『ローマの休日』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ローマの休日』今更レビュー|すべてのロマコメはローマに通ず

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『ローマの休日』
Roman Holiday

オードリー・ヘップバーンの初主演作にして、70年前の作品にはとても思えぬ不朽のロマコメ王道作品。

公開:1953 年  時間:118分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:       ウィリアム・ワイラー
脚本:        ダルトン・トランボ
      イアン・マクレラン・ハンター
            ジョン・ダイトン

キャスト
ジョー・ブラッドレー:グレゴリー・ペック
アン王女:    オードリー・ヘプバーン
アーヴィング・ラドビッチ:
           エディ・アルバート
マリオ・デラーニ:  パオロ・カルリーニ
大使:     ハーコート・ウィリアムズ
ヴィアルバーグ伯爵夫人:
       マーガレット・ローリングス
プロブノ将軍:  トゥリオ・カルミナティ
ヘネシー支局長:   ハートリー・パワー

勝手に評点:5.0 
(何をおいても必見)

Copyright(C)1953 Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. TM, (R) & COPYRIGHT (C) 2023 By Paramount Pictures All Rights Reserved.

あらすじ

ヨーロッパ最古の王室の王位継承者、アン王女(オードリー・ヘプバーン)は、公務に縛られ不自由な毎日にうんざりしていた。

欧州親善旅行で訪れたローマでの歓迎舞踏会の夜、彼女は宮殿から脱走を図り、夜の街をぶらつき始めるのだった。 しかし、主治医に処方された鎮静剤が効きはじめた彼女はベンチに倒れこんでしまう。

そんな彼女をたまたま助けたのは、アメリカ人の新聞記者ジョー(グレゴリー・ペック)だった。

アン王女の正体を知り、これは大スクープのチャンスと意気込むジョー。彼は王女と知らないふりをしたままローマのガイド役を買って出るのであった。

美しいローマの街で、”真実の口”や”祈りの壁”など観光地をめぐり、はしゃぐアンの姿をジョーの同僚のカメラマン、アーヴィング(エディ・アルバート)に撮影させる。

そうこうするうち、アンを捜しにきた情報部員との大立ち回りとなるが、間一髪逃れる。 そんな中、二人の距離は次第に近づいていくのだが…。

今更レビュー(ネタバレあり)

新年にふさわしくロマンティックコメディの金字塔、オードリー・ヘプバーンの初主演作『ローマの休日』。2023年には70周年で4Kレストア公開を果たす。

某国の王位継承者アン王女(オードリー・ヘプバーン)が欧州親善旅行の最終訪問先ローマで、王族としての窮屈な暮らしから逃げ出し、偶然出会った米国人新聞記者ジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック)一日限りのバカンスを楽しむ話

ラブロマンスといっても、最初から恋愛関係にあるわけでなく、彼女の正体に気づき特ダネ目当てでつきあうブラッドレーと、普通の女の子として自由気ままな一日を初体験するアン王女の疑似デートのような展開。

そして、当然の帰着だが、終盤で互いに相手を愛おしく思う感情が芽生えるという、奥ゆかしいラブストーリー。

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当時既に大スターだったグレゴリー・ペックウィリアム・ワイラー監督が口説き落としたのはよいが、実質メインといえるアン王女役のキャスティングは難題だった。

パラマウントの望むジーン・シモンズエリザベス・テーラー(いずれも英国生まれ)の出演可能性がなくなり、ワイラー監督は数人の候補者女優と面談し、そこでまだ駆け出しの無名女優だったオードリーに目が留まる。

米国のアクセントではない無名女優で、王女として育てられたことを誰もが信じてしまうような人物。オードリーは、ワイラー監督の条件に見事に合致していた。

オープニングのクレジットを観ていると、はじめにグレゴリー・ペックの名が大きく出るのは納得だが、その次に当時まだ無名だったオードリーの名が” and introducing AUDREY HEPBURN”と堂々と出るのは珍しい。

このクレジットは、グレゴリー・ペックも彼女の才能を認めて力添えしてくれたことで実現したとか。ついでに、「全てイタリアのローマでロケしています」と出るのも面白い。

冒頭はアン王女がローマでの公務中、各界の著名人から挨拶を受けている際にロングスカートの中でヒールが脱げてしまい、周囲の従者が慌てるシーン。何の説明もなしに、彼女の性格やとりまく住環境の堅苦しさが窺える。

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そして過密スケジュールにうんざりして、夜のローマの町に、運搬車の荷台に潜り込んで脱走するまで。睡眠薬のせいで路上のベンチで寝てしまっているところを、カード賭博帰りのブラッドレーに介抱されるという無駄のない流れ。

泥酔している様子の娘を拾って自室に連れ込む若いサラリーマンも、路上のベンチで寝ていて持ち替えられる娘も、コンプラにうるさい現代目線には何かとバッシングを浴びそうなものだが、本作はその点はきちんと配慮されているのが偉い。

ブラッドレーは、はじめ彼女を置き去りにして帰ろうとしたし、タクシーに同乗させたあとも、運転手にチップを渡して自宅まで届けるように言う。最後にやむにやまれず自室に連れ帰るのだ。当然、下心もない。

一方のアン王女も、人を疑うことのない環境での育ちゆえか、そういう下衆の勘繰りを寄せ付けない高潔さがある。

翌朝にシャワーを浴びていて掃除婦のおばちゃんにイタリア語でまくし立てられるのが気の毒になるほどだ。字幕はないので意味不明だが、尻軽女に見られたのかもしれない。

ベネツィア広場前の二人乗りヴェスパ暴走スペイン広場の階段でジェラートを頬張り、真実の口の前で恐る恐る手を入れ祈りの壁で目を閉じる

ローマの観光ガイドのような名シーンばかりで現地で真似をするツーリストも後を絶たないのは肯ける(私にも身に覚えがある)。

個人的に一番感心したのは、ブラッドレーの住むアパートの構造。あれはセットなのだろうか。路面から階段をあがると中庭のような空間があり、そこから更にらせん階段で各室のドアに繋がっている凝った造りのアパート。

アンと手を繋いでブラッドレーが階段を上ろうとすると、彼女だけ直進したり、違う階段の先の部屋をノックしそうになったりと、細かい笑いも取れている。

エレベータのような狭い部屋の天井隅にタンクがあるのは、王女の本来の豪奢な部屋との対比だが、それ以外にも、部屋の外にはローマが見下ろせるテラスがあり、こんなに絵になる部屋が実在するのなら驚きだ。

本作はガキの頃から何度となくテレビ放映で観ているが、ロマコメの教科書のような脚本の素晴らしさに毎度感服する。

原案はダルトン・トランボ。ハリウッドの俊英脚本家であったが、共産党員としての積極的な活動から有罪判決を受けたり、赤狩りで業界から干されたりと多難な日々を過ごす。

彼の人生は『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015)という映画にもなった。彼は仕方なくゴーストライターとなって作品を世に出すしかなく、友人のイアン・マクレラン・ハンターの名を借りた。

皮肉なことに、本作はハンター名義でアカデミー賞(原案賞)を獲得してしまうのだが、彼の死から17年経った1993年に、ようやくトランボに改めてオスカー像が授与される。

なお、ウィリアム・ワイラー監督はオードリーとは本作以降『噂の二人』『おしゃれ泥棒』グレゴリー・ペックとは『大いなる西部』で再タッグを組んでいる。

さて、本作が主演の二人の魅力で成り立っていることになんら異論はないのだが、私が昔から肩入れしているのは、助演の男性二人で、彼らの存在が本作に更に厚みを与えている。

一人はブラッドレーの良き相棒、カメラを仕込んだライターでアン王女の休日を隠し撮りするカメラマンのアーヴィング・ラドビッチ(エディ・アルバート)。カネ目当てで協力するが、彼もまたブラッドレー同様にいいヤツなのである。

彼の存在をみるたびに、いつもルパン三世の良き相棒、次元大介を思い出してしまう。

そういえば、『カリオストロの城』でクラリス妃に「お姫さ~ん」と敬愛をこめて次元が呼びかける場面があったではないか。あれなど、まさにこのアーヴィングが言いそうな台詞だ。

そしてもう一人は、美容師のマリオ・デラーニ(パオロ・カルリーニ)

アン王女がロングの髪をイメチェンと別人願望から思いっきりショートにしてもらう、かの有名なショットには、毎度ドキッとさせられるわけだが、それを「ホントにいいの?」と恐々とバッサリやる美容師。

アン王女池田昌子『銀河鉄道999』メーテルですな)、ブラッドレー城達也(FM放送の『JETSTREAM』ですな)とともに、この美容師広川太一郎のオネエっぽい声優仕事は、あまりに印象的。

ストーリーについてこれ以上語るのは野暮というものだろう。未見の方はとりあえずご覧いただきたい映画。

70年も前に、既にハリウッドではこんな洒脱なロマンティックコメディが撮られていたのだ。”Roman Holiday”ってロマンティックな休日という意味もあるのだろうと、ガキの頃は信じていた。

Copyright(C)1953 Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. TM, (R) & COPYRIGHT (C) 2023 By Paramount Pictures All Rights Reserved.

オードリーの代表作といえば、意外にも欧米では『麗しのサブリナ』が優勢だそうだが、日本では断然本作に軍配だろう。一夜かぎりの叶わぬ悲恋というのが、日本人好みの題材なのだろう。

ラストシーンで、記者会見場を立ち去るブラッドレーの靴音だけが高く響くのが愁いを深める。

ウィリアム・ワイラー監督は本作をカラーフィルムで撮れば良かったと後悔していたそうだが、これはもの悲しさが引き立つ、モノクロで正解だったと思う。