彼を殺害する。さながら、カンフー映画の悪党どものような残忍行為だ。

世話になった原田芳雄を眼前で嬲り殺され、菅原文太が黙っていられるはずがない。ついに中本が復讐の鬼と化し、格闘家集団に立ち向かう。こうなったら、もう本作は名実ともに菅原文太の映画であり、彼が主人公と化す。

(c) 1990 Arato Genjiro Pictures

中本が殴り込みに行った日は後藤の復帰戦当日。だが、後藤も蕎麦屋の出前のスーパーカブを奪って、試合を捨てて中本のもとに加勢に。

結局、こっちの場外乱闘が本日のメインイベントになっているわけで、不思議な映画なのである。勝利のあとは、出前途中で奪ったもり蕎麦を菅原文太大和武士の二人で啜るという、摩訶不思議な光景。

本作は派手なバイオレンスとコミカルな演出が不思議なバランスで存在している。おかげで菅原文太でさえも笑いを取る場面が多い。

かつて寺山修司監督の『ボクサー』清水健太郎とともに久々のボクシング邦画を復活させた文太としては、もう少し正統派な作品をやりたかったのではないか。

大和武士は本作での演技が買われたのか、阪本順治監督には『トカレフ』(1994)でも主演に起用される。

君子役に桐島かれんというのは不思議なキャスティングだ。あの美貌とモデル体型では、ダスキンのマット交換係にはみえないし、過去の出演作をみても、『鉄拳』は浮いている。

彼女の映画出演作を観たのは初めてだが、おとなしくヒロインの座に収まっていない引き締まった感じがいい。野郎ばかりでむさくるしい映画に、彼女の華やかさは救われる。