『激突!』
Duel
スピルバーグ監督の初期のテレビ映画で初の劇場公開作になった作品。あおり運転にもほどがある!
公開:1971 年 時間:90分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: スティーヴン・スピルバーグ
原作・脚本: リチャード・マシスン
『激突!』
キャスト
デビッド・マン: デニス・ウィーバー
妻: ジャクリーン・スコット
スクールバス運転手: ルー・フリッゼル
ガススタンド女店主:ルシール・ベンソン
トレーラー運転手:キャリー・ロフティン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
ビジネスマンのデビッド(デニス・ウィーバー)は、カルフォルニア州の車もまばらな道で前をゆっくり走っているタンクローリーを追い越した。
すると突然タンクローリーが加速、デビッドの車を追い越した後、嫌がらせのように前でのろのろ運転を始めた。再び追い越そうと加速するデビッドをタンクローリーは阻み、追い越しを妨害してきた。
いたずらかと思っているデビッドだが、それがこれから味わう恐怖と衝撃の予兆だとは知る由もなかった。
今更レビュー(ネタバレあり)
あおり運転だけの直球勝負
無名時代のスティーヴン・スピルバーグ監督がテレビ映画として撮った作品だが、評判が高く、オリジナルを15分ほど長くして90分版に編集し直し、日本や欧州で劇場公開されている。
巨大な暴走トレーラーに中年男のクルマが追いかけられる話が延々と続くだけなのだが、とにかく映画にキレがあり、恐怖のツボが押さえられている。
◇
原作はリチャード・マシスンの短篇小説。大型トレーラーに追いかけられるクルマの話を、小説で読んでもつまらないのではと思うかもしれないが、そこはマシスンの筆致力だから、原作は文字だけでも十分怖い。
本作はそのマシスン自身が脚本も手掛けているおかげで、原作の持ち味を殺さずに、若き天才スピルバーグの演出力との相乗効果が生まれている。
同じマシスンの短篇小説でも、エッセンスだけ採り入れて全く異なる世界を展開させた成功例がヒュー・ジャックマンの『リアルスティール』(2011、ショーン・レヴィ監督)なら、忠実に映画化した成功例が本作と言える。
◇
本作は、最近の表現でいえば<煽り運転>の映画。随分と時代を先取りしたものだ。しかも、煽ってくる大型トレーラーの運転手の顔は、けして写らないように巧妙に撮っている。
画面に登場するのは逞しい二の腕であったり、カウボーイのようなブーツだったり、パーツのチラ見せのみ。この焦らしがいい。
序盤にはカー・ラジオ放送がしばらく流れたり、恐妻家の主人公が妻に電話をしたりと、本筋と関係の薄い場面もあるが、あとはひたすら追いかけっこが続く。
分からないままで正解の怖さ
以下、ネタバレになるのでご留意ください。
命からがらトレーラーの猛追を振り切ったデビッド(デニス・ウィーバー)は街道沿いのダイナーで一息つく。
だが、トイレから席に戻るとパーキングに例のトレーラーが停まっている。店内にいる男たちの誰かが、自分を苦しめた犯人なのだ。誰もがそのドライバーに見えてしまう心理状態が秀逸に描かれている。
原作でも映画でも、結局この運転手(キャリー・ロフティン)は最後までろくに姿を見せない。
古くは『ヒッチャー』のルトガー・ハウアーから、近年なら『アオラレ』のラッセル・クロウまで、この手のクルマ絡みの恐怖映画で主演ともいえる犯人が顔を見せないなんて、普通ならあり得ない。
だが、かつて黒沢清監督も語っていたと思うが、「分からないものが一番怖い。だから分からないままがいい」ということを、マシスンもスピルバーグもよく分かっているのだ。
犯人が姿を見せて何もかも分かったところで突如つまらなくなる映画は数多いが、本作はそんな愚を犯さない。
◇
撮影期間が16日しかなく、極めて慌ただしい撮影だったということだが、カット割りは良く練られているし、実際の走行速度は知らないが、トレーラーは猛スピードで走っているように見える。
デビッドのクルマ(クライスラー・プリムス)は砂漠でも目立つように赤く、追う大型トレーラーには、ライトやノーズが動物の顔のように見える車種が選ばれている。
砂埃で汚れまみれの車体にflammable(可燃物)とデカく書かれているのも雰囲気あり。執拗に赤いクルマを追うトレーラーの姿は大型動物の動きに近い。後の『JAWS』にも通ずるのか。
仲良く喧嘩しな
大きな図体が、赤い小型車を相手に退屈しのぎに追いかけているような姿は、『トム&ジェリー』のようにみえると思ったら、スピルバーグも「イメージは猫と鼠なんだ」と語っていた。
トレーラーの窓から伸びた手が、先に行けと道を譲る。真に受けて車線を飛び出し追い抜こうとするデビッドは、対向車線に現れたクルマと正面衝突しかける。
かと思えば、背後から近づいてくるトレーラーが踏切で貨物列車の通過待ちをするデビッドを背後から押し出そうとする。トレーラーはデビッドを甘噛みどころか、本当に殺してしまいかねない。
途中、エンストしたスクールバスの運転手から、押しがけを頼まれるデビッド。日本なら人力で押すところを、米国ではクルマのバンパーを当てて押すのが凄い。米国のクルマはみんな車体がボロボロになるわけだ。
結局、そのスクールバスを押してくれるのはトレーラー。こいつは、デビッドだけを目の敵にしているのだ。
かと思ったら、その後ガソリンスタンドで電話ボックスごとデビッドを押しつぶしかけた時には、スタンドで女主人が飼っていた大量の蛇までメチャクチャにしてしまい、彼女が悲鳴を上げる。
迫力満点のシーンだが、トレーラーが猛威を振るうのはデビッドだけにして、他の市民は害を被らないとした方が、一層孤立感がでて良かったのではないかと思う。
最後はデビッドが脱出し、クルマごと体当たりさせたことで、トレーラーは谷底へ転落。原作以上に派手なエンディングとなった。15分水増しせずに当初の74分版のほうが、更に作品としては引き締まったようにも思う。
頼みの綱と思ってデビッドが走り寄った警察車両が、実は害虫駆除の営業車(車上のサイレンに見えたのは害虫のオブジェ!)だったのは笑。
原題の“Duel”とは決闘の意味だが(リドリースコットの初監督作も『デュエリスト/決闘者』だった)、『激突!』という邦題はイメージし易い。
ただ、その後のスピルバーグの劇場映画初監督作の邦題だけを『続・激突! カージャック』としたのには、さすがに無理がある。そもそも何の関連性もない作品だしね。