『ラストマイル』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ラストマイル』考察とネタバレ|すべてはお客さまのために

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『ラストマイル』

野木亜紀子の傑作ドラマ『アンナチュラル』『MIU404』とユニバースを共有する世界で起きた宅配物爆破事件。

公開:2024 年  時間:128分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:       塚原あゆ子
脚本:       野木亜紀子
製作:        新井順子
キャスト
舟渡エレナ:    満島ひかり
梨本孔:       岡田将生
五十嵐道元:ディーン・フジオカ
八木竜平:     阿部サダヲ
佐野昭:       火野正平
佐野亘:       宇野祥平
刈谷刑事:       酒向芳
毛利刑事:      大倉孝二
小田島処理班長:   丸山智己
松本里帆:      安藤玉恵

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2024「ラストマイル」製作委員会

あらすじ

流通業界最大のイベントである11月のブラックフライデー前夜、世界規模のショッピングサイトの関東センターから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生し、やがて日本中を恐怖に陥れる連続爆破事件へと発展する。

関東センター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)とともに事態の収拾にあたるが…。

レビュー(まずはネタバレなし)

『アンナチュラル』『MIU404』という傑作ドラマを生んだ塚原あゆ子監督と脚本家・野木亜紀子、製作の新井順子の最強女子トリオが、それらと同じユニバースを共有する映画を撮る。

これはもう、観る前から期待値爆上がりで、ついドラマも観直してしまった。観終わった感想からいえば、さすがの一言に尽きる。

人気ドラマの延長線上に劇場版なるものを作って、普段よりもスケールアップしたドラマをスクリーンで見せる手法は、どこのテレビ局でもやっている。本作にも登場する松重豊『孤独のグルメ』だって、近々映画になるらしい。

だが、高視聴率を稼いだドラマを素直に映画化するのではなく、その出演者たちが共存する世界で起きる、業種も主人公もまったく異なる事件をメインにするというのは、斬新な試みだ。スピンオフというのとも違う。

タイトルに『ラストマイル』とあるのは、サプライチェーンでいう”ラストワンマイル”、つまり集配センターから届け先までの担い手のことだ。

(C)2024「ラストマイル」製作委員会

今回の舞台は、世界規模のショッピングサイト“DAILY FAST”の関東配送センター。急遽辞令をもらい福岡から着任した新センター長の舟渡エレナ(満島ひかり)が、マネージャーの梨本孔(岡田将生)と顔合わせしたばかりだというのに、事件が起きる。

配送したDAILY FASTの商品の段ボール箱を開けた途端に爆発する事件が多発。爆発するのはどれも同社のサイト購入品。はたして誰が、何の目的で、そして厳重な管理体制の中でどうやって爆弾を仕掛けたのか。

刑事たち(酒向芳、大倉孝二)には出荷の一時停止を求められるが、米国本社や日本の統括本部長・五十嵐(ディーン・フジオカ)からはブラックフライデー前の厳しいノルマが課せられ、板挟みになりながら謎を追うエレナと梨本。

(C)2024「ラストマイル」製作委員会

そして無理難題のしわ寄せは、配送委託先の羊急便の局長(阿部サダオ)を経て実際に荷物を手渡しする配送ドライバー(火野正平&宇野祥平SHOHEI父子)にも及ぶ。

緻密さとサプライズが売りの野木亜紀子脚本だから、内容について多くは語れないのだが、まずこの配送センターという舞台設定が面白い。

まるで全便欠航でごった返す空港か、はたまたドームのライブ会場かというほど大量の勤務者(ブラックフライデー前なので短期労働者も多い)が次々と収容されていく巨大配送センターが圧巻。

“DAILY FAST”のモデルは勿論Amazonだろうが、自動配送の仕組みとこの巨大センターの動きは見ているだけでも楽しくなる

配送員や仕分け作業員の悲哀は、ケン・ローチ『家族を想うとき』クロエ・ジャオ『ノマドランド』などでも見かけるが、これを爆弾事件と繋げる発想は斬新だ。

そしてその爆発にしても、迫力がある。劇場版になるとドラマよりも潤沢な製作費を誤った方向に使ってしまい作品世界を破綻させる例も少なくないが、本作はそんな愚は犯さない。

最初の小包爆弾は個人宅、それに続く爆破現場はそれぞれ届け先や爆破場所にも変化があり、しかもCG合成とはいえ、出来栄えが美しい。

爆破のスケールがショボいと、作品が一気にチープに見えるが、本作はそこをしっかりクリアしている。

宅配の荷物が届いて箱を開けるという動作は、大抵の人が日常的に行っていることだけに、それが爆発するという仕掛けは相当怖い郵便物の炭疽菌騒動よりもはるかに怖い。

こんな映画公開したら、ECの売上減っちゃうんじゃないかと心配になる。ブラックフライデーの売上に響くとAmazon様に怒られるから、11月の物語なのに真夏に公開したのかもしれない。

感心するのは、ユニバースをシェアする他作品の関与度合い。

MIUのロゴが背中についた作業着のメンバーが登場するだけでファンとしては盛り上がるが、このドラマ班の連中があまり活躍しすぎても、本作の主要メンバーの存在感が薄らいでしまう。

かといって、チラ見せだけのカメオ出演では物足りないわけで、その辺のバランスを絶妙に保ちながら、話を進めていくのは心憎い。

もっとも、人一倍気が強くて勘も冴えるUDIラボのミコト(石原さとみ)なんかがあまり幅を利かせると、主役のエレナ(満島ひかり)とキャラが被ってしまうので、このバランスは必然なのかも。

(C)2024「ラストマイル」製作委員会

ちなみに、『MIU404』では、綾野剛星野源のバディも他のメンバーも健在。まるごとメロンパン号もしっかり登場。麻生久美子は西武蔵野警察署署長役で事件の指揮を執る。

一方『アンナチュラル』UDIラボも焼け焦げ遺体の調査で登場。石原さとみ井浦新はじめ、メンバー総出演。窪田正孝も無事に研修医に戻っていて一安心。

本作は事件の内容自体が重苦しいため、主要メンバーは阿部サダヲでさえもほとんど笑いを取りに行かない。その重たさを『MIU404』綾野剛『アンナチュラル』飯尾和樹あたりが少しボケて軽減してくれる。

既存ドラマキャラの中で主要メンバーとして活躍するのは、刈谷刑事(酒向芳)毛利刑事(大倉孝二)。捜査の進行には大して貢献していない気もするが、この二人の出番が多いのは結構嬉しい。

満島ひかりが演じる主人公・舟渡エレナ役の卓越したバイタリティや、自社の商品をしこたま買い込んで会社に寝泊まりする破天荒ぶりが楽しい。だが、彼女にも不透明な氏素性が垣間見えてくる。

まるで『1秒先の彼』みたいなポスタービジュアルの岡田将生が演じるマネージャーの梨本も、はじめはエレナと共闘しているが、何か裏の顔があってもおかしくなさそう。

ところでこの二人の共演は傑作『悪人』(2010、李相日監督)以来ではないか?あの時はイケメン岡田にのぼせる博多の女子大生満島だった。ひょっとして福岡から異動したのはその楽屋ネタか。

(C)2024「ラストマイル」製作委員会

エレナに敵対する非情なイケメン野郎はどうやら岡田将生ではなく、上司の統括本部長・五十嵐役のディーン・フジオカ。このキャラはさすがに、実はいい人でした、なんてことにはならないか。

本作のミステリーとしてのキレは、傑作ドラマ勢に比べるともう一つかもしれないが、どうやって爆弾を忍び込ませたのか、そして最後の一個はどうなるか等、相変わらず仕掛けはいろいろと凝っている。

一見関係がみえないシングルマザーの安藤玉恵とその娘たちも物語に絡んでくるし、公開日時点ではまだ公表されていない出演者も重要な役を担っている。

ラストマイルの看板を背負って、火野正平宇野祥平ダブルSHOHEI親子がしっかりと配送の仕事を全うするところも泣かせるではないか。明日から、宅配便の配送員の皆さんには、もっと感謝の気持ちをもって接しよう。

(C)2024「ラストマイル」製作委員会

ドラマの劇場版ではないが、このシェアード・ユニバースでの映画化というのは面白い試みだった。小説でいえば、誉田哲也『姫川玲子』『歌舞伎町セブン』が同じ作品に登場した時のような興奮がある。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

福岡から飛んできたエレナがなぜ時差で眠くて英語も堪能なのか、配送の宇野祥平が勤めていた家電メーカー倒産はどういう伏線なのか、そして爆弾はどうやって仕込んだのか。その辺を細かく書くのは野暮なのでこれは割愛。

ここでは、過去にセンターの最上階から1階に飛び降りて頭を打ち、植物人間になってしまった山崎(中村倫也)ダイイングメッセージについて触れたい。

彼がロッカーに残した落書きには、「2.7m/s 70kg 0」といった文字が書かれている。これはオープニングにも登場しており、最初にヒントを与えるクリストファー・ノーラン監督風の手法だが、これだけで謎は解けない。

映画では、秒速2.7mのベルトコンベアに制限重量70キロを載せれば停止するという意味に読めた。但し、このゼロが二十丸にも見え、野木脚本なら更に深読みができるのかもしれない。

ブラックフライデー前にプレッシャーで精神破綻した山崎は、飛び降りた自らの体重でコンベアを止めようとした。

だが、当時のセンター長だった五十嵐(ディーン・フジオカ)「死んでも止めるな!」とコンベアを再稼働させた。頭から血を流し重体の職員を脇にまずラインを動かす社畜根性が恐ろしい。

(C)2024「ラストマイル」製作委員会

爆破事件は、山崎の恋人が、彼を追い詰めた会社への復讐のために起こした事件だ。彼女自身も犠牲者となっているため、美化されて見えたが、無差別に一般人を死傷させている重い事実を忘れてはならない。

本作のラストで五十嵐は初めてその落書きを見て驚く。彼は、山崎が命を賭して止めようとしたラインを、自分がいとも簡単に再稼働させた事実にようやく気付いたのかもしれない。

最後の曲は米津玄師「がらくた」。塚原・野木のドラマならば、「Lemon」「感電」が流れてくる直前で、次の事件や謎につながる何かが起きるはずだが、単発映画だからさすがにそれはないか。