『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』
岡田准一がアクションを極める、どんな相手も6秒以内で仕留めるという、伝説の殺し屋ファブルが帰ってきた。ボスの言いつけ通り、1年間は殺さない殺し屋。今回の対戦相手を演じるは、因縁の堤真一。
公開:2021 年 時間:131分
製作国:日本
スタッフ 監督: 江口カン 原作: 南勝久 『ザ・ファブル』 キャスト 佐藤明: 岡田准一 佐藤洋子: 木村文乃 佐羽ヒナコ: 平手友梨奈 宇津帆: 堤真一 鈴木: 安藤政信 清水岬: 山本美月 田高田: 佐藤二朗 井崎: 黒瀬純 (パンクブーブー) 貝沼: 好井まさお(井下好井) ジャッカル富岡:宮川大輔 女優: 橋本マナミ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
裏社会で誰もが恐れる伝説の殺し屋ファブル(岡田准一)。1年間誰も殺さず普通に暮らすようボスから命じられた彼は、素性を隠して佐藤明という偽名を使い、相棒洋子(木村文乃)と兄妹を装って一般人として暮らしている。
一見平和に見えるこの街では、表向きはNPO団体「子供たちを危険から守る会」代表だが裏では緻密な計画で若者から金を巻き上げ殺害する危険な男・宇津帆(堤真一)が暗躍していた。
かつてファブルに弟を殺された宇津帆は、凄腕の殺し屋・鈴木(安藤政信)とともに、復讐を果たすべく動き出す。一方明は、過去にファブルが救えなかった車椅子の少女ヒナコ(平手友梨奈)と再会するが……。
レビュー(まずはネタバレなし)
二作目と分かりにくい題名と路線変更
もっと二作目だと認識しやすいタイトルにすればいいのに、前作との違いが分からないものになっている。
この手のジャンルの二作目は、二番煎じでコケる作品も多いが、面倒なキャラの説明が不要のため、テンポよく見せる好例も少なくない。
◇
本作は、一作目と同じ路線ではなく、違う驚きを与えたいという江口カン監督と、主演は勿論、ファイトコレオグラファーとしても、前作以上に情熱を傾ける岡田准一の本気度により、なかなか見応えのある作品になっていて嬉しい。
明らかに前作『ザ・ファブル』とは意識的に変えてきている部分もあり、リアルさ倍増。紛らわしいタイトルと異なり、こちらは違いが分かりやすい。ボケで笑いをとりにいく匙加減も適量になって、断然気に入った。
前作にあった、ファブルがわざと寸止めで殴られて、ヘン顔をさらすようなベタな演出はない。かといって、ボケはあるし、ジャッカル(宮川大輔)も登場するので、物足りなくはないはずだ。
アクションの凄さに、ひたすら唸る
ネタバレなしで語れる最大の魅力は、やはりファブルの戦闘アクションに尽きる。
数々の武術や格闘技に精通する岡田准一の本格的なアクションは、本当にジャニーズに所属しているV6のメンバーで、<超ひらパー兄さん>までやっている男と同一人物なのか、信じられなくなる。なんという、マルチタレントぶり。
◇
アクションはひたすらリアルにいく。派手な動きも、実戦的でなければ封印しているのか。
『ミッション・インポッシブル』のイーサン・ハントの動きはない。むしろ『イップマン』にみる、防御と攻撃を同時にするような、効率重視の動きにみえる。
とはいえ、「これはブラジリアン柔術でいう、デラヒーバからのベリンボロっていう、高度な技なんです!」と岡田准一がせっかく熱く語ってくれていても、門外漢の私には魔法の呪文にしか聞こえないのが残念。
飛ぶクルマ、崩れる足場
都市伝説の殺し屋にしては、ややスケールが大きかった前作のバトルも、今回は多少ダウンサイジングしたように思う。とはいえ、迫力不足ということは全くない。
◇
例えばカーアクション後に、立体駐車場から暴走・落下するクルマからの救出シーン。どこまで本物で撮ったのかは不明だが、クルマの落下はおそらく本物だろう。あれは迫力があった。
だからこそ、そこでファブルに救出されたヒナコ(平手友梨奈)の下半身不随にも、リアリティが生まれる。
比較して申し訳ないが、三池崇史の『初恋』なんて、同じようなシーンが途中からアニメになっちゃうんだから(映画自体は面白いです、念のため)。
さらにもう一つ度肝を抜かれたのは、大規模修繕のために足場が最上階まで組まれたマンションでのアクションである。足場が崩れていく中で敵と戦うという、前代未聞の設定だが、これはどうみても危険度も難易度も極上。
大規模修繕のマンションなどどこでも見かけるものなので、身近にこんなすごい設定が見過ごされていたかという気になる。岡田准一は、この足場でも命綱一本でアクションをこなしたというのだから、尊敬しかない。
悪役の魅力も十分
さて、今回の敵は、<子供たちを危険から守るNPO団体>の代表である宇津帆(堤真一)と、その右腕である殺し屋・鈴木(安藤政信)。
◇
宇津帆はその偽善的な登場シーンから、怪しさがプンプン匂う人物であるが、岡田准一と対峙する相手が堤真一というのは、何とも感慨深い。
何せ、懐かしい『フライ,ダディ,フライ』から始まって、『SP』、『海賊とよばれた男』と、節目となる作品には、度々共演する相手だからだ。
堤真一が、ここまで分かりやすい悪役を演じるのは珍しいが、どこかに凄みを感じる。前作で福士蒼汰や柳楽優弥、向井理が演じた敵役も魅力的だったが、今回は悪役にもどこかシリアスさを感じさせる。
個人的には、殺し屋・鈴木の安藤政信が良かった。カッコいいのは勿論分かっていたが、ただの好戦的な殺し屋で、ラスボスを倒す前の格下くらいに思っていた。
だが、妹役である洋子(木村文乃)とテーブルを挟んでのバトルを繰り広げるあたりから、キャラクターに人間的な魅力が出始める。これがまたいい。
足が不自由なヒナコを演じた平手友梨奈は、敵の一味に属するも被害者的な立場で、物語のキーとなるヒロイン。
なるほど、この影のある役には、眼力十分の平手友梨奈はピッタリだ。常に不幸を背負っているような厳しい表情の彼女が、コミカルなファブルの行動に、初めて笑顔を覗かせるシーンもいい。
レビュー(ここから若干ネタバレ)
ここから若干ネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
コンプリ~ト!
原作にどこまで忠実かはあいにく存じ上げないのだが、大小とりまぜて伏線の効かせ方もなかなか気持ちよい。
ファブルが愛するおなじみのテレビタレント・ジャッカル富岡(宮川大輔)の持ちネタ「コンプリート!」。
ヒナコが鉄棒相手に苦労するリハビリで、彼女が倒れる前にファブルが駆け寄って支えないというのも、後半のネタに繋がっている。
また、ボス(佐藤浩市)の命令で1年間は人を殺せないファブルの代わりに、結果論とはいえ殺し屋の鈴木が現場に残っており、更には重機も動かせるというのも、ちゃんと意味があった。
あえて気になった点を言わせてもらうと、清水岬(山本美月)の出番がほぼデザイン会社のオフィスシーンに限られたことは、前作に比べると少々物足らない。
おまけに、彼女の出演する殆どのシーンでは、隣にいる田高社長(佐藤二朗)が得意のアドリブ的な演技でメチャクチャ目立っているので、余計に割を食っている気がする。
本作はコメディ要素を少しマイルドにしたはずなのに、佐藤二朗のアドリブは従来通り無法地帯のままなのはどういうことだろう。
山本美月が佐藤二朗のアドリブにつられて笑ってしまう姿は、『今日から俺は‼』の清野菜名との父娘を思い出させる。
1年間は不殺の誓い
殺さない殺し屋は、不殺の誓いの『るろうに剣心』のようだと、私は前作のレビューで書いていた。
剣心がまだ人斬りだった時代が最新作『るろうに剣心 最終章The Beginning』で描かれたように、ファブルが殺し屋稼業に専念していた時代が冒頭に登場する。見惚れる手際のよさだ。どうせなら、洋子の活躍シーンも見たかったけれど。
それにしても、これだけの手練れの二人に1年間殺人稼業を禁止し、それに文句もいわず従わせるボスの存在は、どれだけ怖いものなのか。原作を読んでいないと、そこがどうもしっくりこない。
佐藤浩市は、最後にチラッとは出てくるのだけれど、今回はあまり怖そうには見えない。まあ、ボスの言いつけは守らないと、殺さない殺し屋じゃなくなって、話が成立しないか。
◇
以上、ちょっと不満も書かせてもらったが、映画全体的には十分満足。アクションだけで、すでに劇場に足を運ぶ価値はある。
こんな武術の達人・岡田准一が新作『燃えよ剣』では新撰組副長・土方歳三を演じるのか。勤王の志士たちには、頭の痛い問題だろうなあ。