映画『レオン』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー(LEON) | シネフィリー

『レオン 完全版』今更レビュー|質素な日常を愛す凄腕のちょいワルオヤジ

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『レオン 完全版』 
Léon

超一流の殺し屋と12歳の少女が不幸な事件で出会い、復讐を果たしに。リュック・ベッソンの代表作にして最高傑作。

公開:1996 年  時間:133分  
製作国:フランス

スタッフ  
監督・脚本:   リュック・ベッソン 

キャスト 
レオン・モンタナ:   ジャン・レノ 
マチルダ:   ナタリー・ポートマン 
スタン:   ゲイリー・オールドマン 
トニー:      ダニー・アイエロ 
<マチルダの家族> 
父:       マイケル・バダルコ 
継母:       エレン・グリーン 
姉:     エリザベス・リージェン 
弟:   カール・J・マトゥソヴィチ 
マノーロ:     アダム・ブッシュ

勝手に評点:4.5
   (オススメ!)

あらすじ

ニューヨーク。一流の腕を持つが孤独な殺し屋レオン(ジャン・レノ)は、あるアパートの一室で静かに暮らしている。

そんなアパートの別の部屋で家族と暮らす12歳の少女マチルダ(ナタリー・ポートマン)は、麻薬密売組織に両親や弟を殺されてしまうが間一髪、自分はレオンに救われる。

マチルダはレオンに面倒を見てもらいながら、彼から殺し屋のテクニックを学ぶようになるが、両親を殺した麻薬密売組織と密接な関係を続ける悪徳刑事スタンフィールド(ゲイリー・オールドマン)への復讐を誓う。

今更レビュー(ネタバレあり)

殺し屋と少女の物語

リュック・ベッソン監督のハリウッド・デビュー作にして『グラン・ブルー』(1988)と並ぶ代表作。そう紹介せずとも、すでにカルト的なファンが多い、殺し屋と少女という異色な組み合わせで心の交流を描いた傑作。

孤独でストイックな腕の立つ殺し屋レオンを演じた、ベッソン作品常連のジャン・レノも、家族を麻薬密売組織に殺された12歳の少女マチルダを演じた、オーディションを通過しデビューしたナタリー・ポートマンも、本作で一気にスターダムをのし上がる。

この時代のフランス映画は、ハリウッド作品のような豪華さやスケールはないが、身の丈に合った世界観のなかに、先進性やセンス、それに映画の面白味を凝縮させている。

リュック・ベッソンは同年代デビューのジャン=ジャック・ベネックスレオス・カラックスとともに「恐るべき子供たち」と呼ばれ、ヌーヴェル・ヴァーグ以後のフランス映画界に「新しい波」をもたらした一人だ。

作家性にこだわり寡作を貫いたベネックスカラックスに対して、ベッソンはエンタメ路線の作品を量産し始める。自身でメガホンを取る一方で、製作・脚本でも『Taxi』『トランスポーター』等をシリーズ化させ、ビジネスの才能を見せる。

本作はそんなリュック・ベッソンド派手な方向に走らずに、ストイックに魅せることにこだわった稀有な作品といえるかもしれない。

もともと、SF大作の『フィフス・エレメント』(1997)を撮りたかったが、予算を捻出するために、初期の作品『ニキータ』(1990)を書き直したのが本作の発端だ。だから、派手にやりたくても予算がなかったのだろうか。結果的にはそれが奏功した。

凄腕の掃除人はミルクが好き

物語は冒頭から、余計な説明なしで分かりやすく主人公の殺し屋レオンの人物紹介に入る。ニューヨークはリトルイタリー。仕事の依頼を受けるレオン。マル眼鏡に低い声、なぜかミルクを愛飲する男。カメラはパーツしか写さず男の全貌はよく分からない。

そして仕事に移る。恐ろしいほどの手際のよさで、無感情に敵を射殺していく。そしてようやく顔を見せるジャン・レノ得体の知れない凄腕の掃除人クリーナー。そして仕事が終われば、あまりに静かで規則的な日常。

黒ずくめのレオンとは対照的に、華やかな色合いの服をきた少女マチルダが、アパートの廊下で煙草を吸っている。顔には殴られた跡。彼女の荒んだ家庭環境が窺える。

隣人のレオンと言葉を交わす少女。大人びた12歳を演じるナタリー・ポートマン『タクシードライバー』で13歳の娼婦を演じたジョディ・フォスターの再来か。

そしてアパートの廊下では、マチルダの父(マイケル・バダルコ)麻薬売買で中抜きをしたのではないかと、組織の男たちに尋問されている。

実は麻薬取締局の刑事でありながら密売組織を裏で牛耳る男・スタン(ゲイリー・オールドマン)。こいつの登場のさせ方もいい。まずは後頭部しか見せない。振り向いたら、神経質そうに少女の父の身体を麻薬犬のように嗅ぎまわる。不気味だ。結局、「明日の正午までに探せ」と言い残してスタンたちは去る。

大人になっても人生はつらいの?

「大人になっても人生はつらいの?」
 と尋ねるマチルダ。
「つらいさ」とつぶやくレオン。

家の中で虐待を受け、人生に希望が見えない少女。そして、スタンが告げた期限の翌日正午がやってくる。スタンは仲間を連れてマチルダの家に上がり込み、全員を射殺し、くすねた麻薬をみつけて帰っていく。

マチルダはその時、近所に買い物に行っていたおかげで命拾いした。見張りに家族とバレぬよう、死体の転がる自分の家のドアを素通りし、レオンの住む隣室のドアを叩くマチルダ。泣きながら「ドアを開けて」と彼に告げる。

このシーンのカメラワークは秀逸だ。自分の家族の惨劇を横目に素通りし、買ってきたミルクを持ってレオンの部屋に向かうマチルダを、レオンの部屋の覗き穴から見ている。

ドアを開けるべきか。プロフェッショナルとしては、厄介に巻き込まれるリスクを取るべきではない。だが彼は葛藤の末、ドアを開ける。陰になっていたマチルダの泣き顔に、陽の光が差し込む。ここから二人には、不思議な信頼関係が生まれていくのだ。

ここまでで約30分、まったく無駄がない展開。DV父や継母、いけ好かない異母姉の死にはまったく憐れみを感じていないマチルダ。「だって、いつか私が殺してたかも」

でも、自分を慕ってくれた幼い弟が殺されたのは許せない。仇を討ちたい。マチルダは、レオンに掃除屋になりたいと懇願する。

時代を越えて不朽の名作

今回私が観直したのは「完全版」といい、リュック・ベッソン監督自らが再編集し22分の未公開場面を復元している。

射撃を習ったマチルダが初の実戦に挑む場面(実際撃つのはペイント弾だが)、レオンがかつての恋人の死から心を閉ざした過去を告白する場面など、作品の深みには欠かせない部分だ。一方で、マチルダの弟が背中から撃たれる場面はかつて見た記憶があったが、今ではカットされている。

年齢差の大きい男女の恋愛関係、しかも少女が12歳とあれば、なかなか掃除屋としてあれこれ腕を奮わせるわけにもいかないし、二人を深い仲にさせるのにも限度がある。

昨今のコンプライアンス重視の自主規制基準では企画倒れか骨抜きになっていたかもしれない本作だが、改めて現代基準でみてもけして過激ではないし、不朽の名作の名に恥じない作品である。

腕は一流の掃除屋だが生活は質素でミルク飲みと筋トレとシャツのアイロンかけと観葉植物の手入れに明け暮れるレオン。友人もいなければ、会話も苦手っぽいし、NYに暮らしながら英語の読み書きも苦手ときている。

少女ながら大人の男を手玉にとって生意気ざかりのマチルダとの組み合わせが楽しい。大人の男と少女のバディものは数あれど、殺し屋として育てるという発想は、『ニキータ』の頃からベッソンの得意分野だ。

安定のキレっぷりゲイリー・オールドマン

そして、マチルダが正体を突き止めるマトリの男スタンのゲイリー・オールドマンの怪演! この三者のバランスもよい。

当時は、『JFK』(オリバー・ストーン監督)の暗殺者オズワルドやフランシス・フォード・コッポラ監督の『ドラキュラ』主演など、変わり者の悪役といえばゲイリー・オールドマンだったのだ。

よもや『ダークナイト』でバットマンが信頼を寄せるゴードン警部補や、『裏切りのサーカス』でスパイ組織を牛耳る幹部になるとは想像していなかった。

そして、このエキセントリックなスタンという汚職刑事によって、映画は俄然面白くなる。果たして、マチルダは復讐を果たせるのか、レオンは返り討ちに合ってしまうのか。最後の最後まで展開が読めないのは実に見事である。結末が分かっていても、何度観ても気持ちが昂る。

リュック・ベッソン監督にしてはアクションが控えめな作品かもしれないが、優れたカットワークにより、チープな印象はないし、ここぞという場面では火薬もふんだんに使われる。

手榴弾のリングや、根を張る場所のない観葉植物など、小道具の使い方にもセンスを感じる。これぞ「ニュー・フレンチ・アクション・シネマ」。ああ、愛さずにはいられない一本。