『ラストブラックマン イン サンフランシスコ』考察とネタバレ|失意のスケボー

スポンサーリンク

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
 The Last Black Man in San Francisco

サンフランシスコの高級な街並みの中に立つ歴史ある洋館は、祖父が建てた家。その屋敷をひたすら愛し、ついには不法に住み付いてしまうブラックマンのちょっと不思議な物語。

公開:2020 年  時間:120分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督:      ジョー・タルボット

キャスト
ジミー:     ジミー・フェイルズ
モント:   ジョナサン・メジャース
グランパ:   ダニー・グローヴァー
コフィー:  ジャマル・トゥルーラヴ
クレイトン・ニューサム:
       フィン・ウィットロック
ジェームズ・シニア: 
           ロブ・モーガン
ワンダ・フェイルズ: 
       ティシーナ・アーノルド


勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)2019 A24 DISTRIBUTION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

あらすじ  公式サイトより引用

サンフランシスコで生まれ育ったジミー(ジミー・フェイルズ)は、祖父が建て、かつて家族と暮らした思い出の宿るヴィクトリアン様式の美しい家を愛していた。

変わりゆく街の中にあって、地区の景観とともに観光名所になっていたその家は、ある日現在の家主が手放すことになり売りに出される。

再びこの家を手に入れたいと願い奔走するジミーは、叔母に預けていた家具を取り戻し、いまはあまり良い関係にあるとは言えない父を訪ねて思いを語る。

そんなジミーの切実な思いを、友人モント(ジョナサン・メジャース)は、いつも静かに支えていた。

いまや都市開発・産業発展によって、“最もお金のかかる街”となったサンフランシスコで、彼は失くしたものを、自分の心の在りどころであるこの家を取り戻すことができるのだろうか。

スポンサーリンク

レビュー(まずはネタバレなし)

A24とPlan Bのお得意な不思議映画

サンダンス映画祭で監督賞と審査員特別賞をW受賞した、サンフランシスコの都市開発に取り残されてしまった黒人たちのヒューマンドラマ。

実名で主演しているジミー・フェイルズの若い頃の実体験をベースにしており、フェイルズの幼なじみでもあるジョー・タルボット監督が長編初監督。

A24とPlan Bのお馴染み最強ABタッグで、本作もまたメジャー作品には見られない、エッジの効いた作品になっている。

実にミニシアターが似合いそうな作品だ。殆ど予備知識もないまま観始めると、いきなり防護服でゴミ拾いをする白人と、それをからかう黒人の小さな女の子

なんだこれは、ウィルスと戦う近未来(いや現代か)のディザスターものだったか。と思うと、そんな白人をバカにして辻演説をしている黒人と、気長にバスを待っているジミーとモントの二人にカメラが切り替わる。

タイトルからは、つい黒人のドラッグやバイオレンス系の話を思い浮かべてしまうが、予想は大ハズレだった。

(C)2019 A24 DISTRIBUTION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

終の棲家にしたい洋館

主人公のジミーが愛情を注いでいる対象は、サンフランシスコはフィルモア地区にある、尖がり屋根のヴィクトリアン様式の美しい家。ペンキで窓枠を塗り直しているが、どうやら居住者と思しき老夫婦に叱られている。

そう、ジミーは他人の家屋敷に惚れ込んでいるのだ。それは、この家が、もともと1946年にジミーの祖父が建て、幼い頃に自分の育った家だから。

その後、父親の代で手離してしまったが、ろくに手入れもしない今のオーナーに、彼は大いに不満を感じているのだ。

とは言っても、居住者に締め出されてはなす術がない。そう思っていると、その住民夫婦が急遽相続絡みのトラブルで、家から退去する羽目になる。決着には数年かかるだろう、その間、家は無人のままだ。

これは千載一遇のチャンスと、ジミーは親友のモントと家に無断で入り込み念願の改修作業を始めるだけでなく、昔使っていた家財一式まで家に運び込む。

いやはや、これは想像できない展開になってきた。昔住んでいた家が、その後の経済的な事情かなにかで人手に渡って、もはや入ることができない。そういう話はどこにでも転がっている。

なので、家を愛するあまり、不法占拠に出ちゃうのは、やや無理筋ではないかと、ちょっと引き気味になる。

はじめは、カリフォルニア州には空き家に住み付いて税金を支払えば居住権でも手に入るのかと、都合のいい事を考えたが、その後ジミーは銀行でローンを組んで購入しようとするので、やはり違うようだ。

そうなると、ジミーが家を大事に手入れする気持ちは美しいが、さすがに、調子のよい白人の不動産屋(フィン・ウィットロック)の方に分がある。

スポンサーリンク

サンフランシスコはフィルモア地区

このフィルモアは、サンフランシスコの歴史的な地区にあたり、かつては日本人が多く住んでいたが、戦時中にみな収容所に移されてしまった。

その後、ジミーの祖父たちの世代の黒人たちが暮らすようになるが、再開発により、多くの黒人たちは除去されるように、移動を余儀なくされたという。

フィルモア界隈は、いまやすっかり高級化してしまった。勿論治安もよくなったが、低所得者にはとても住めない街になってしまっている。いわゆる<ジェントリフィケーション>というやつだ。

私も5~6年前に仕事でサンフランシスコに行く機会があったが、好景気に支えられ、どこも観光地化、高級住宅街化が目についた。ジミーが購入価格として銀行に示したのは4百万ドル、ざっと4億円だ。そう簡単には手が出ない。

スポンサーリンク

そんな世知辛い現実をつきつける話のわりに、作品全体の雰囲気があまり重苦しくならないのは、時折ジミーの得意とするスケボーの滑走シーンがはさまるからだろうか。

サンフランシスコの長い坂道を、気持ちよさそうにジミーがスラロームしていく。なるほど、スケボー乗りには、最高の町なのかもしれない。

この町の坂道の使い方が『アントマン&ワスプ』より気持ちよい。とはいえ、映画のように市街地の中心の坂道でスケボーに乗るヤツは、実際には見かけなかったけど。

10月9日(金)公開『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』冒頭映像

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

ジミーとモントの仲良しコンビ

撮影に使われた家はセットではなく、実在する古い家のようだ。ジミーの本当の生家ではないが、さすがに本物だけあって、リアリティが違う。

家のテラスに立ってジミーとモントが下界に手を振る様子は、まるで星の王子がニューヨークに行った時のように、優雅でバカバカしい。

家にぞっこんのジミーと、芝居好きで懸命に自作をリライトしているモントの、実に仲の良いところがホッとさせる。周囲の悪友たちが茶化すようなゲイっぽい関係ではなく、ただただ気が合う親友なのだ。

そして、気弱で優しいコフィー(ジャマル・トゥルーラヴ)が家にやってきて、みんなで自宅サウナに入るのも妙に楽しそうだ。

この作品は、はじめの防護服やら湾岸に建造した原発で汚染された畸形魚が増えた話、或いは、バスに偶然乗り合わせたのが消息不明のジミーの母だったり、バス停で隣に全裸の紳士が座ったりと、人を食った演出が随所にみられる。

つい、これらに気を取られてしまうが、実はメインにあるのは、とてもピュアでシンプルな、友情話なのだ。

(C)2019 A24 DISTRIBUTION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

隠された真実にたどり着くモント

家の売却を諦めさせようと不動産屋に直談判にいったモントが、登記簿を見せられて知ったのは、あの家はジミーの祖父が黒人として初めて建てたものではなく、もっと前の時代に別の建築家によってできたものだということ。

ジミーを落胆させず、傷つけずにそれを彼に伝えるために、モントは自分の書いた芝居を使う。

だが、果たして、ジミーは長年心の支えにしてきた、自分の誇りともいえるファミリーヒストリーを、自ら捨て去ることができるだろうか。

ファーストブラックマンがラストになってしまったが、家屋敷なんかより、もっと大切なものがいつも近くにあることに、気付いてほしい。

全編にわたり、サンフランシスコ愛に満ちた映画であった。スコット・マッケンジーの懐かしき『花のサンフランシスコ』のメロディが、こんなにも似合う映画が現代に登場するとは意外だ。

本作には、大きな起承転結がある訳ではなく物足らないかもしれないが、ミニシアター系と思えば、それもまたよいか。

霧に煙る金門橋の下を、大胆にも小舟を漕いで旅立つとは、ジミーよ、どこへ行く。