『脳天パラダイス』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『脳天パラダイス』考察とネタバレ|もう癖になってしまったかもしれない

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『脳天パラダイス』

何の感動も与えないが、これは常習者を生みだしそうなヤバさ。脳がとろけていきそうな恍惚感。

公開:2020 年  時間:95分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本:  山本政志
脚本:     金子鈴幸

キャスト
笹⾕修次:   いとうせいこう
笹⾕ゆうた:  ⽥本清嵐
笹⾕あかね:  ⼩川未祐
昭⼦:     南果歩
謎の老人:   柄本明
運送業者:   大河内健太郎 小竹原晋
叔母:     星野園美
自転車の青年: ノブヲ
ドラッグ精製男:沢井小次郎 安田ユウ
台湾からの母子:李丹 張天屹
コーヒー店主: 庄司浩之
ゲイのカップル:野村陽介 
        ニール・ターリセッチィ
恋人探すイラン人:アレック・アスギャリー
酔っ払いOL: 玄理
あかねの友人:和川ミユウ 植田紗々 
       高橋里恩
祖父母の霊: 吉田茂樹 牧山みどり
デリヘル女: 島津志織
ホストの男: 小林敏和
少年を探す母:江波里香
警察官:   村上淳
焼きそば屋: 古⽥新太 鳳ルミ
酒屋:    畑中タメ
賭場の怖い男:柳川竜二
櫓で歌う男女:永山愛樹 竹舞(ALKDO)
義父を世話する嫁:紀那きりこ

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2020 Continental Circus Pictures

    あらすじ

    東京郊外の大豪邸に暮らす笹谷一家。父・修次(いとうせいこう)の破産により、一家はこの家を手放すこととなった。

    不甲斐ない父親にイラついている娘のあかね(⼩川未祐)は、半ばやけくそ気味に「今日、パーティをしましょう。誰でも来てください」と地図付きでツイートしてしまう。

    あっという間に拡散したこのツイートにより、数年前に恋人を作って家を出て行った元妻・昭子(南果歩)をはじめ、酔っ払いのOL、恋人を探しているイラン人、謎のホームレス老人などなど、さまざまな人びとが豪邸にやってくる。

    どんどん増え続ける珍客たちによって、豪邸はドンチャン騒ぎを超えた、狂喜乱舞の状態になっていく。

    レビュー(ネタバレあり)

    考察不要、ネタバレ無用

    タイトルに偽りなし。脳内がトランス状態になること請け合いのこの作品。こういう説明不能な作品が世に出るあたり、日本の映画界もまだまだ捨てたもんじゃないのかも。

    監督は、『闇のカーニバル』(1982)で史上初のベルリン・カンヌ連続上映を果たして以来、独自のアホな作風で国境をこえて作品を作り続ける山本政志。前作『水の声を聞く』(2014)のシリアス路線転向で業界を驚かせたが、本作で原点回帰か。共同脚本は劇団「コンプソンズ」を主宰する金子鈴幸

    東京の郊外にある大きな屋敷。娘がパチパチと家の中の写真をスマホで撮りまくっていると、「もっといい時に撮っとけよ」と不機嫌そうな父。

    この家は、投資に失敗した父親の借金返済のため、本日限りで明け渡すのだった。こんな豪邸には二度と住めないだろうと、娘がツイートした誰でも歓迎のホームパーティに、見ず知らず国を問わずの老若男女が、次々と家に訪れては、勝手に盛大なパーティを繰り広げる。

    言ってしまえば、それだけの物語だ。なんの考察もネタバレも寄せ付けない(ブログのタイトルは釣りになってしまった)。

    (C)2020 Continental Circus Pictures

    家族および主要キャスト

    一応、骨格となる人物・背景はある。笹谷家の冴えない当主・修次(いとうせいこう)。そして気は優しいが陰キャの兄・ゆうた(⽥本清嵐)と、対照的にズケズケと物申す活発な妹・あかね(⼩川未祐)。そしてあかねのツイートに誘われ久々に家に戻ってきた、元妻の昭⼦(南果歩)

    家族を捨てた昭⼦に冷たい修次とあかね、再会を喜ぶゆうた。この対照的な反応が(元)家族の基本的な人間関係。

    家族のほかに意外と最後まで存在感があったのは、引っ越し業者の二人組。きまじめな先輩(大河内健太郎)と口ばかり達者な後輩(小竹原晋)

    トラックで家に来る途中で昭⼦(南果歩)の軽自動車に当て逃げされ、その弁償をしろと噛みつく後輩と、まずは仕事しろとなだめて、客の笹谷家に詫びる先輩。この関係が中盤で酒が入って大逆転するのが、めちゃ楽しい。

    大物ゲストでは、いつも勝手に庭に入り込み、アポロン像を神と崇める徘徊老人柄本明。死んだり生き返ったりで、物語をかき回す役を担う。

    押し寄せる怒涛のパーティ客

    その他の出演者は基本的に、ツイートにつられてパーティに現れた人たちだ。山本政志監督の過去作にゆかりのある俳優だったり、ワークショップの参加者だったり、初めてお目にかかる俳優も多い。

    意外と手間がかかったが、冒頭の表の通り、子役の三人を除いては概ね配役と出演者名を整理できた。

    ざっと駆け足で説明すると、あかねの友人に、女性二人(和川ミユウ、植田紗々)と、部屋にあがってはあれこれ物品を盗む男一人(高橋里恩)

    和室に入り込み男女が勝手に抱き合いだすと、笹谷家の亡くなった祖父母(吉田茂樹、牧山みどり)が現れ、微笑ましくその行為を眺めている。

    笹谷修次(いとうせいこう)の妹である叔母(星野園美)は、出て行った兄嫁や子供たちを散々こき下ろす迫力満点のオバサンだが、自転車で日本一周中の若者(ノブヲ)の逞しい太ももに触らせてもらい、いい雰囲気に。

    そして、このパーティを結婚披露宴にしたいという、意味不明なゲイのカップル。新婦(野村陽介)と、インド人の新郎(ニール・ターリセッチィ)。更に終盤にその新婦を追いかけてくるイラン人(アレック・アスギャリー)との愛のもつれの修羅場。そこからの血まみれスプラッター

    (C)2020 Continental Circus Pictures

    ボーダーレスという点では、台湾から観光できたという母と息子(李丹、張天屹)。何かと文句をいう子供だが、日本語でないので笹谷家には分からない。だが、この二人はただの観光客ではなく、笹谷の祖父と関係があることがやがて分かる。

    いつのまにか家の中で喫茶店を開業している、昭子(南果歩)元再婚相手(庄司浩之)。そのコーヒーのうまさに、ゆうた(⽥本清嵐)は働かせてほしいと志願。

    うまさの秘訣の巨大な一粒のコーヒー豆は次第に巨大に成長してエイリアン化する。その造形はかなりエログロに作られている。

    (C)2020 Continental Circus Pictures

    ブランコから降りられなくなる少年にゲロを吐かれて、シャワーを借りに訪れる子供たち。

    一方、そのブランコ少年はなぜか木の枝になってしまい、それをみつけた母親(江波里香)は慌てふためき、枝とともに屋敷に向かい行き倒れるが、酔っ払いOL(玄理)に無視される。

    大きな家の一室を二年ほど鍵まで替えて無断占拠し、栽培したケシの実からドラッグを精製している男(沢井小次郎)とその相棒(安田ユウ)

    部屋に迷い込んできた酔っ払いOLと、できたての製品でトリップしながら、パーティに繰り出す。

    いつのまにか庭には縁日の出店が立ち並び、盆踊りの櫓も立っている。焼きそばを売る夫婦(古⽥新太、鳳ルミ)酒屋の主人(畑中タメ)

    (C)2020 Continental Circus Pictures

    笹谷家を破産に追い込んだ怖い連中柳川竜二ほか)が現れ、この日限りと賭場をたてる。更には、ナース姿のデリヘル嬢(島津志織)ホストの男(小林敏和)も参入し、カオス状態の夜を迎える。

    カオスの夜へようこそ

    老人(柄本明)の葬式からダンスが始まり、インド映画のミュージカル状態から沖縄民謡調の歌に移り変わる。綱渡りから火喰い女、一糸乱れぬコスプレ創作ダンス大会。股間が「ギガピンピン」と歌いまくる女。

    これぞカオス、これぞトランス。フェリーニ『アマルコルド』を日本風、おバカ風にアレンジすると、こういう仕上がりになるのかも。

    (C)2020 Continental Circus Pictures

    「小津安二郎に影響を受けて作りました!」と海外の映画祭でコメントして笑いを取った山本政志監督。「小津映画って全然ダメなんだよね、俺」と語っているが、そりゃ、そうだろう。この作品を観れば、目指すものがあまりに違うもの。

    終盤には三組のカップルがそれぞれ男女の営みに励んで、一晩で妊娠から出産にいたる謎の時間軸。まるで今公開中の『MEN 同じ顔の男たち』や、カラックス監督の新作『アネット』の先取りのような展開ではないか。

    そしてアポロン像はコーヒー豆エイリアンと対戦し、翌朝、警察官(村上淳)がやってくる。祭りの終わった朝は静かでどこか寂しい。

    実際に八王子にあるというこの豪邸を、庭先から家の中まで、余すところなくフル活用。何の感動も与えないが、これはクセになりそうな映画だ。今からカルトムービーになる予感がする。