『パレード』
微妙な距離感の男女のルームシェア、吉田修一の同名原作を行定勲監督が映画化。
公開:2010 年 時間:118分
製作国:日本
スタッフ
監督: 行定勲
原作: 吉田修一
『パレード』
キャスト
伊原直輝: 藤原竜也
相馬未来: 香里奈
大河内琴美: 貫地谷しほり
小窪サトル: 林遣都
杉本良介: 小出恵介
丸山友彦: 竹財輝之助
美咲: 野波麻帆
松園貴和子: 中村ゆり
松園浩志: 波岡一喜
梅崎: 三浦誠己
隣人: 正名僕蔵
野口良夫: 石橋蓮司
女社長: キムラ緑子
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
都内のマンションの一室。本来は映画配給会社に勤める直輝(藤原竜也)が借りるこの部屋は、いつしか売れないイラストレーターの未来(香里奈)、大学生の良介(小出恵介)、若手俳優と熱愛中の琴美(貫地谷しほり)、男女四人がルームシェアする共同生活の場となっていた。
それぞれ悩みを抱える一方、四人は互いの内面には干渉せず、理想的な自分を装うことでぬるま湯のような日常を保っていた。だがある日、部屋にサトル(林遣都)と名乗る青年が転がり込んだことから四人の関係がゆがみだす。
今更レビュー(ネタバレあり)
若い男女のルームシェア
吉田修一の初めての書き下ろし長編である『パレード』を行定勲監督が映画化。3月に配信したばかりの藤井道人監督が長澤まさみ主演で撮った作品レビューではないのでお間違えなく。
若い男女四人が狭いマンションの一室にルームシェアして住んでいるという設定と、人気俳優を集めたゴージャスなキャスティング。
まるでフジテレビのトレンディドラマのような楽しさとお気楽さを想像したくなるが、吉田修一がそんな生ぬるい話を書く訳がないか。
そう、本作は結構暗くて重たい内容なのだが、そうと見破られないように見た目は華やいだ風に取り繕っている。なぜか映画も原作もたまに思い出したように引っ張り出して観たり読んだりするのだが、実は苦手な作品である。
吉田修一の原作ものでは、同じ2010年公開の『悪人』があまりに良かっただけに、分が悪い。本作は舞台にもなっているが、部屋の中での会話劇にした方がフィットするようにも思う。
部屋に住むメンバーは四人。
- 長崎出身のお気楽そうな大学三年生の杉本良介(小出恵介)
- 若手人気俳優の丸山友彦と熱愛中で、彼の電話を待つだけの無職女、大垣内琴美(貫地谷しほり)
- 酒癖の悪いイラストレーター兼雑貨屋店長の相馬未来(香里奈)
- 映画配給会社勤務でジョギングが趣味の健康オタク伊原直輝(藤原竜也)
全員仲が良い訳でもないが、会話がない訳でもない。傷つかない距離感の生活。匿名性のないチャットルームのようなもの。リビングにいれば、必ず誰かが入ってきて会話が始まる。
そこにある日、泥酔した未来が路上から連れ込んだ男娼の小窪サトル(林遣都)が加わったことで、共同生活のバランスが崩れていく。
方向性がみえない
冒頭はマンションの部屋から聞こえるヘリの音。森田芳光の『間宮兄弟』のようなオープニングだが、このヘリは近隣の公園でおきた女性襲撃事件に関連している。
本作には、この世田谷でおきる連続女性襲撃事件や、未来がなぜか部屋でこっそり見ているレイプシーンを繋ぎ合わせたビデオというシリアスな要素がある。
一方で、隣人(正名僕蔵)が怪しい売春宿を営んでいるに違いないと良介が潜入捜査をしたり、琴美の恋人・丸山友彦(竹財輝之助)が昼メロのような陳腐な連ドラに出ていたりというコメディ要素もある。
これらが混然としており、はたして笑って観るべき作品なのか、リアクションに困る。
更には、ルームメイトの間に恋愛関係は発展しないが、良介が先輩の彼女(中村ゆり)を好きになって、つい略奪してしまうという展開もある。話の方向性を明らかにせずに、訳が分からないまま物語は進んでいく。
キャスティングについて
キャスティングは今見ても豪華だ。いろんな意味でもはやこのメンバーは集められないだろう。
良介役の小出恵介は、先輩の彼女の家に突然押しかけて行って寝てしまうような、性欲旺盛で能天気な大学生を演じている。
爽やかさと単細胞が共存する賑やかなキャラは彼に似合っているのだが、その後の小出恵介のしでかした不祥事を思うと、このような役の彼を観るのは複雑な心境。
人気俳優の恋人の電話を待つだけの毎日に文句も言わずに過ごしている琴美役には貫地谷しほり。こういう受け身な生き方に満足できる人もいるのか。
ゆるふわな貫地谷しほりは意外と珍しいかも。ただ後半、琴美は妊娠してしまい、自立に向けたちょっとした試練が待っている。
◇
香里奈が演じる未来は、メガネをかける程度では<イケてる女>感が誤魔化せてはいない。
新宿三丁目のオカマバーでバカ騒ぎして泥酔する陽気なキャラに見えて、レイプシーンのビデオを見てると臆病じゃなくなるという、屈折した悩みを抱えて生きている。
そんな未来が連れ帰った公園の立ちんぼだったサトルに林遣都。ムチャクチャ若い。小出恵介とは箱根駅伝を描いた『風が強く吹いている』(2009)以来の共演か。
男娼という訳アリな過去から、この共同生活に不思議な居心地の良さを感じる。
◇
そして、これらクセ強めの連中との共同生活のなかで、きちんと仕事もこなし、毎日ジョギングを欠かさない健康オタクの直輝役に藤原竜也。みんなの相談相手にもなっている良識派。ここに藤原竜也はフィットする。
吉田修一原作ものでは『太陽は動かない』(2020)にも主演しているが、藤原竜也は得意の追い詰められ系絶叫キャラよりは、こういうインテリ系良識派の方が似合うと思う。
ラストのサプライズには不満
本筋と関係の薄いエピソードの簡略化はあるが、概ね映画は比較的原作に忠実に撮られている。
一方で、自分が昔よく野宿していた場所だとサトルが未来を連れていく場所が、日比谷野音から閉園後の遊園地に変更になっている。
夜更けに遊園地に不法侵入してアトラクションに電源入れたらバレると思うが、一応映画的なシーンにはなっている。
ここからネタバレになるので、未見・未読の方はご留意願います。
さて、私が何より許せないのが終盤のサプライズ展開である。序盤から散々気を持たせた連続女性襲撃事件。その犯人がサトルではないかと未来は疑うが、それがひっかけ問題であることは想像がつく。
もっとも犯人から遠い存在のヤツが怪しいというのはセオリーではあるが、そうするには、もう少し納得的な描写とか、伏線回収とかが必要なのではないか。どんでん返しすればいいというものではないはずだ。
最後の襲撃シーンを見る限り、犯行は相当陰湿で凄惨だ。なのに、その事件を偶然目撃したサトルは犯人を庇い、「犯人の正体は、みんなハナから薄々気づいてたんじゃないかな」とさえいう。
そして二人で部屋に戻ると、みんな冷たい視線を一瞬浴びせつつ、犯人に普段通りに言葉を投げかける。
表面的に付き合いを続け、深入りしないのが共同生活の暗黙のルール。それは分かるけど、この犯罪はそんな甘いレベルを超えている。