『君に届け』
三浦春馬の爽やかな笑顔に、男女を問わず多くの人々が魅了されたことだろう。心が温まる珠玉の一本。そして、<貞子>に負けない眼力の多部未華子の、ピュアで真っ直ぐな思いに思わず胸が熱くなる。
公開:2010 年 時間:128分
製作国:日本
スタッフ 監督: 熊澤尚人 原作: 椎名軽穂 (『別冊マーガレット』連載) キャスト 黒沼爽子: 多部未華子 風早翔太: 三浦春馬 矢野あやね:夏菜 吉田千鶴: 蓮佛美沙子 真田龍: 佐々木大介 胡桃沢梅: 桐谷美玲 荒井一市: 井浦新
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
ポイント
- キラキラ青春映画にカテゴライズされるのか知らんが、貞子キャラの多部未華子と爽やか笑顔の三浦春馬の鉄板カップルが、観る者に甘酸っぱい記憶やら元気を与えてくれる。三浦春馬を失った今、かけがえのない珠玉の一本。
あらすじ
見た目が暗く周りから「貞子」と呼ばれる黒沼爽子(多部未華子)は、クラスになじめないでいた。
しかし、その外見とは裏腹にけなげで純粋な彼女に、誰からも好かれるクラスの中心的存在の風早翔太(三浦春馬)はひそかに好意を抱いていた。
風早の言葉を励みに、爽子は徐々にほかのクラスメートたちと打ち解けるようになっていく。
レビュー(まずはネタバレなし)
食わず嫌いの反省
この作品は、そのうちに観ようとリストに入れていたのに、未見のまま三浦春馬の訃報を聞くことになってしまった。
改めて本作を観て、彼の男女を問わず人を惹きつける魅力と、役者としての才能を感じた。
本作以降も多方面で活躍し、今後年齢を重ねてどんな演技を見せてくれるか、楽しみな俳優の一人だった。ご冥福をお祈りしたい。
◇
実は、本作は、昨今大量生産されているキラキラ青春映画のひとつかと思い、今まで観るのを敬遠していた。
だが、三浦春馬と多部未華子の共演は、TVドラマの『僕のいた時間』と『アイネクライネナハトムジーク』でとても好感を持っていたので、いつか最初の共演作を観なければと思っていた。
やはり、食わず嫌いはいけない。これは、浮わついたキラキラ青春ものとはまるで違う、地に足のついた、胸に刺さる学園青春ものだ。
◇
人気コミックの映画化だけあって、原作の出来の良さが大きいのだろうが、熊澤尚人監督の才もある。
熊澤監督の作品は『ニライカナイからの手紙』・『虹の女神 Rainbow Song』・『おと・な・り』・『ごっこ』と鑑賞してきたが、正直あまり相性はよくない。
そのため不安もあったのだが、本作は、あまりじめじめとウェットでない内容と演出が、私には心地よかった。
レビュー(ここからネタバレ)
爽子の眼力と風早の笑顔
とにかく、配役が見事にハマっていた。<貞子>と呼ばれる黒沼爽子。怖がられているとも、いじめを受けているともいえるが、およそ青春映画のヒロインとは思えない、このキャラ設定がユニークでよかった。
しかも、あの眼力と暗さ、生真面目さ。こんな役をナチュラルに演じつつ、最後に恋愛ストーリーに昇華させられる女優は、多部未華子しかいない。
クラスの席替えやラーメン屋の寄り道、お好み焼き屋で、泣きそうになるを我慢すると恐ろしい形相になる爽子の設定が、笑えるのに感動できる。
◇
風早翔太の立ち位置も絶妙。明るく誰に対しても分け隔てなく接し、多くの人から好かれているイケメン男子だが、モテても女子に強気姿勢に出ることもなく、いいヤツすぎる。
おまけに、あの爽やか笑顔。これは三浦春馬にしか、出せない、嫌味のなさだ。男からみても、惚れ惚れする。
そしてステキな仲間たち
二人のよき理解者である吉田千鶴と矢野あやねの存在が、映画に与える印象も強かったと思う。
二人ともクラスでは結構一目を置かれるキャラで、はじめは爽子の敵役だと思っていたが、堂々の友だち認定だったので、大きく安堵。
「友達ってね、気付いたらもうなってんの!」
蓮佛美沙子は地べたにあぐらをかいて座るような女子高生で、『転校生』の影響が残っているかのようだ。夏菜は、今よりも姉御キャラが強い?
◇
野球部員の真田龍は、この仲良しメンバーとは若干距離があるが、なかなか朴訥ながらも頼もしい(青山ハル改め、佐々木大介)。
こういうヤツも周囲にいないと、ただの軟派な連中だけの学校になってしまうので、貴重な存在。土手で中華まんの袋もって、あやねを待っているのも好感。
荒井一市先生は、ちょっと井浦新の演技過剰な気はしたが、まあそういうキャラも必要かも。
先生のガサツなところが、爽子の生徒手帳紛失と再発見につながり、ラストの二人の再接近に一役買うわけだし。
◇
胡桃沢梅は、いってみれば本作で唯一の憎まれキャラ。こういう役がいないとドラマとしては成り立たないわけで、そういう意味では重要。
私、可愛いでしょオーラをガンガンに発散する桐谷美玲が演じているあたりも面白い。
だが、さすがに彼女が演じているからという訳ではないだろうが、イジワル女ぶりはややマイルドで、わりとあっさり、善人に戻ってしまう。
いつまでも初々しい二人
三浦春馬と多部未華子のカップルは、お互い好き同士なのに、いつも不器用でなかなか手も繋げない役柄が多く、じれったくも微笑ましい。
本作は初共演だが、『アイネクライネナハトムジーク』でも、その初々しさは変わっていない。
「あの時感じたこの気持ちが、いつか君に届くだろうか、大きくなったこの気持ちが」
爽子のキャラのおかげで当初予想とは全然違うストーリーだったが、こんなにも心が温まる、キラキラしない青春映画は掘り出しものだった。flumpoolの主題歌が胸に響く。
「やっと届いたよ!」
以上、お読みいただきありがとうございました。原作コミックもぜひ。