『四月物語』(1998)
『ARITA』(2002)
『ARITA』
公開:2002 年 時間:109分(全体)
製作国:日本
『Jam Films』の一編として公開
スタッフ 監督: 岩井俊二 キャスト 主人公: 広末涼子
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
あらすじ
少女が子供の時からあらゆる紙の上に存在するARITAというキャラクターが、あることをきっかけに外に飛び出す。
今更レビュー(ネタバレあり)
Jam Filmsのアンカー
この10分前後のショートムービーは、日本映画界の第一線で活躍する七人の実力派監督によるオムニバス形式の短編映画集『Jam Films』のラストを飾る一本である。岩井俊二が撮る広末涼子見たさに本作に手を伸ばすファンも多いのだろう。
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『Jam Films』という企画自体は三作目までシリーズ化され、それなりに人気を博したのだと推察する。ただ、私は第一弾しか観ていないが、正直物足りない。
堤幸彦、行定勲、飯田譲二等、相応に実績のある監督を集めてはいるが、みんな10分程度の尺をうまく使いこなせていないようで、観る者にフラストレーションが残る。
贔屓目かもしれないが、そんな状況下で岩井俊二だけは、とびぬけてセンスの良い作品を見せてくれている。ショートムービーであることの物足りなさを考慮し、一切の説明も話の膨らましもせず、主演女優のモノローグのような映像だけで作品を仕上げ切る。この無駄のなさがいい。
物語はファンタジーっぽい。幼少期から、自分の描く絵にいつも現れてくるARITAなる不思議なキャラクター。昆虫なのか小動物なのか不明なヘタウマ風のARITAとともに少女は成長する。
幼い頃は、少女が描く絵よりも丁寧なタッチだったARITAを、成長するにつれ上達した絵が追い越していく。そしてARITAは絵に限らず、学校のノートや答案から手紙まで、彼女を取り巻く紙という紙に現れる。
だが、彼女はそれが普通のことだと思っており、友人のノートにはARITAがいないことを知り、愕然とする。
岩井俊二が切り取る若き日のヒロスエ
前半はほとんどARITAのイラストと絵で構成され、それまで主人公の独白の声だけだった広末涼子が、途中で突然姿を見せる感動。そしてそのナチュラルな魅力につい引き込まれてしまう。
ああ、岩井俊二と広末涼子のコラボレーションは、こういう姿になるのか。彼女の子供じみた行動を見ているだけで、『Jam Films』で鬱積したものが消えていくような心地よさ。本作を締めに持ってきたことは、編集者の作戦勝ちと言えよう。
岩井俊二監督の新作『8日で死んだ怪獣の12日の物語 -劇場版-』観てて(特にのんちゃん観てて)、ふと『Jam Films』(2002年)での岩井俊二×広末涼子唯一の邂逅「ARITA」を思い出したんだよなー。久しく観てないけど。 pic.twitter.com/4m7qqFOi3f
— ドルフィーニ・エレクトリコ(清水靖幸) (@ElectolPhin_4D) August 31, 2020
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岩井俊二は二年後に広末涼子を『花とアリス』にも登場させるが、そこは蒼井優の制服姿でバレエするシーンに全ての関心が向いている。岩井作品で広末の魅力を堪能するのなら、本作をおいてほかにない。
岩井俊二が降板となった『あずみ』は、『Jam Films』のトップバッター・北村龍平監督が上戸彩主演で映画化したが、岩井が撮っていれば、主演は広末涼子を予定していたという話もあるそうだ。原作イメージに合うかと言われると正直微妙だが、観てみたかった。
広末涼子にこういう物憂げな役を演じさせることで、独特の魅力を引き出しているのも、岩井俊二らしい。ちょっと天然なキャラというのは、のちの『鍵泥棒のメソッド』(内田けんじ監督)での彼女を思い出させる。
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大人になった彼女は、ARITAを紙から出せないかと火をつけてみるが、そこからの展開には、『マザーグース』のハンプティ・ダンプティのような寓話性を感じる。
ところで、本作は当初、プレイヤーの不具合で無音声なのを作り手の意図だと誤解して、ずっと観ていたのだが、それでもほとんど理解可能で、むしろ味わいが増したようにも思えた。
勿論、広末涼子の特徴のある声は、魅力的ではあるのだが、サイレント映画としても十分見応えがあったのには驚き。