『ウォーフェア 戦地最前線』
Warfare
アレックス・ガーランド監督が、イラン戦争を従軍者の記憶のみから再現した仮想体験ムービー。
公開:2026年 時間:95分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: アレックス・ガーランド
キャスト
レイ: ディファラオ・ウン・ア・タイ
エリック: ウィル・ポールター
エリオット: コスモ・ジャーヴィス
フランク: テイラー・ジョン・スミス
サム: ジョセフ・クイン
トミー: キット・コナー
マック: マイケル・ガンドルフィーニ
レラス: アダイン・ブラッドリー
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
2006年、イラクの危険地帯ラマディ。アメリカ軍特殊部隊の8人の小隊が、アルカイダ幹部の監視と狙撃任務に就いていた。
ところが、想定よりも早く事態を察知した敵が先制攻撃を仕掛け、市街地での全面衝突が勃発。退路を断たれた小隊は完全に包囲され、重傷者が続出する。
部隊の指揮を執ることを諦める者、本部との通信を断つ者、悲鳴を上げる者など、現場は混迷を極めていく。そして負傷した仲間をひきずり、放心状態の隊員たちに、さらなる銃弾が降り注ぐ。

レビュー(若干ネタバレあり)
劇場が戦場になっている
「95分間、あなたを戦場に閉じこめる」というキャッチコピーは誇大広告ではなかった。というか、これは映画といっていいのだろうか。まるで、仮想体験のようなものだ。
アレックス・ガーランド監督の前作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、近未来ともいえない現代の戦争を描いた異色作ではあったが、まだ映画の枠組みを超えてはいなかった。
本作には、ドラマらしい物語はほぼない。冒頭に、「イラク戦争の従軍者の記憶のみに基づいた映画だ」と断りが入る。ドキュメンタリーに近いのかもしれない。
2006年、Navy SEALsとアメリカ海兵隊の隊員で編成された特殊部隊<アルファ-1小隊>の8人が、危険地帯ラマディでの任務中に遭遇した、絶体絶命の体験を描いている。

冒頭は、戦地の宿舎で、『サブスタンス』でデミ・ムーアが出演していたような、セクシーなインストラクターのエアロビクスのビデオを全員で食い入るように観賞している隊員たち。
『地獄の黙示録』よりもだいぶチープな、兵士たちの慰安風景。そこから、敵アジトへの潜入。まだ、おふざけムードが残る兵士たち。
だが、以降カメラはその屋敷から離れることはない。ここが地獄絵図の舞台となるのだ。
ゲームとは全く違う実弾の恐怖
夜間に潜入した部隊、夜の静けさが周囲を包む導入部分。だが、監視していたはずのアルカイダの連中から、先制攻撃となる手りゅう弾が投げ込まれてからは、終始劣勢が続き、激しい銃撃がやむことはない。
- 通信兵のディファラオ・ウン=ア=タイは知らない顔だが、
- 指揮官に『ミッドサマー』でも悲惨な目に遭ったウィル・ポールター
- 下士官には『ファンタスティック4』で陽気なヒューマントーチ役のジョセフ・クイン
- 別の小隊長には『メイ・ディセンバー』のチャールズ・メルトンなど。

それなりに知られた俳優が登場しているのに、みんな必死な形相だから、役者にみえない。
というか、役名はおろか部隊のなかで誰がなんの役割だかもよく分からないほど混乱し、映画の中の隊員たちと同様に、ただおろおろするばかり。
◇
発煙筒で視界を遮る中で、救出に来た戦車に負傷兵を搬出しようとするメンバー。戦車の中が、これほど安心毛布のような安らぎに満ちているとは想像していなかった。
そして途切れることのない、敵味方からの銃撃。腹にどすんと響く重低音。この迫力の音響は劇場でなければ体験できない。家のリビングでは遠く及ばないだろう。

途中、時おり人工衛星から戦場をとらえた動画映像が差し込まれるのをみると、近代兵器による戦いなのだと実感する。
この手の映像で思い出すのは、イーサン・ホーク主演の『ドローン・オブ・ウォー』(2015)だ。普通の日常生活を過ごす兵士たちが、身の危険を感じることなく、まるでゲームのように、リモートで戦地に攻撃をかける。
あの映画の薄ら寒さとは対極的に、本作では生身の人間たちが、我が身を危険に晒しながら、戦っている。というより、何とか生き延びようと逃げ回っている。戦争とはこういうものなのか。

エンディングにボカシ顔とは
泣く子も黙る怖いもの知らずのNavy SEALsのメンバーでさえ、重傷を負って痛みに耐えきれず絶叫を続ける。
「モルヒネをくれ!」と叫ぶ負傷者に慌てて注射をしたら、上下を誤って自分に針をさしてしまう場面に笑う余裕はないが、実際の戦場にはこういう混乱が付き物なのだろう。
上官の承認なしには戦車を出せないと答える本部の連中を騙し、無理やりに戦車を派遣させる。この懲罰ものの違反行為があったからこそ、ここにいる<アルファ-1小隊>のメンバーは生き延びられたのだと思うと、感慨深い。

結局、最後まで敵のアルカイダだちの人物像は描かれることはなく、無個性な存在としてしか登場しない。
敵味方双方の顔ぶれが分かるのなんて、神の視点を持つものだけなのだ。当の兵士たちは、ただ闇雲に眼前の無名な敵に銃口を向けるだけだ。
◇
この映画で驚いたのは、エンディングに登場する、本物の隊員たちの半分ほどのメンバーが、顔出ししていないことだ。
普通、こういう演出では、映画の中の俳優と本人の写真が並ぶものだが、その片方の顔がボカシなのである。
そうか、みんなが名誉ある撤退をした訳ではなく、顔バレしたくない人もいるのだろう。それを包み隠さずに、堂々とボカシ顔で登場させるアレックス・ガーランド監督の演出は、斬新に感じた。
映画としての面白味や奇抜さは、前作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』に敵わないと思うが、戦争そのものをリアルに再現したという点では、ユニークな作品だと思う。
