1.『ホビット 思いがけない冒険』
2.『ホビット 竜に奪われた王国』
3.『ホビット 決戦のゆくえ』
『ホビット 思いがけない冒険』
The Hobbit: An Unexpected Journey
ピーター・ジャクソン監督の三部作。『ロード・オブ・ザ・リング』の前日譚。
公開:2012 年 時間:169分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ピーター・ジャクソン 脚本: フラン・ウォルシュ フィリッパ・ボウエン ピーター・ジャクソン ギレルモ・デル・トロ 原作: J・R・R・トールキン 『ホビットの冒険』 キャスト ビルボ・バギンズ:マーティン・フリーマン (晩年) イアン・ホルム ガンダルフ(灰): イアン・マッケラン スランドゥイル: リー・ペイス エルロンド: ヒューゴ・ウィーヴィング ガラドリエル: ケイト・ブランシェット サルマン(白): クリストファー・リー ラダガスト(茶)シルヴェスター・マッコイ フロド・バギンズ: イライジャ・ウッド ゴラム: アンディ・サーキス <13人のドワーフ> トーリン・オーケンシールド: リチャード・アーミティッジ バーリン/①兄: ケン・ストット ドワーリン/①弟: グレアム・マクタヴィッシュ フィーリ/②兄: ディーン・オゴーマン キーリ/②弟: エイダン・ターナー ドーリ/③長男: マーク・ハドロウ ノーリ/③次男: ジェド・ブロフィー オーリ/③三男: アダム・ブラウン オイン/④兄: ジョン・カレン グローイン/④弟:ピーター・ハンブルトン ボンブール/⑤兄:スティーヴン・ハンター ボフール/⑤弟: ジェームズ・ネスビット ビフール/⑤従兄:ウィリアム・キルシャー
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
あらすじ
ホビット族のビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)は魔法使いのガンダルフ(イアン・マッケラン)に誘われ、13人のドワーフたちと共に、恐るべき邪竜“スマウグ”に奪われたドワーフの王国エレボールを取り戻すという危険な冒険に加わる。
彼らは凶暴な魔狼、そして謎の魔術師たちがうごめく危険な荒野や、ゴブリンが潜むトンネルを抜けていかねばならない。
ビルボはそこで、彼の人生を変えてしまう生き物ゴラム(アンディ・サーキス)と出会い、金の指輪を手に入れる。この質素な指輪が中つ国の命運を握っているとは、そのときビルボは知るよしもなかった。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
ロード・オブ・ザ・リングの前に
『ロード・オブ・ザ・リング』(以下、LOTR)三部作の大人気と高い評価にあやかって、その前章となるJ・R・R・トールキンの「ホビットの冒険」を映画化した新たなる三部作。
あのフロドたちの冒険から60年前の中つ国(ミドル・アース)を舞台に、フロドに指輪を譲ったビルボ・バギンズが当時の冒険譚を回想する形式で物語が始まる。
監督は前シリーズからのピーター・ジャクソンの続投。当初は前作からの変化を求めて、ギレルモ・デル・トロの起用を検討していたが、スケジュール調整に難航し、結局自身でメガホンを取る。ギレルモは途中まで脚本には参画していたようだ。
ピーター・ジャクソンが危惧していたほど、本作はLOTRに似たものにはなっていない。
同じ冒険の物語だが、恐ろしい力を宿した指輪を葬り去る場所を目指す、よくいえばシリアス一辺倒、言ってしまえば悲壮感が全編に漂う前シリーズに比べ、本作は(危険度は同じなのかもしれないが)随分と明るく陽気な印象。
失われた王の末裔として、国の再建を目指して冒険の旅を統率し、戦士としても頼りになるキャラとして、LOTRのアラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン)のような中心的人物になるのがトーリン・オーケンシールド(リチャード・アーミティッジ)。
彼を含め13人のドワーフたちと灰の魔法使いガンダルフ(イアン・マッケラン)そして主人公のビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)が旅の仲間たちだ。
この若きビルボ、近年ではMCUの『ブラックパンサー』などで活躍するCIA捜査官エヴェレット・ロス役のマーティン・フリーマンではないか。すっかり見落としていた。
<思いがけない冒険>とあるように、自分の家で平和に過ごす日常が好きなホビット族のビルボの家に、唐突にガンダルフが現れ、その後次々に面識のないドワーフたちが彼の家にやってきて大宴会を繰り広げる。
はじめの方のバーリン(ケン・ストット)とドワーリン(グレアム・マクタヴィッシュ)の兄弟、それに続く数人まではまだ印象にあるが、正直いって13人のメンバーの大半は名前も顔も覚束ない。
これはLOTRとの大きな違い。あちらはメンバー全員の名前と顔が認識できていた。もっとも、人数の差もあるし、あちらはエルフやホビット等の部族混在、こちらはほぼ全員ドワーフという違いはあるが。
指輪を拾っただけなのに
前作の60年前となるため、ビルボ役のイアン・ホルムはマーティン・フリーマンに若返りだが、魔法使いのガンダルフは何百年も生きるせいか、演者はイアン・マッケランのままだ。
LOTR世代では、ビルボが物語を回想し語る相手にフロド(イライジャ・ウッド)がカメオ出演。
また冒険の途中でエルフのエルロンド(ヒューゴ・ウィーヴィング)やガラドリエル(ケイト・ブランシェット)、白の魔法使いサルマン(クリストファー・リー)もワンシーンに登場、本作ではまだ正体を現していない模様。
そして物語に大きく絡んでくるのがゴラム(アンディ・サーキス)。地底湖に落ちたビルボが洞窟でゴラムに遭遇。そこでゴラムが落とした指輪を彼が拾いポケットにしまったところから、新たな所有者となる。
ゲーム好きなゴラムとのなぞなぞ対決、そして自分が<いとしいしと>を無くしたと気づき、ビルボが盗んだと疑い発狂せんばかりに動揺するゴラムがどこか気の毒にみえる。
思えば、この時ビルボは、ただ落ちている指輪を拾っただけなのだ。正当な所有者というには、ちょっと冴えない。
今のところ、みんないい感じ
本作は全体的に物語が駆け足で進むことはなく、じっくり丁寧に原作を映画化している印象。前シリーズと同じ各編160分近い三部作構成とするには、元ネタの原作がそれほど長編ではないため、余裕があるのだろうか。
例えば、次のシーンなどは、原作に遜色なく丹念に描かれている。
- ドワーフたちがビルボの家で大宴会を始めるところから、はじめは嫌がりながらも、意を決し危険な冒険の契約書にビルボが署名する導入部
- ゴラムとのなぞなぞ合戦から、戦って最後にゴラムの息の根を止めずにビルボが逃がしてやるまでの指輪との出会い
- ホビットは旅の仲間には不向きだとトーリンに厳しく言われ一旦は群れを離れ脱落しかけたビルボが、最後には宿敵アゾグに首を刎ねられそうになるトーリンを救い、仲間として認められるところ
物語がゆっくりと進むゆえに、感慨も深い。この、原作には殆ど登場しないといっていいオークの首領アゾグは、本作では悪役として唯一キャラが立っている存在で、なかなか魅力的なヴィラン。
13人のドワーフらに旅の仲間として認められたビルボも、自ら契約書に署名して参加しただけあって仲間のためにという意識も強く、前シリーズで横暴な行動が鼻に付いたフロドより、今のところ好感のもてるキャラと思える。