『ビートルジュース ビートルジュース』
Beetlejuice Beetlejuice
36年ぶりの続編登場とは驚いた、ティム・バートンの初期の名作『ビートルジュース』。主要キャストの続投も嬉しい。
公開:2024 年 時間:105分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ティム・バートン
脚本: アルフレッド・ガフ
マイルズ・ミラー
原案: セス・グレアム=スミス
キャスト
ビートルジュース: マイケル・キートン
リディア・ディーツ: ウィノナ・ライダー
デリア・ディーツ: キャサリン・オハラ
アストリッド・ディーツ:ジェナ・オルテガ
ローリー: ジャスティン・セロー
ドロレス: モニカ・ベルッチ
ウルフ・ジャクソン: ウィレム・デフォー
ジェレミー: アーサー・コンティ
リチャード: サンティアゴ・カブレラ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
死後の世界で「人間怖がらせ屋」を営む推定年齢600歳のビートルジュース(マイケル・キートン)は、かつて結婚を迫るもかなわなかったリディア(ウィノナ・ライダー)のことをいまだに忘れられずにいた。
リディアは自身の霊能力を生かしてテレビ番組の司会者として活躍しているが、私生活では一人娘アストリッド(ジェナ・オルテガ)との関係に頭を悩ませている。
アストリッドは幽霊の存在を信じておらず、母の霊能力もインチキだと思っているのだ。
ある日、数世紀前から死後の世界の倉庫に封じられていたビートルジュースの元妻ドロレス(モニカ・ベルッチ)が復活し、ビートルジュースに対して復讐を企てる。
一方、アストリッドが死後の世界に囚われてしまい、リディアは最終手段として、結婚を条件にビートルジュースに助けを求める。願ってもないチャンス到来だ。
レビュー(まずはネタバレなし)
その名を三回呼んだらダメ
トム・クルーズの『トップガン』が36年ぶりの続編で大ヒットするのなら、ティム・バートン監督の初期の痛快ホラーコメディ『ビートルジュース』だって36年ぶりに新作を登場させてもおかしくないだろう。
誰がそう考えたか知らないが、久々に<人間怖がらせ屋>のあの男が戻ってくる。推定年齢600歳というから、36年程度の経過では見た目も大差ない。
◇
その名を三回唱えると、「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」とハクション大魔王のように現れるビートルジュース。演じるのは勿論マイケル・キートン。
そして前作でゴーストハウスに暮らす一家の中で霊感の強い娘だったリディアは、本作では母役に成長。こちらも前回と同キャストのウィノナ・ライダー。
タイトルが奮ってるよね。『ビートルジュース2』とはせずに『ビートルジュース ビートルジュース』。もし三作目ができたら、タイトル言うたびに本人が地獄から降臨しちゃうよ。
時代遅れの笑いかと思ったら
近年は洋画の興行成績は苦戦が続いているし、ホラーコメディという二ッチなカテゴリーだけに、ティム・バートン監督のネーム・ブランドだけでは大量動員は厳しいかもしれない。
『シザーハンズ』や『チャーリーとチョコレート工場』に代表されるダークファンタジーはティム・バートンの得意とするところだが、本作のようなブラックユーモアで笑わすホラーは彼のフィルモグラフィでもやや異端児扱い。
前作公開時の80年代ならまだしも、この手の手作り感たっぷりなホラーコメディが現代に受け容れられるかは、正直不安だった。ポスタービジュアルをみたって、どうにも古臭いし。
だが、蓋を開けるとそんなものは余計な心配だった。CG全盛の世の中だからこそ、手作り感溢れる映像には温かみを感じ、また前作からの継承も感じることができる。
◇
そして脚本には、前作以上にビートルジュースのキャラクターに深みが与えられ、あろうことか、この不可解な主人公に頼り甲斐や人間味まで感じられるようになっている。
時代に合わせてチューニングした部分と、しっかり変えずにいる部分が程よく融合しているのだ。衝撃度は前作に及ばないが、作品としてのまとまりは本作の方がよいように思えた。笑えるホラーとしては予想外の満足感。
懐かしメンバー続投がうれしい
映画は冒頭、ニューイングランドの田舎町の俯瞰ショット。そこから丘の上の大きな屋敷にカメラが近づくと、それが模型にすり替わっている。ここまでは前作とまったく同様の流れだ。
◇
霊能力を生かしてテレビ番組の司会者として活躍するリディア(ウィノナ・ライダー)。
リディアには亡き夫との間に高校生の娘・アストリッド(ジェナ・オルテガ)がいる。かつて幽霊のいたゴーストハウスには、アストリッドと母リディア、それに芸術家の祖母のデリア(キャサリン・オハラ)の三人暮らし。
祖父チャールズは最近、飛行機墜落でサメに喰われて死んでしまった(この経緯をアニメで説明)。前作のメインキャラだった、この屋敷の元オーナーで町の模型を作っていた幽霊夫婦は本作には登場せず。
◇
前作の内容については、ほんのわずかしか説明されないので、未見だと把握しにくい気はするが、かといって本作を楽しむのにさして支障はない。
前作からの続投はマイケル・キートンとウィノナ・ライダー、それにキャサリン・オハラ。チャールズはサメに上半身喰われたので、前回キャストは登場しない。
個性派揃いの新キャスト
忌まわしい過去であるビートルジュースの姿をなぜか最近霊視してしまうようになり、リディアは不安を感じ始める。そんなリディアの霊能力を疑っているのが娘のアストリッド。何せ、母は死んだ父との交信もできないのだ。
一般家庭とは大きく違う霊媒師の母を持つ苦労にうんざりのアストリッドは、町で知り合った青年ジェレミー(アーサー・コンティ)と親しくなり、一緒にハロウィンを過ごすことに。
一方のリディアは自分の番組プロデューサーであるローリー(ジャスティン・セロー)とついに結婚することになる。そんなこんなでごたつく中、ついにローリーのご発声でビートルジュース登場!
霊界ではこのビートルジュースの知らないうちに、元妻であり何世紀もバラバラ死体で封印されていた<魂を吸い取る人>のドロレス(モニカ・ベルッチ)が復活し、復讐のため彼を狙っている。
魂を吸い込む魔女的なヴィランのキャラは珍しくないが、モニカ・ベルッチが演じるとなると新鮮。バラバラの四肢をホチキス留めする姿さえ妖艶だ。
更には、生前は映画俳優、死後は刑事をやっているウルフ・ジャクソン(ウィレム・デフォー)も登場し、霊界もざわついている状況。そこにアストリッドが、みんなを巻き込むトリガーとなる大事件に出くわす。
ウィレム・デフォーは『哀れなるものたち』あたりから、本作の刑事のような変わり者の役でないとむしろ物足りなさを感じるようになってしまったな。
◇
前作でウィノナ・ライダーが演じたような娘役を、本作ではジェナ・オルテガが演じている。ティム・バートンのNETFLIXドラマ『ウェンズデー』にアダムス・ファミリーの娘として主演。『X エックス』のスクリーム・クイーンの印象が鮮明。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
ビートルジュースの暮らす死後の世界が実に楽しく描かれている。ファンキーなソウル・トレインの列車内で踊りまくったり、『DUNE デューン 砂の惑星』でお馴染みのサンドワームが出てきたり(こっちは可愛いヤツだけど)。
死んでる連中が大勢登場して、コワ面白い場面は豊富にあるのだけれど、驚いたことに、じんわり感動のシーンも存在するのだ。
アストリッドのボーイフレンドになったと思われたジェレミーが、実は何年も前に両親を殺害して死んだ若者。彼女を騙して霊界に連れて行き、自分の代わりに死者となるように策略する。
そんな彼女を救い出そうと、母のリディアはビートルジュースにすがるのだが、霊界には亡くなった父リチャード(サンティアゴ・カブレラ)がおり、娘のために悪戦苦闘する。これが泣ける。
この作品に出てくる霊界って、ピクサーの名作『リメンバー・ミー』によく似ている。あの映画では死後の世界の描き方に愛と希望が溢れていたが、このホラーコメディがそれに通底しているとは。
そういえば、上半身サメに喰われた祖父だって、ピクサーの『2分の1の魔法』のお父さんと同じ造形だ。『ダンボ』をはじめティム・バートンとディズニーの関係は深いが、このオマージュはその繋がりか。
約束通りあなたと結婚するから娘を助けて、そうリディアに頼まれて、ビートルジュースは一応ちゃんと働く。
結果的にアストリッドは生還したし、元妻のドロレスの魔の手からも逃れられたのだが、約束したはずの結婚はどうも反故にされてしまったようで、ちょっと気の毒ではある。
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ラストは『エイリアン ロムルス』のように(ウィノナ・ライダーなら『エイリアン4』かね)魔物の出産シーンで終わる。生まれるのはチャッキーみたいな赤ん坊。
このブラックユーモアは本作らしいが、なんか頑張ったわりには浮かばれないなあ、ビートルジュース。