『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』
Thor: The Dark World
前作にあった北欧神話の格調と遠距離恋愛の切なさは、本作では随分控えめに。赤い液体エーテルの性質と見かけが、物語を難解にしている。
公開:2013 年 時間:113分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: アラン・テイラー
キャスト
ソー: クリス・ヘムズワース
ジェーン・フォスター:
ナタリー・ポートマン
ロキ: トム・ヒドルストン
マレキス:クリストファー・エクルストン
アルグリム /カース:
アドウェール・アキノエ=アグバエ
オーディン: アンソニー・ホプキンス
フリッガ: レネ・ルッソ
ヘイムダル: イドリス・エルバ
シフ: ジェイミー・アレクサンダー
ウォーリアーズ・スリー
ヴォルスタッグ:レイ・スティーヴンソン
ファンドラル: ザッカリー・リーヴァイ
ホーガン: 浅野忠信
エリック・セルヴィグ:
ステラン・スカルスガルド
ダーシー・ルイス: カット・デニングス
イアン・ブースビー:
ジョナサン・ハワード
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
英ロンドンに原因不明の重力異常が発生し、ソーの恋人で天文学者のジェーンが調査に向かうが、そこでジェーンは地球滅亡の鍵となる「エーテル」の力を宿してしまう。
事態を打開するため、ソーはジェーンを連れてアスガルドに戻るが、そのせいで家族や故郷を危機的状況に陥れてしまう。最後の手段としてソーは、血のつながらない弟で宿敵でもあるロキの力を借りることになる。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
失われた格調と遠距離恋愛の切なさ
『マイティ・ソー』の続編であるが、『アイアンマン3』と同様に、本作品もやはり『アベンジャーズ』のあとでは、物足りなさを感じえない。
ソーは神話の世界の物語であり、MCUの中でも独立した世界観が構築され、さらには前作でケネス・ブラナー監督が丹念に仕上げたシェイクスピア悲劇的な人物像が、アスガルドの王家の一族に与えられていた。
今回監督交代のドタバタの中で、最終的にメガホンを取ったアラン・テイラー監督だが、そのあたりの格調の高さがやや弱まったように思う。
◇
前作で立派だった王・オーディン(アンソニー・ホプキンス)も、今回はかつてのソー(クリス・ヘムズワース)のような荒っぽさの目立つ暴走老人と化している。
地球とアスガルドの超遠距離恋愛で音信不通の恋人を想い合うソーとジェーン(ナタリー・ポートマン)。この二人の描き方さえ、安易に再会させてしまい、感動する余地を与えない。
MCUにおいて、時間が引き離したキャプテン・アメリカとカーターの悲恋はあんなに切なく描かれているのに、距離が引き離したソーとジェーンの取り扱いはどうにも雑だ。
盛り上がり阻害要因:エーテルの難解さ
気になる点は多々あったが、映画的な盛り上がりを阻害した大きな要因は、マクガフィン的な位置づけである、エーテルの存在の難解さと、今回のヴィランであるマレキス(クリストファー・エクルストン)のキャラ立ちの弱さだと思う。
◇
エーテルというのは、インフィニティ・ストーンのひとつ、リアリティ・ストーンが液体状になっているものだが、これがヘビのようにうねりながらジェーンの体内に入ってしまう。
四次元キューブを見慣れた者には、この液体がストーンだということが理解しにくい(見慣れていない人には、そもそも謎か)。
しかもエーテルは赤いので、ジェーンの体内からマレキスが引っ張り出す絵柄は、まるで吸血鬼の餌食のようでホラー映画然としてしまう。
エーテルの力と惑星直列の影響が混然として見えるのも、物語の分かりにくさを助長し、単純にエキサイトできない構成になっている。
なんで映画では「イーサ」と発音しているのに、「エーテル」にしたんだろう。どっちも正解だけど、「エーテル」だと岩井俊二の『リリイ・シュシュのすべて』を思い出してしまって。
盛り上がり阻害要因:マレキスのイケてなさ
さて、もう一つの阻害要因であるマレキスは、スヴァルトアールヴヘイムのダーク・エルフの支配者で、かつてアスガルドの王に奪われたエーテルを取り戻そうと、長い眠りから目覚める。
今回、ヴィランの中で認識できるキャラは、このマレキスと腹心のアルグリム(アドウェール・アキノエ=アグバエ)くらいしかいないのだが、あまりに魅力がない。
◇
どのくらいの力があって、何がしたくて、どういう恨みつらみがあって、という説明にも乏しいし、言語も地球の言葉ではないので、感情が伝わらない。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のグルートなんて、台詞は一つでも、あの表現力なのに。
更には、造形がいただけない。マレキスもダーク・エルフの兵士たちもみな、どこか、東映か円谷の特撮ヒーローの出来損ないみたいなダルなデザインで、どうにも冴えない。
万事ロキのおかげで助かっている
そんな中で、ひとり気を吐くロキ(トム・ヒドルストン)のおかげで、本作はどうにか映画として格好がついている。
『アベンジャーズ』で一人、ヒーローたちを敵に好戦しただけのことはある。今回も敵か味方か容易には悟らせない変幻自在ぶりとそのクールな佇まい。
これまでのMCU作品では、一旦悪役に転じてからは、一貫してダークサイドだったロキだが、本作ではたまに善人の顔も窺わせる。
◇
この風見鶏のような変わり身が彼の魅力で、どっちかに役が固定されれば、いっきにつまらなくなりかねない。
「今度、裏切ったら殺すぞ」、と次々にソーと仲間たちに警告されても「順番を待てよ」とかわしたり、ソーの協力のため牢から出獄させてもらうと、キャプテン・アメリカに変身してみせたり(こういうカメオ出演は新鮮)。
昔からの仲間たちは健在で嬉しい限り
ロキの映画的な貢献のほか、ソーの良き友人である、シフ(ジェイミー・アレクサンダー)やウォーリアーズ・スリーの面々、ヘイムダル(イドリス・エルバ)の活躍が目立ったのは嬉しい。
冒頭の戦いのあと故郷に残ったホーガン(浅野忠信)は、そのあと出番がなかったのが少し残念。
◇
一方、地球にいる仲間たち。
今回は、助手のダーシー(カット・デニングス)に更に助手イアン(ジョナサン・ハワード)が付き、コメディリリーフだけでなく、マレキス戦の大きな戦力となっているところが頼もしい。
ソーの武器ムジョルニアをムニョムニョ呼ばわりするネタも健在。
エリック・セルヴィグ教授(ステラン・スカルスガルド)も大活躍だが、冒頭、全裸で駆け回り精神病院に収容される。
これは『アベンジャーズ』でロキに洗脳された後遺症という経緯が、映画ではよく分からなかった。ロキが死んだと沈痛な面持ちで伝えるソーを前に、喜んでしまうシーンは笑える。
◇
マレキスとの決戦の終わり方は、ソーの勝ち方にしてはちょっと物足りないが、舞台をアメリカ大陸から離れてロンドンに持ってきたのは目新しくてよい。
なお、無事にエーテルも取り除かれ、ソーも地球に帰ってきて一安心のジェーンは、本作を最後にMCUからは姿を消す(『アベンジャーズ/エンドゲーム』での回想シーンを除く)。
だが、なんとソーの最新第4作では、女性版ソーとして再登場するとか! これは嬉しいサプライズ。
「ジェーンは帰ってくる」