『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』
Certain Women
ケリー・ライカート監督が豪華キャストで描く、モンタナの田舎町で奮闘する女たち
公開:2016 年 (劇場未公開)
時間:107分 製作国:アメリカ
スタッフ
監督・脚本: ケリー・ライカート
原作: マイリー・メロイ
キャスト
<エピソード1>
ローラ・ウェルズ: ローラ・ダーン
ウィリアム・フラー: ジャレッド・ハリス
<エピソード2>
ジーナ・ルイス: ミシェル・ウィリアムズ
ライアン・ルイス: ジェームズ・レグロス
ガスリー・ルイス: サラ・ロディエ
アルバート: ルネ・オーベルジョノワ
<エピソード3>
エリザベス・トラヴィス:
クリステン・スチュワート
ジェイミー: リリー・グラッドストーン
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
厄介なクライアントに振り回される弁護士のローラ(ローラ・ダーン)。新居の建設のことしか頭にないジーナ(ミシェル・ウィリアムズ)。
弁護士をしながら夜間学校で市民向けに法律を教えるエリザベス(クリステン・スチュワート)と牧場で孤独に馬と向き合うジェイミー(リリー・グラッドストーン)。
アメリカの小さな町の中でそれぞれ懸命に生きる彼女たちのたどり着く先にはどうなるのか。
今更レビュー(ネタバレあり)
今度の舞台はモンタナ
マイリー・メロイの短編小説をケリー・ライカート監督が映画化。これまでオレゴン州舞台の作品が多かった気もするが、今回の舞台はモンタナ。
厳寒の天気予報を伝えるラジオ放送や、寒々しい夜明けの田舎町を通過する列車。緊張感の漂うオープニングに、今回も彼女の才能を感じる。
◇
本作は短編小説の映画化だからか、この田舎町を舞台にした三つのエピソードで構成される。どれも女性が主人公だ。
原題は” Certain Women”、さすがに『或る女』では味気ないと思ったか、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』という、劇場未公開でも一応もっともらしい邦題がついている。
それぞれ簡単にあらすじを紹介したい。
<エピソード1>
弁護士のローラ・ウェルズ(ローラ・ダーン)が厄介な依頼人のウィリアム・フラー(ジャレッド・ハリス)に悩まされている。
フラーは仕事中の怪我で雇用主を訴えたいのだが、和解金を受け取った以上、訴訟できないことをローラは何度も説明してきた。
納得しないフラーのために、別の弁護士のもとに連れていくと、今度は素直に引き下がる。同じ説明でも、女であるローラではなく男性弁護士なら納得するのだ。
ローラは不満に思うが、その後、フラーは警備員を人質にとり、ローラの法律事務所に立て籠る。
<エピソード2>
新居を建設中の家族の話。妻のジーナ・ルイス(ミシェル・ウィリアムズ)は、新居の計画に夢中になっているが、夫のライアン(ジェームズ・レグロス)も反抗期の娘ガスリー(サラ・ロディエ)も非協力的だ。
ジーナは夫と、新居に使いたい砂岩を大量に保有する老人アルバート(ルネ・オーベルジョノワ)の家を訪ね、売ってほしいと交渉する。
最終的にアルバートは譲ってくれるが、彼はライアンとしか話をせず、ジーナにはろくに回答もしない。夫も、無理に砂岩を売ってくれなくてもいいなどと言い、ジーナの家族への不信感は募るばかりだ。
<エピソード3>
牧場主で孤独に馬と暮らしているジェイミー(リリー・グラッドストーン)が、気まぐれで法律学の夜間学校の授業に潜り込む。
それは、遠路はるばる授業を教えに来た弁護士のエリザベス・トラヴィス(クリステン・スチュワート)の最初の授業。
クルマで片道4時間かけて授業を教え、翌日には弁護士の仕事もこなさなければならないエリザベスは、この仕事に不満ばかり。だが、授業後にエリザベスの食事につきあううちに、ジェイミーは関心を寄せるようになる。
そして、突如連絡もなしにこの教職を降りたエリザベスに会うために、ジェイミーは4時間の道のりをクルマを走らせる。
主役はリリー・グラッドストーン
三つのエピソードは、内容的には独立しているが、この手の短編集にありがちな手法で、ほんの少しだけ話を絡ませている。
具体的には、<エピソード1>の冒頭でローラがベッドで会話している不倫相手は<エピソード2>のジーナの夫ライアンだ(存在感が希薄なので、見落としがちだが)。
また、<エピソード3>でジェイミーがエリザベスを訪ねていく法律事務所には一瞬、飼い犬を連れたローラが登場する(あの犬は、ケリー・ライカート監督の愛犬、カンヌでパルム・ドッグ賞を獲った『ウェンディ&ルーシー』のルーシーだろうか)。
同じ町の物語なのは分かったが、この一瞬の交錯にはあまり意味はない。エピソードの映画的な面白味という点では、最後の<エピソード3>の圧勝だろう。それ以外は添え物のようなものといってもよい。
ローラ・ダーンは『マリッジ・ストーリー』でオスカーを獲った敏腕弁護士役の原型ともいえるような弁護士ローラ役で変わらずの存在感を見せる。
不満を抱える妻のジーナ役ミシェル・ウィリアムズも、ケリー・ライカート監督作の常連で息が合っている。そして、夜学で教える若手の弁護士先生には、『トワイライト』シリーズで知られる売れっ子のクリステン・スチュワート。
ちなみに、ミシェル・ウィリアムズは本作で、由緒あるニューヨーク映画批評家協会賞の助演女優賞を2016年に受賞。その前年にはクリステン・スチュワート(『アクトレス 女たちの舞台』)、2019年にはローラ・ダーン(『マリッジ・ストーリー』)がそれぞれ同賞を獲得。
◇
実力と知名度から言っても、「この三女優が共演です」という売り方になるのは仕方のないところかもしれない。
だが、DVDのパッケージにはろくに顔も名前も登場していないが(日本だけ?)、本作でもっとも主演といっていい輝きを放ったのは、牧場で働くジェイミー役のリリー・グラッドストーンだった。
不器用でコミュニケーションも下手な彼女だが、エリザベスを喜ばせようと馬に乗って登校し、相手に無垢な関心を寄せる姿はとても観る者の胸に響く。
その感情はおそらく、同性愛的というよりは、友だちになりたいというものではないかと思う。『オールド・ジョイ』に見られた、ゲイっぽい匂わせシーンもなかったし。
リリー・グラッドストーンはケリー・ライカート監督の『ファースト・カウ』では端役の出演に留まったが、スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』に大抜擢。本作での好演がスコセッシの目に留まったのか。
ライフ・ゴーズ・オン
さて、映画全体を振り返ると、今やインディペンデント映画の第一人者ケリー・ライカート監督の作品らしく、これといった作為的なドラマ臭はせず、起承転結もはっきりとはしていない。
昔ながらの根強い男性優位社会の不条理に負けるものかと奮闘する女性たちの生き方を描いた作品になっている。
服役中の依頼人フラーは妻に見捨てられ現実が見えてきたようで、これまで見下していたローラの話をようやくまともに聞くようになる。ローラにとっては、してやったりの気分か。
ジーナは念願の砂岩で家が建つことに、ちょっとした満足感を得ることができた。
エリザベスは、夜学の講師を辞退したことで、ようやく人間らしい生活を取り戻し、ジェイミーもエリザベスに一目会うことができた。
みんな、自分なりの心の折り合いがつけられた。そして、人生は続く。