『死刑にいたる病』考察とネタバレ !あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『死刑にいたる病』考察とネタバレ|こっちにきたらもう戻れないよカケイ君

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『死刑にいたる病』 

絶好調に我が道を行く白石和彌監督が、阿部サダヲをサイコキラーの死刑囚に仕立てて描くサスペンス。PG12では甘すぎる。

公開:2022 年  時間:129分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:     白石和彌
脚本:     高田亮
原作:     櫛木理宇
        『死刑にいたる病』 
キャスト
榛村大和:   阿部サダヲ
筧井雅也:   岡田健史
金山一輝:   岩田剛典
加納灯里:   宮崎優
筧井衿子:   中山美穂
筧井和夫:   鈴木卓爾
根津かおる:  佐藤玲
佐村:     赤ペン瀧川
クラタ:    大下ヒロト
地元の農夫:  吉澤健
滝内:     音尾琢真
赤ヤッケの女: 岩井志麻子
相馬:     コージ・トクダ
小松美咲:   神岡実希
久保井早苗:  川島鈴遥
宮下陸:    大原由暉

勝手に評点:3.5
       (一見の価値はあり)

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

あらすじ

鬱屈した日々を送る大学生・雅也(岡田健史)のもとに、世間を震撼させた連続殺人事件の犯人・榛村(阿部サダヲ)から1通の手紙が届く。

24件の殺人容疑で逮捕され死刑判決を受けた榛村は、犯行当時、雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよく店を訪れていた。

手紙の中で、榛村は自身の罪を認めたものの、最後の事件は冤罪だと訴え、犯人が他にいることを証明してほしいと雅也に依頼する。独自に事件を調べ始めた雅也は、想像を超えるほどに残酷な真相にたどり着く。

レビュー(まずはネタバレなし)

『凶悪』と同じなのは冒頭だけ

24人の殺人容疑で逮捕されたシリアルキラーから主人公の青年に依頼された、たった一件の冤罪証明櫛木理宇による同名の長編サスペンスを『孤狼の血Level 2』に続き白石和彌監督が映画化。

東京拘置所に収監中の死刑囚から手紙が届き、まったくの第三者が事件の真相解明に乗り出す導入部分は、白石和彌監督の初期のヒット作『凶悪』(2013)とモロかぶりだが、そこからの展開も味付けも、当然ながら全く異なる。

何せ、『凶悪』ピエール瀧に対して、本作の死刑囚・榛村大和はいむらやまとを演じるのは阿部サダヲと、明らかに方向性が違う。

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

阿部サダヲ白石監督『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)にも出演しているが、あれはいつもの善人キャラ。今回は、普段は社交的で周囲に好かれる善人のパン屋で、裏の顔はまじめそうな高校生の男女ばかりをねらう殺人鬼。

この意表を突くキャスティングが、サイコキラーの不気味さを引き出す。『冷たい熱帯魚』(園子温監督)のでんでんをのようだ。

阿部サダヲは様々な役を演じてきているが、例えば善人なら『夢売る二人』(西川美和監督)、悪人なら『MOTHER』(大森立嗣監督)のように、どちらかに過剰に振り切る演技が多い印象があった。だが本作では表の顔も裏の顔も、実に抑制が効いた演技が秘めた狂気を匂わせ、長い面会シーンも緊張感を持続させている。

ダークな『あすなろ白書』

そして、収監中の榛村大和に代わり冤罪証明のために動き回る大学生・筧井雅也には、絶賛売り出し中の岡田健史。実質的な初主演作といえるが、ベテラン阿部サダヲと堂々と渡り合う様子は大したものだ。

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

筧井がなぜ、榛村からの手紙(ペン習字の手本のような美字)と面会ひとつで、あんなにシャカリキになって事件解明に走るのか不思議だったが、それは次第に分かってくる。

Fラン大学で孤独にスカッシュコートでストレスを発散する内向的な若者。厳格な父親との確執、まじめな性格、満たされない承認欲求。筧井もまさに、榛村の獲物に当てはまる一人だった。

キャンパスで再会した旧友の加納灯里(宮崎優)「カケイくん!」と連呼するので、つい往年の人気ドラマ『あすなろ白書』(1993)の石田ひかりが頭をよぎる。

あとは、出番はちょっと少ないが、重要なカギを握るのが、関係者のひとり金山一輝(岩田剛典)。長髪と大きなあざのある顔でクセのあるキャラ。いわれないと岩田剛典って気づかないほどの変わり身。

いや、ガンちゃんって、キラキラした王子役『HiGH&LOW』系の二択だと思っていたら、こういう線もあるのかと、演技の幅に感心。あのルックスは、『ブラックジャック』宍戸錠に対抗できる。

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

相変わらず攻める白石和彌監督

それにしても白石和彌監督、今回もブレることなく過激な演出で攻めまくる。本作は冒頭に、榛村が川の上から桜の花びらを撒き散らす美しい映像から始まるのだが(これはこれで後から背筋が凍るのだけど)、殺人シーンとなると容赦ない演出。

その過激さは『孤狼の血』の豚の糞シーンをさえ凌駕する。ゴア表現といっても、流血量は大したことないが、爪を剥いだり目を潰したり的な、正視に耐えない系描写は結構すごい。エロくはないがPG12じゃ甘くねえかと思うほど。

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

拘置所の面会室というと、映画やドラマでお馴染みのシチュエーションだが、本作はなかなか手が込んでいる。

<ガラス映り>で受刑者と面会者が重なる演出は、『三度目の殺人』(是枝裕和監督)などでも多用され今更驚かないが、面会室の壁を湾曲させたセットを作ったことで、およそ見たことのない映像表現が飛び出す。これはいい。『39 刑法第三十九条』(森田芳光監督)を超えたか。

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

サイコキラー役の阿部サダヲも脚本の高田亮も、「一度はこういう役を演りたい、書きたい」と思っていたという。その意気込みが伝わってくる作品ではある。

ただ、私が違和感を持ったのは、『映画史に残る驚愕のラストにトリハダ』という宣伝文句だ。公開前から「映画史に残る」が眉唾なのは言わずもがなだが、そもそも、本作のセールスポイントは<驚愕のラスト>ではないだろう。

ここの期待値を過度に上げるべきではない。おかげで私はラストには驚愕しなかった。だが、そこまでのドラマで十分に面白かった。この手のキャッチコピーは、ぜひ今後改善してほしい。

レビュー(ここから若干ネタバレ)

ここから若干ネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

榛村の人心掌握術

すでに死刑囚というのに、榛村がなぜ一件だけ冤罪を許せないか。それは、真犯人が野放しになっているからではなく、自分の流儀に合わない殺人だったからだ。

彼の標的は、髪も染めず、ちゃんと制服を着るまじめな高校生の男女。店の常連客だったり、偶然を装って近づいたりして信頼関係を構築し、そこから拉致して山奥の家で凄惨な処刑にかける。全ての爪を剥ぎ、死体は庭で焼いて灰にして、埋めた場所に植樹する。全て同じ手口だ。

榛原は人心掌握の達人でもある。連続殺人犯として逮捕されたあとでも、近所に住む農夫(『凪待ち』吉澤健)に、「ここだけの話、今でもあいつに頼まれたら匿うよ」と言わせるほどだ。

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

そして、榛村の弁護人・佐村『コンフィデンスマンJP』チョビ髭こと赤ペン瀧川)に借りた資料で関係者をあたる筧井は、なんと、自分の母親(中山美穂)と榛村が以前同じボランティア施設に勤めていたことを知る。

刑事でもない筧井が勝手に作った弁護士事務所の名刺で、すぐに親しくなって口を割る関係者たち(音尾琢真と芸人のコージ・トクダ)がやや不自然ではあるが。

白石作品常連の音尾琢真だが、普通に善人役をやることもあるのか。いつ豹変するのかとヒヤヒヤした。本筋と関係ないが、音尾が居酒屋で飲んでいた<でん汁サワー>が気になった。まさかおでん汁なのか。

そして、音尾よりも阿部サダヲよりも、私が一番怖かったのは、筧井の厳しい父親(鈴木卓爾)だ。家の食卓で瓶ビールを飲みながら、筧井が母のミポリンから過去の秘密を聞きだしているところに、突如この父が登場し、無言で息子にビールを注がせる。何でもないのに一番の緊迫シーン。演出力が冴える。

『嵐電』(2019)など監督作も多い鈴木卓爾かつて阿部サダヲと二人で『トキワ荘の青春』(1996・市川準監督)で藤子不二雄役を演じていたはず。

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

おわりに

今回、原作は未読なのだが、殺人鬼榛村の人物の内面描写について、映画ではかなり割愛しているという。物足りなさはあるが、その方がサスペンスとしては切れ味がいいのかもしれない。

はたして榛村がいうように冤罪は真実なのか、死刑になるまでの退屈しのぎなのか。はたまた、筧井の出生にまつわる話や彼の本当の父親は、自身がつきとめた内容が真実なのか。すべては、口頭供述と回想シーンに委ねられているように思えた。

この物語において、警察の関与はほとんどないので、筧井がたどりついた結論にどこまで信憑性があるか。事件の真相については、いろいろな解釈ができるように思う。それは、<驚愕の>ラストにおいても同様だ。