『アウトレイジ 最終章』
Outrage Coda
公開:2017年 時間:104分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 北野武 キャスト <元大友組組長> 大友: ビートたけし 舎弟・市川: 大森南朋 <張グループ> 会長・張大成: 金田時男 幹部:李: 白竜 幹部:崔: 津田寛治 協力者・ゴン: 仁科貴 <山王会> 会長・白山: 名高達男 若頭・五味: 光石研 スクラップ工場長: 四方堂亘 <花菱会> 会長・野村: 大杉漣 若頭・西野: 西田敏行 幹部・中田: 塩見三省 幹部:森島: 岸部一徳 花田組組長・花田: ピエール瀧 花田組舎弟・丸山: 原田泰造 木村組組長・吉岡: 池内博之 <警視庁組織犯罪対策部> 平山刑事課長: 中村育二 繁田刑事: 松重豊
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
あらすじ
関東最大の暴力団組織・山王会と関西の雄・花菱会との抗争後、韓国に渡った大友は日本と韓国を牛耳るフィクサー、張会長のもとにいた。
花菱会幹部の花田は取引のためやって来た韓国でトラブルを起こして張会長の手下を殺してしまい、張グループと花菱は緊張状態へと突入する。
激怒した大友は日本に戻り、過去を清算する好期をうかがっていた。その頃、花菱会ではトップの座をめぐる幹部たちの暴走がはじまっていた。
今更レビュー(ネタバレあり)
シリーズは最終章へ
いよいよ三部作も最終章となる。ダジャレではないだろうが、冒頭は韓国・済州島から始まる。
前作のラストで加藤会長(三浦友和)を刺殺し、片岡刑事(小日向文世)を射殺した大友(ビートたけし)は、フィクサー張会長(金田時男)の庇護で韓国に雲隠れしているのだ。
美しい海岸で張グループに属する舎弟の市川(大森南朋)と釣りをしながらバカ話に興じるシーンは、北野映画でよく見る美しい光景。
その後に、張グループがケツ持ちしているデリヘル嬢を傷物にして難癖をつけるSMプレイ好きの客に、「お客さん困りますね」と脅しをかける大友たち。
このヤクザ者の客が、前作の抗争の首謀者・花菱会の直参で花田組組長の花田(ピエール瀧)である。
◇
シリーズは回を重ねるごとにコメディ色が強まっている印象だが、本作ではこの花田のバカさ加減と、その兄貴分である花菱会の幹部・中田(塩見三省)の中間管理職の悲哀が、演出としては特に際立つ。
前作の新井浩文に続き本作ではピエール瀧と逮捕者が続く本シリーズだが、ジャンル的に違和感はないところが怖い。
抗争の輪はまたも広がっていく
花田が喧嘩をしかけた相手は日韓を牛耳るフィクサー、張のグループだと分かり、花田と中田は慌てて張会長のもとに3千万を持参し謝罪する。
それを倍返しで持ち帰らされ、両者の抗争に発展させるのは一作目で大友組の若頭・水野(椎名桔平)が使った手法と同じだ。
◇
歴史は繰り返すと言う点では、組織の新参者の幹部に古株が不満を募らせる構図も脈々と引き継がれる。
前作では山王会のインテリ金庫番の石原(加瀬亮)に噛みつく古参幹部・富田(中尾彬)、本作では前会長の娘婿で花菱会を引き継いだ元証券マンの野村(大杉漣)に反旗を翻す若頭の西野(西田敏行)。
大杉漣をはじめ、大森南朋、張グループ幹部役の津田寛治など、北野映画の常連なのに『アウトレイジ』シリーズには登場してこないのが不思議だったメンバーも次々投入。最近の北野作品常連の仁科貴も父・川谷拓三譲りの善人キャラで登場。
日本最大勢力となった(らしい)花菱会が、花田の起こしたトラブルがきっかけで張グループと険悪な関係になる(張会長は日本語が分からないと誤認し、中田(塩見三省)が目の前で暴言を吐いたことで火に油を注ぐのが笑)。
一方、花菱会の野村会長はこれを利用して、配下の反発分子である西野(西田敏行)と張会長の双方を、喧嘩とみせかけて殺そうと画策する。こうして、二大グループの抗争は激化し始めるが、そんな折に大友が日本に戻ってくる。
気迫の演技の面々たち
張グループの張会長を演じる金田時男は本業の俳優ではなく実業家であり、旧知の北野監督に出演を要望したところ、前作からこの役に起用されている。
そんな経緯を知らなければ、大物俳優にしかみえない圧倒的な風格と絵になる顔立ち。この会長と李幹部役の白竜の二人の韓国勢の迫力がありすぎて、花菱会はどうみても劣勢だ。
虚勢を張る野村会長(大杉漣)の間抜けなゴルフシャツ姿、情けなさ連発の花田(ピエール瀧)のパンイチで猿ぐつわ姿。この手の悪者キャラには、ふさわしいお仕置きが最後に待っていることはシリーズのお約束。
◇
花菱会でヤクザ者の意地をみせたのは、西野と中田の両幹部だろう。塩見三省は前作『アウトレイジ ビヨンド』で、映画での悪役に初挑戦したが、その凄みは本作でも健在。
自身、闘病生活中であったため、思うように動けずやせ衰えも目立つが、画面上ではそれが中田に鬼気迫る何かを与えている。
一方の西田敏行も、「迷惑もハローワークもあるかいっ、ボケ!」などと台詞で笑いを取りながらも、目が笑っておらず、確実にそのスジの人にみえる。
彼も撮影時期は首が動かずリハビリ中だったそうで、二人とも満足に動けない状態だったが、それを感じさせない気迫の演技だ。
◇
それに比べると、すっかり凋落した山王会の面々(名高達男、光石研)、そして悪徳刑事・片岡亡きあとの刑事二人(中村育二、松重豊)は、出番がある割には存在感にやや欠けた感は否めない。
生き残りは誰か
以下、ネタバレになるので未見の方はご留意願います。
三作目ともなると、もはや前作から生き残っている輩は数少ないのだが、逆に言えば、本作でも殺されずにすんでいるのは、警察関係者を除けば、相当の強か者か古狸ということか。
前作では確実に殺されると思っていた西田敏行や塩見三省はしぶとく生きている。一方で、光石研が演じる、すぐに消されそうだった山王会の小心者幹部は、最後に寝返って会長の名高達男を射殺する。タヌキとキツネの化かし合い。
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大友がシリーズの最後で死ぬことは不可避だろう。北野映画にたけしが主演し、人を殺して生き延びた例は少ない。
一作目で死んだはずの大友が二作目で生きていたのは予想外だったが、三作目では確実に死んでおり、もはや正当な続編の可能性は潰えた。
大友の死は想定内とはいえ、白竜に銃口を向けられてからの意外な展開はよかった。幕引きは自分で行うのが大友の生き様にふさわしい。
さあ、いよいよ北野監督の新作『首』が始まる。大森南朋、加瀬亮といった『アウトレイジ』組をはじめ、北野組メンバーの多数出演。ヤクザ映画から戦国時代劇にジャンルは移れど、本作の醍醐味は引き継がれるのか楽しみなところ。