『フォローミー』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『フォロー・ミー』今更レビュー|ミアファローのフォローミー、回文か?

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『フォロー・ミー』
Follow Me! / The Public Eye

キャロル・リード監督が最期に届けてくれた恋愛映画の佳作。ミア・ファロー演じる妻の浮気を疑う夫が雇った探偵の調査結果は…。

公開:1972 年  時間:94分  
製作国:イギリス

スタッフ 
監督:         キャロル・リード
脚本:      ピーター・シェーファー

キャスト
ベリンダ・シドリー:   ミア・ファロー
チャールズ・シドリー:

         マイケル・ジェイストン
ジュリアン・クリストフォルー:  トポル
シドリー夫人:マーガレット・ローリングス

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

あらすじ

英国の上流階級に属し、財産もあり、仕事も申し分のない会計士のチャールズ(マイケル・ジェイストン)だが、彼には大きな悩みがあった。妻のベリンダ(ミア・ファロー)が浮気をしているのではないか、という疑惑に苛まれてしまったのだ。

チャールズは私立探偵のクリストフォルー(トポル)に妻の素行調査を依頼する。クリストフォルーはつかず離れずの距離でベリンダの尾行をはじめた。

ささやかな自由と愛情に飢えていたベリンダは、微妙な距離で見えるクリストフォルーの優しいまなざしに興味を抱きはじめる。

今更レビュー(後半ネタバレあり)

『第三の男』キャロル・リード監督の遺作となった小粋な恋愛映画。とはいえ、世間的には広く知られた作品ではないと思う。

私もまったくノーマークだったのだが2010年の第一回「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」で、リクエスト第4位に選出されている。

上位の顔ぶれ(『ショーシャンクの空に』・『サウンド・オブ・ミュージック』・『ニュー・シネマ・パラダイス』)を観れば、この順位が驚異に値することが分かるだろう。

本作は過去に劇場公開され、テレビ放映はされたものの、ソフト化もされず、埋もれた佳作となっていたようだ。それがここにきて日の目を見た。

近年では『#フォロー・ミー』などというホラー映画もあるようで紛らわしいのだが、本作は現代的人間関係の縮図のような街・ロンドンを舞台に、人のふれあいや夫婦の絆を問いかける心が穏やかになる映画。

原題の”The Public Eye”が分かりにくいので、このタイトルになったようだ。鍵を握るのが私立探偵なのだから、”The Private Eye”ではないのかと思った。

だが、元ネタであるピーター・シェーファーの演劇が”The Private Ear & The Public Eye”と、対になった二つの物語で構成されている。本作は片方だけを映画化したものなので、”The Public Eye”となるわけだ。

元ヒッピーの妻ベリンダ(ミア・ファロー)が日中いつも出歩いており、浮気を疑う会計士の夫チャールズ(マイケル・ジェイストン)は探偵事務所に浮気調査を依頼する。

そこに派遣された白いコートの探偵クリストフォルー(トポル)が、何日間かの調査結果をチャールズに報告するというのが大きな話の流れになっている。

妻は浮気をしているのか、相手はどんな男なのか。

その答えを持っているクリストフォルーはすぐに調査結果を報告することなく、まずはチャールズにベリンダとのなれそめを聞き、夫の妻に対する思いを確認する。その後、調査結果にある妻の行動が、回想シーンのように挿入される。

妻の浮気調査を依頼したところが思わぬ結果に繋がるところは、三浦春馬主演の『東京公園』(青山真治監督)に通ずるが、それもそのはず、小路幸也の原作小説『東京公園』は、巻末に for follow me とあり、本作にオマージュが捧げられている。

ただ、それにしては、本作を観終わったあとに比べ、『東京公園』原作も映画も幸福感に乏しい。なぜだろう。

『東京公園』では、子連れで公園巡りをする妻(井川遥)の謎めいた行動に答えを用意していたが(無理筋だけど)、本作はそこに期待すると肩すかしになる。

ここから若干ネタバレになります。妻のベリンダの私生活に男の影はなかったが、彼女から見れば、ここ何日か常にそばにいる白いコートの男がいる。

普通なら不審人物に警戒を強めるところだが、孤独な彼女は、どこか憎めない風貌のその人物に、次第に気を赦していく。その人物こそ、誰あろう探偵クリストフォルーなのである。

このクリストフォルーなる人物が、ハードボイルドな堅物だったら作品は成り立たないし、調査対象の妻をすぐに口説いて肉体関係を持ってしまう探偵マイク・ハマー系なキャラでもダメだ。

だが、トポル演じるこの陽気な探偵は、とっくに尾行に気づかれたベリンダを追い回すうちに、彼女にとって、ボディガードのような安心できる存在になってゆく。

言葉ひとつ交わさないのに、二人でロンドン中の食べ物の名のストリートやホラー映画館、迷路の森などを散策し、孤独を癒していく。

トポル『屋根の上のバイオリン弾き』で知られるイスラエルの俳優。劇中では「会計はカイロ大学で学んだ」などという台詞も登場し、都知事選での学歴詐称疑惑を思い出す。

探偵クリストフォルーはポケットにマカロン(それも特大サイズ)、カバンには非常食のバナナやリンゴを常時携行し、尾行中にはアイスキャンディーを頬張り、探偵としては頼りなさそうだが、柔道のたしなみがある。

本作の魅力は、このトポル演じるキャラクターによるところが大きい。

そして主人公・ベリンダ役のミア・ファロー

本作の数年前のヒット作『ローズマリーの赤ちゃん』、或いは2年後の『華麗なるギャツビー』、その後にウディ・アレンの数ある出演作でも印象深い『カイロの紫のバラ』など、彼女の役柄は幸薄く、孤独な女性の印象が強いが、本作も例外ではない。

彼女の演じるベリンダは、元ヒッピーで米国からロンドンにやってきて、レストランのウェイトレスだったところをチャールズに見初められ、やがて結婚。

だが、階級意識の高いチャールズの家柄や交友関係に馴染めず、いつしか息苦しい夫婦関係に。

上流社会のパーティで「浮気夫はアレをちょん切る刑に処すればいい」などと発言して総スカンを喰うベリンダは、『マイフェアレディ』オードリー・ヘプバーンのよう。

「結婚したら、恋愛は終わりなの?」

夫の前で不満を口にする、ミア・ファローがチャーミングだ。

そして夫のチャールズは、良家のボンボンで、いい歳しても母と毎週の会食を欠かさず、妻を見下して何事も教え込もうとし、勝手に浮気を疑って探偵を雇う。

好印象のキャラクターである二人の割を食って、嫌われ者の役割を一手に担うマイケル・ジェイストン。だが、いやだからこそ、ラストのシーンが効果を発揮する。

別れを切り出された妻が家に戻ってくる条件は、クリストフォルーがそうしたように、10日間彼女の行動をひたすら尾行。会話も許されない。

「会計事務所の仕事を休んで、10日間も無言で尾行などできるか!」

気位の高い英国紳士が、最後にマカロン片手に見せる表情のギャップ萌えが、何とも心を和ませる。

名匠キャロル・リード監督は、もっとお堅い映画しか撮らないのだと誤解していたが、最期にこんなに粋な置き土産を遺してくれていたとは。