『真夏の方程式』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『真夏の方程式』今更レビュー|その方程式の答えは虚数解なのか、湯川先生

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『真夏の方程式』

福山雅治のガリレオシリーズ映画化第二弾。真夏の民宿旅館で起きた殺人事件。解いてはいけない謎に湯川教授が挑む。

公開:2013 年  時間:129分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:    西谷弘
脚本:    福田靖
原作     東野圭吾

       『真夏の方程式』
キャスト
湯川学:   福山雅治
岸谷美砂:  吉高由里子
草薙俊平:  北村一輝
川畑成実:  
       幼少期:豊嶋花
       15年前:青木珠菜

川畑重治:  前田吟
川畑節子:  風吹ジュン
仙波英俊:  白竜
塚原正次:  塩見三省
柄崎恭平:  山﨑光(子役)
柄崎敬一:  田中哲司
三宅伸子:  西田尚美
多々良管理官:永島敏行
塚原早苗:  根岸季衣

勝手に評点:2.5
       (悪くはないけど)

(C)2013 フジテレビジョン アミューズ 文藝春秋 FNS27社

あらすじ

手つかずの美しい海が残る玻璃ヶ浦で海底資源の開発計画が持ち上がり、その説明会に招かれた湯川(福山雅治)は、宿泊先の旅館「緑岩荘」でひとりの少年・恭平(山崎光)と出会う。

やがて旅館の近くで男性の変死体が発見され、遺体の身元が「緑岩荘」に宿泊していた元捜査一課の刑事・塚原(塩見三省)だということがわかる。

地元警察は塚原の死を転落死として処理しようとするが、現地入りした捜査一課の岸谷美砂(吉高由里子)は、塚原の死に不可解な点があることに気づき、湯川に事件解決への協力を依頼する。

今更レビュー(ネタバレあり)

真夏の自由研究は良かったが

福山雅治扮する物理学者・湯川教授が怪事件を解決する、東野圭吾の人気シリーズ『ガリレオ』の映画化第二弾ではある。

だが、原作に負けない映画としての魅力に溢れた前作『容疑者Xの献身』に比べると、正直言って本作は相当残念な出来だったと思う。本当に前作と同じ、西谷弘監督と脚本家の福田靖のコンビで撮った作品なのか、疑いたくなる。

寒い冬の隅田川沿いを舞台にした前作の重たさに比べて、真夏の海辺の町・玻璃ヶ浦(架空の地)を舞台にした本作に、どことなく陽気さやリゾート気分が入り込むのは分かる。それが殺人事件ものだったとしても、いつも暗い映画にする必要はないわけだし。

(C)2013 フジテレビジョン アミューズ 文藝春秋 FNS27社

子ども嫌いでじんましんが出るほどの湯川が、現地の旅館で出会った少年・恭平(山崎光)といつしか親しくなる。

夏休みの宿題の自由研究の材料にすればいいとは言わず、カメラ付きケータイ入りのペットボトルロケットを何度も海に向かって打ち上げる実験に付き合わせる。

少年が見たがっていた玻璃ヶ浦の美しい海の底を、二人の共同実験で見ることができた。この海上実験シーンは、湯川には珍しく童心に帰ったようで、原作以上に迫力がある。

同様に、美しい海の中や砂浜で、旅館の娘・成実(杏)が披露する水着のショットも、これは映画ならではのサービスカットであり原作では伝えきれないものだ。杏の手足の長さと顔の小ささが、印象に残る。

(C)2013 フジテレビジョン アミューズ 文藝春秋 FNS27社

ミステリーと忘れること勿れ

だが、肝心の物語の伝え方には不満だらけだ。ひとことで言えば、種明かしが早すぎる。というより、事件の真相を隠そうともしていない。原作がミステリーだということを、忘れてしまったのか。

まず、映画は雪道で赤い傘をさした女が跨線橋で刺殺されるシーンで始まる。これは被害者も加害者も分からないが、あえて冒頭で原作にもないヒントを与えることはない。

そこから映画は真夏の玻璃ヶ浦に向かう列車での湯川と少年の出会い、そして旅館に宿泊と話は進んでいく。

ここで居合わせたもう一人の宿泊客が、その後、海辺で遺体で発見される塚原(塩見三省)なのだが、原作ではこの塚原が警視庁の優秀な刑事であったこと、そして、塚原がかつて逮捕した殺人犯・仙波(白竜)は、この町と関係があることなどが、少しずつ判明してくる。

死んだ塚原と、人の良さそうな旅館の川畑夫婦との関係が悟られないように、東野圭吾は工夫していたように思う。

だが、映画では、この部分が丸出しである。塚原は登場した途端、自分は警察関係者だと名乗り、川畑節子(風吹ジュン)に仙波の名前を出す。節子は激しく動揺して場を立ち去る。

この時点で、勘のよい人でなくても、事件の首謀者は誰だか見当がつくだろう。

(C)2013 フジテレビジョン アミューズ 文藝春秋 FNS27社

推理が鋭すぎて、原作読んでるのか湯川

湯川に関しては、一酸化中毒が旅館で発生しうるかどうか等、科学の力で事件を解明するという点では一応オリジナルのフォーマットに則ってはいる。

だが、今回は頭が冴え過ぎというか、千里眼でもあるような真実への到達力がコントのようだ。

大して手がかりもないのに、次々と岸谷刑事(吉高由里子)相手に犯人と川畑一家との関係を言い当てていく湯川。旅館の屋上を見上げ、そこからはみえないのに、なぜ少年が煙突の存在を知っているのか。これを不審に思うのも、あまりに早すぎる

『容疑者Xの献身』の堤真一や松雪泰子のように、事件関係者の苦悩を丁寧に描くからこそ映画は盛り上がるのに、本作の川畑夫妻(前田吟風吹ジュン)、そして過去の事件の中心人物だった成実の葛藤描写はおざなりだ。全て湯川が先走って正答を言ってしまう。

(C)2013 フジテレビジョン アミューズ 文藝春秋 FNS27社

前作で事件解決のパートナーだった内海薫(柴咲コウ)が、本作では岸谷美砂(吉高由里子)に交代している。

これはテレビシリーズとの関係上やむないのだろうが、ラブコメ色の強い(私見です)吉高由里子は、軽快さが売りのテレビシリーズには合っても、本作の映画版には相性が悪い

彼女が出るシーンはおしなべて、笑いを取るシーンに見えてしまう。ちなみに、新作『沈黙のパレード』では14年ぶりに内海薫の柴咲コウが復帰するらしいので、これは楽しみだ。

(C)2013 フジテレビジョン アミューズ 文藝春秋 FNS27社

一応良かった点も

さて、不平不満が続いたが、前述の海上実験シーンのほか、映画ならではの良かった点もある。

例えば、旅館の座敷で少年と夕食をとっていた湯川が、紙鍋の敷き紙はなぜ燃えないかを、実験させながら説明する場面。

その後、少年は濡れたコースターを蝋燭の上に置くとどうなるか試すが、湯川はすぐにそれをはたく。その意味は、事件の真相に繋がるのだが、ここは原作よりも臨場感がある。

また、銀座の玻璃料理の店に聞き込みに行った岸谷刑事が、川畑夫婦と殺された仙波の関係にたどり着くシーンも、映画では実際に店主が古いアルバムを見せるという手を使えるので、大変分かりやすく、また効果的だった。

ここから更にネタバレしている部分がありますので、未見未読の方はご留意願います。

罪を償うべきではなかったか

結局、15年前に起きたホステス殺しの殺人事件の犯人は、まだ中学生の成実だった。実の父親の正体を知った昔の知人が突如現れたのだ。気持ちはわかるが、まだ脅迫もしていない。殺すには早すぎるあれだけの距離を追いかけて刺し殺したのでは、衝動殺人とも言い難いのでは。

カメレオン女優・西田尚美はこの嫌な女役も巧みにこなす。成実を演じた青木珠菜は、一目での中学生時代と分かるほど似ている。

成実が自分の娘であることを隠して生きてきた仙波は、娘の罪を被ってわざと塚原に逮捕され、刑期を終える。その過去を暴きにきたと思われた塚原は、旅館の主人・川畑重治(前田吟)に業務上過失致死を装って殺される。

みんな、成実かわいさに引き起こした罪である。そのことを知る成実は苦悩し、自分は罰を受けようと思うと、一緒にダイビングをした後で湯川に打ち明ける。

ここでの湯川の回答は私には解せない。
「きみの務めは人生を大切にすることだ(原作)」
「きみは恭平君を守ってほしい(映画)」

いずれも、自首しなくてよいと言っている。湯川は警察の人間ではないから、これでもよいのか。『容疑者Xの献身』では、あれほど冷徹に断罪したというのに。

(C)2013 フジテレビジョン アミューズ 文藝春秋 FNS27社

それにしても、川畑重治が甥っ子の恭平の知らぬ間に、殺人の片棒をかつがせるというのは、どうにも腑に落ちない。まあ、これは原作通りだから、映画ではどうしようもないのだろうが。

「ボク、花火あげちゃいけなかったの…?」

少年が最後に発した問いかけには、湯川の回答もさすがに切れ味が悪い。

「問題には必ず答えがあるが、すぐに導き出せるとは限らない。君ができるまで、ボクも一緒に考えていくよ」 

う~ん、真夏の方程式の答えは虚数解なのか。