『007 スカイフォール』
Skyfall
シリーズ50周年記念作はサム・メンデス監督に悪役ハビエル・バルデムという豪華な布陣。1・2作目の呪縛から解放されて、新たな物語が展開。ボンドもチームプレイの時代になったか。
公開:2012 年 時間:143分
製作国:イギリス
スタッフ 監督: サム・メンデス 原作: イアン・フレミング キャスト ジェームズ・ボンド: ダニエル・クレイグ M: ジュディ・デンチ シルヴァ: ハビエル・バルデム マロリー: レイフ・ファインズ イヴ: ナオミ・ハリス Q: ベン・ウィショー セヴリン: ベレニス・マーロウ キンケイド: アルバート・フィニー ビル・タナー: ロリー・キニア パトリス: オーラ・ラパス
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
各国のテロ組織に潜入している工作員を記録したMI6のハードディスクが何者かに奪われ、ボンドは犯人を追いつめるが、MI6の長官Mの命令で放たれた銃弾に撃たれ、橋の上から谷底へと落ちていく。
Mはリストが奪われた責任を追及され辞職を迫られるが、これを拒否。しかしその直後、リストを奪った犯人によりMI6のオフィスが爆破され、さらなる犠牲者を出してしまう。
このニュースを見たボンドは再びMのもとへ舞い戻り、現場へ復帰。犯人の手がかりを求めて上海へと渡る。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
50周年を飾るにふさわしい出来栄え
ダニエル・クレイグ、ボンド三作目にして、ようやく面白い作品に巡り合えた。007シリーズの50周年を飾るにふさわしい出来栄えだ。
監督に『アメリカン・ビューティー』のサム・メンデス、敵役に『ノーカントリー』のハビエル・バルデム。アカデミー賞受賞者を両ポストに配するのは、クレイグ・ボンドは勿論、シリーズとしても初だ。
だからという訳ではないが、作品としてはアクションの冴えとドラマの格調のバランスの良さを感じるし、何より悪役のシルヴァが放つ不思議な魅力もたまらない。
イスタンブールから上海までで既に満足
まずはお馴染みのアヴァンタイトルの活劇から。
今回はイスタンブールのグランバザール、赤茶色の瓦屋根の上でのバイクチェイスの凄まじさ。そして走行列車の車両の上まで追い詰めた敵のパトリス(オーラ・ラパス)を、フォークリフトで攻撃。
そこを懸命に援護するMI6の同僚イヴ(ナオミ・ハリス)が、M(ジュディ・デンチ)の「早く撃ちなさい」との指示により躊躇いつつも発砲し、被弾したボンドが線路から谷底に落ちる。
ここまでのテンポの良さとアクションの迫力。続くアデルの主題歌。この高揚感こそ007の醍醐味と思う。
◇
本作ではMI6、それもMという個人を追い詰めるために、NATOの潜入スパイリストが奪われては徐々に公表され、更にはMI6本部ビルが爆破される(合成だろうが、なかなかの迫力)。
ボンドがイヴの誤射で死ぬわけがないので、MI6の新本部に職場復帰し、主犯を探し求めるという展開である。
◇
夜の上海の高層ビル街。無人のビルに侵入し隣接ビルにいる標的を狙撃するパトリス。それを尾行し攻撃にでたボンドとの闇の中でのバトル。
青白いイルミネーションに浮かび上がる格闘の美しさは、ボンドアクションの新境地だ。
時代の流れを受けた変化
時代の流れの影響で007もテイストが変わりつつある。
ダニエル・クレイグのボンドは歴代のような孤軍奮闘ではなく、イヴやQ (ベン・ウィショー)との連携も増え、『ミッション:インポッシブル』的なチームプレイ色が強まっている。
Qが若造なのには驚いたが、彼の発明品に大仰なガジェットがないのも時代の風潮なら、少し寂しい。本人認証機能付きのワルサーは、確か現実にスマートガンとして開発されたのではなかったか。
◇
また、ボンドガールの存在も、名称ともども過去の遺物になりつつある。本作でもっともそれらしい役なのはセヴリン(ベレニス・マーロウ)だが、彼女はいわば策略のためにボンドに近づいた。
例えばこれまでに出てきた『カジノ・ロワイヤル』の美しい人妻ソランジュや、『慰めの報酬』のMI6の事務方ストロベリー・フィールズ。
ボンドの魅力であっさりベッドを共にし、ゆえに敵に殺されてしまうような、時代錯誤なキャラは本作にはいない。イヴは魅力的だが、ボンドのひげを剃ってくれるまでの同僚で、ともに戦う仲間なのである。
三作目でやっと出てきた手強そうな敵
本作の敵であるシルヴァは、かつて香港支局時代のMの部下だった男で、自分を裏切ったMへの復讐心から今回のテロ行為に及んでいる。
いわば私怨であり、本シリーズの対象としてはスケールが小さい気はするが、ハビエル・バルデムによる怪演により、得体のしれない怖さがうまく醸し出せている。
長崎の軍艦島をイメージした(ロケは断念したようだ)シルヴァのアジトも雰囲気がある。
MI6にわざと捕まり、牢にいながらも自信溢れる態度はレクター教授かマイティ・ソーのロキのよう。そしてロンドンの地下鉄を縦横無尽に走り回る逃亡劇のシルヴァは、主役を食う躍動感だ。警官コスプレがお茶目。
MのPCをハッキングして「自分の罪を思い出せ」とかメッセージ出しちゃうところは、篠原涼子の『アンフェア』の犯人みたいで、ちょっとチープだったけど。
◇
ボンドがシルヴァを追うメインストーリーと並行して、重要機密であるデータファイルの漏えいなどMI6での失態でMが審問を受けている。
今回初登場の政府高官ギャレス・マロリーはここまではMを失脚させようとする食えない政治家のようだったが、実戦経験も豊富で、なかなかいいヤツかもというのが議会が襲撃されたところから読み取れる。
どっちの役かをなかなか悟らせないのは、さすがレイフ・ファインズ。
ボンドの生家スカイフォール
ここからネタバレありますので、未見の方はご留意願います。
本作の盛り上がりはタイトルでもあるボンドの生まれ故郷スカイフォール。移動はクラシックなアストン・マーチンDB5。今回もボコボコにされる。
死んだ両親に代わり屋敷を守る猟場管理人キンケイドにアルバート・フィニー、渋い。この役を50周年だからショーン・コネリーにという案は見直されて良かった。
歴代ボンドがこの先イベントごとにカメオ出演されては、観る方は混乱する。ボンドは一人でいいのだ。途中から主役より目立つコネリーが出てきたら『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』になってしまうし。
古い屋敷に籠城して、手作りの武器で抗戦するというありがちなパターンが、007に使われるとは意外。何とかMを守ろうという姿勢が伝わってくる。
撃たれて死んでしまいそうと思っていたキンケイドは無事で、なんとボンドがシルヴァを倒した後に、凶弾に倒れたのはM。
「私はひとつ正しかった」と言って、ボンドの腕の中で息絶える彼女こそ、本作のボンドガールだと思った。
◇
そしてジュディ・デンチのMは7作目にあたる本作で殉職し、後任はレイフ・ファインズ。また、イヴは本名であるマネーペニーを名乗り、今後は本部勤務となる。全て次回作への布石だ。
大活躍のあと、最後に本名が明かされてファンがニヤリとする演出は、『ダークナイト・ライジング』のバットマンの相棒ロビンの時と似ている。
◇
新しい上司からミッションを受け、ボンドは張り切って、次の任務に向かう。そう、ボンドの復帰可否テストを水増し合格させたM。彼女はひとつ正しかった。
『007 カジノ・ロワイヤル』
(2006)
『007 慰めの報酬』
(2008)
『007 スカイフォール』
(2012)
『007 スペクター』
(2015)
『007 ノータイムトゥダイ』
(2021)