『PiCNiC』(1996)
『FRIED DRAGON FISH』(1996)
『PiCNiC』
岩井俊二初期の二作品。浅野忠信には不思議な存在感。深夜ドラマの『FRIED DRAGON FISH』が『PiCNiC』と併映で劇場公開。
公開:1996 年 時間:68分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 岩井俊二 キャスト ココ: Chara ツムジ: 浅野忠信 サトル: 橋爪浩一 女医: 伊藤かずえ 牧師: 鈴木慶一 看護長: 六平直政
(一見の価値はあり)
あらすじ
精神病院へ入院することになったココは、そこでツムジとサトルに出会う。規則で塀の向こうに行けない彼らだったが、塀の上を歩いて3人で世界の終わりを見に行くことにする。
今更レビュー(ネタバレあり)
のっけから岩井俊二ワールド
1994年に撮影されていた作品であったが、一連のオウム真理教事件など当時の社会影響を勘案し、少し暴力的なシーンをカットして96年に公開された。
主人公には、本作の後『スワロウテイル』へと繋がっていくChara、そして共演に浅野忠信。本作が縁で結婚することになる二人である(その後、別れてしまったが)。
のっけから岩井俊二の世界が展開される。古びた校舎のような建物(のちに病棟とわかる)に挟まれたアスファルトにバラの花を一輪ずつ置いていく女。
その上を走ってくるクルマに両親に連れられたココ(Chara)。どうやら精神科の病棟のようだ。親に強制入院させられたココ、患者はみな白い服を着て、中庭でボーッとしている。
◇
患者の中には二人の若者、ツムジ(浅野忠信)とサトル(橋爪浩一)がいる。
ツムジを夜毎悩ませている、学校の先生の幻影が登場し、散々説教した挙句に病室で放尿して消えていくのだが、この先生の造形がハリボテの人形をリアルに人間っぽく見せていて(或いは逆か)、なかなかに不気味なのだ。
初期の岩井美学には、こういう怖さもあったのか。
ちなみに伊藤かずえが演じる、精神科医もあまり岩井っぽい撮り方ではないのだが、ツムジに馬乗りになって股間をしごいたりして、意外にもエロい役どころだった。
塀から降りない限り冒険は続く
さて、こんな病院の生活を描かれるのは息が詰まりそうだと思っていたら、ツムジとサトルは病院の塀の上を歩く遊びを始める。ココもそれに参加するが、規則を破って病院の外の塀を歩き始める。
塀から降りずに、ずっと塀の上を歩いていけば、規則違反にならない。そう信じてココはツムジと冒険に出る。
◇
ただ塀の上を歩くだけなのだが、まばゆい陽光とココの躍動感がすばらしく、またREMEDIOSのピアノ曲もそれを引き立てる。
やがて二人は教会で牧師(鈴木慶一)に出会い、「塀から地上に降りられない君たちは天使かい」とか言われて、聖書をもらう。
世界の滅亡を毎日祈っていたツムジは、世界がもうすぐ滅びると聖書を読んで確信し、本の発行日を地球最後の日と早合点。サトルも加えて三人で地球最後を見に行くピクニックに出かける。
◇
なるほど、これがPiCNiCたるゆえんか。これでピクニックが始まるまでのストーリーはつながったが、あとは物語よりも映像を楽しむべき展開になっていく。
塀の上の懲りない面々
カラスの羽根をまとったような黒装束にボロボロの蝙蝠傘のココ、男二人は病院の白い室内着で、ツムジはパラソルのような長い棒、サトルはランチの入ったバスケットを肩から下げている。三者三様のビジュアルが面白い。
この三人がまるで高鬼遊びをしているかのように、ひたすら塀の上を歩きながらあちこち放浪していく。
◇
その多くは、工場地帯がみえる川岸や海っぺりなのだが、いきなりロケ地に日本橋(それとは気づかせないアングルだったが)が登場し、三人が欄干を歩いていたのは驚いた。
あの橋の欄干歩くのは結構怖そうだけど、スタントかな。中央線の走る線路のすぐそばも歩いていたし、当時は撮影許可が緩かったのだろうか。
奇跡のラストショットに震えろ
ここからネタバレになるので、未見の方はご留意願います。
途中で警察官から拳銃を拝借したツムジは、水辺に設置された巨大な看板広告のモデル(女の無理ある笑顔が怖い)を目掛けてココと銃を撃ち馬鹿笑い。まるでボニー&クライドだ。
そして、一番良識のありそうなサトルがまず、塀を踏み外して血まみれになり死んでしまう。
◇
残った二人でバスケットを開け、想像のランチタイム。ツムジは過去にいじめられた担任教師を殺害し、その亡霊に苦しめられていたことを白状する。
一方、ココにも、殺してしまった双子の妹がいた(出ました、岩井俊二得意の双子モチーフ)。今日が地球最後の日だと信じて、二人は最後の雨に打たれ、最後のキスを交わす。主導権は完全にココのものだ。
◇
岩井作品の『Undo』にもあった奇跡のワンショットが本作にもあるとすれば、それはやはりラストシーンだろう。
太陽を撃つツムジから銃を奪い取り、ココが自分に銃口を向け引き金を引く。その瞬間にオレンジの夕陽の中を舞い上がる、彼女が纏っていた幾百の黒い羽根。言葉を失うほどに美しい。
このシーンひとつで、本作はスクリーンで観る価値がある。私は観ていないが、劇場にいたファンたちは、きっとみな、そう思っただろうな。