『トロン:アレス』
Tron: Ares
世界初の画期的CG映画だった『トロン』のシリーズ三作目。これはぜひ大画面で堪能したい!
公開:2025年 時間:119分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ヨアヒム・ローニング
キャスト
アレス: ジャレッド・レト
<エンコム社>
イヴ・キム: グレタ・リー
セス・フローレス:アルトゥーロ・カストロ
アジャイ・シング: ハサン・ミンハジ
エリン: サラ・デジャルダン
ケヴィン・フリン: ジェフ・ブリッジス
<ディリンジャー社>
ジュリアン: エヴァン・ピーターズ
エリザベス: ジリアン・アンダーソン
アテナ: ジョディ・ターナー=スミス
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
AIプログラムを実体化する画期的な発明によって開発された、AI兵士のアレス(ジャレッド・レト)。彼は圧倒的な力とスピード、優れた知能を持ち、倒されても何度でも再生可能という、まさに史上最強の兵士だった。
だが、現実世界で人間を知ったアレスにある異変が起きる。やがて、制御不能となったAIたちは暴走を始め、デジタル世界が現実世界を侵食していく。
レビュー(まずはネタバレなし)
今でも通用するのか、そのCG手法
オリジナルの『トロン』(1982)といえば、全面的にCGを採用した初めての映画として話題になったのをよく覚えている。
だけど、公開当時、観に行くことはなかった。クリエイターが手作りで夢を創造している特撮の世界を、コンピュータが駆逐するなんてまっぴら御免だと思っていたからだ。
あれから40年以上がたち、CGの技術進歩はめざましく、作品に描かれたAIの脅威でさえ、すっかり現実のものに置き換わった。
いまやSF映画は勿論、ありふれた家族ドラマにさえ、何らかのCG技術は使われているのではないか。そんなご時世に、はたして『トロン』の新作が今更受け容れられるのか?
そんな気持ちでいたのだが、劇場予告はやたらカッコいい本作。『オリジナル』も『レガシー』も観ていないのに、つい劇場に足を運んだ。だって、誰かが予備知識は不要と言ってたし。
正直、今のディズニーに大人の観賞に耐える、イカした映画なんて作れるのかってバカにしてたところもあったのだが、いや、失礼しました。
『トロン:アレス』、十分にクールな映画でした!

CG映像と大迫力の音楽の共演
やはり圧倒的に素晴らしいのが、本シリーズのアイコンともいえる、大友克洋も金田のバイクの参考にしたらしい、例の光るバイク。これが、カタツムリみたいに走った軌跡を残して夜の街を疾走する姿の、何と美しいこと。
AIプログラムを実体化して生まれた、100%エクスペンダブルズな再生可能兵士たち。こいつらの戦闘服とバイクが闇の中に赤く光り、ついでに、手にしているフリスビーのような兵器も光りながら飛び回る。

その妖しく美しい光景に、ナイン・インチ・ネイルズの重低音の効いた音楽が調和する。この見事な合わせ技は、他の凡百のSFアクションを凌駕している。
◇
過去作未見でも十分楽しめたのは確かだが、はじめのうちは状況が分からずに少々戸惑う。
ざっくり言えば、デジタル世界の「グリッド」というものがあり、エンコム社とディリンジャー社がAIに関する覇権を争っている。
どっちに肩入れするのか分からずにいたが、どうやら「グリッド」の創設者ケヴィン・フリンと息子のサムは失踪中で、後釜のイヴ・キム(グレタ・リー)がエンコム社を率いている。

一方のディリンジャー社では、母のエリザベス(ジリアン・アンダーソン)からCEOの座を貰い受けたジュリアン(エヴァン・ピーターズ)がスタンドプレイ。
AIプログラムの実体化に成功し、戦地にAIの戦車や戦士を派遣できるようになったと発表する。
このジュリアンのおかげで、どっちが悪役かがようやく判明。彼は公表しなかったが、AIの実体化は29分の壁を超えられず、そこで全て分解してしまう致命的な欠陥があった。
それを解決する永続コードをイヴが見つけ出し、ジュリアンは必死になってそれを奪おうとする。基本的にはそういう構図の物語だ。
敵に共感してしまう、寿命29分の兵士
ディリンジャー社のAIプログラムを実体化する画期的な発明によって生まれた兵士アレス(ジャレッド・レト)。
その部下のアテナ(ジョディ・ターナー=スミス)とともに、イヴが隠し持つ永続コードを奪おうと、彼女をバイクで追いかける。
なんだよ、ジャレッド・レトは悪役側なのね。そう思っていたところに、アレスはイヴと出会ったことで、何かに共感し、ついにはジュリアンCEOの命令に背くようなる。

アレスはきっと、29分しか生きられない人生を繰り返すことに嫌気がさしてしまったんだな。
何度も殺されたり、早死にする運命だったりという、古くは『ブレードランナー』から『ミッキー17』までのクローン固有の苦悩と悲哀。AIプログラムのアレスにも当てはまるのだろう。
こうしてアレスは、デビルマンのごとく組織を裏切り、戦うことを決意する。そんな彼らを、ワカンダ王国の親衛隊長のような形相でアテナが攻撃してくる。
29分の脆弱性にこだわった展開
それにしても、ケイジャン系のジャレッド・レト、韓国系のグレタ・リー、ジャマイカ系のジョディ・ターナー=スミスを主要キャストにする、ディズニーの俳優の多様性への本気度は見上げたものだ。
◇
何も知らずに劇場予告だけ観ると、AI兵士の軍団が大きな母船とともに地上に現れて人間を襲う、みたいな、『インデペンデンス・デイ』や『ターミネーター』的展開を想像していたのだが、全然違った。
この「AI実体化の持続時間29分」という設定が、地味ながらも物語全体をかなり面白くしている。
ちなみに、この後半に登場してくる、AI兵士が乗っている超大型の母船の不思議な形状も斬新でよい。神戸港を襲った巨大ロボット、キングジョー(©円谷プロ)が分解した時も、あんな感じだった。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
永続コードを入手するために、アレスが80年代の「グリッド」の世界に潜入するのだが、そこに入ると、当然ながら昔のCG技術の世界になっているという発想がいい。『トロン』のオリジナルの雰囲気を彷彿とさせる。
『スパイダーバース』のパラレルワールドでも、昔のスパイダーマンは粒子の粗い2Dアニメで登場していたが、似たような発想。

そして、この世界でアレスは、創設者ケヴィン・フリン(ジェフ・ブリッジス)に遭遇する。ここで大物俳優使うんだなあと思ったが、ジェフ・ブリッジスは1作目からずっとこの役をやっていたのか。
三作目がここまで面白いのなら、過去作を遡って観るしかないな、こりゃ。
映画自体は、サプライズもなく無事にハッピーエンド。次回作に含みを持たすラストだが、4作目の頃には本作の世界はどこまで現実となっているのだろう。
AI相手に、「どんな手段を使っても」と命令してはいけないことは肝に銘じていこうと思う。