映画『宝島』考察とネタバレ|なんくるないで済むか!

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『宝島』
 Hero’s Island

大友啓史監督が妻夫木聡主演で直木賞原作を堂々の3時間超映画化。戦後沖縄の熱量を感じろ。

公開:2025年 時間:191分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:        大友啓史
脚本:         高田亮
           大浦光太
原作:        真藤順丈

            『宝島』
キャスト
グスク:       妻夫木聡
ヤマコ:       広瀬すず
レイ:        窪田正孝
アーヴィン・マーシャル:

      デリック・ドーバー
小松:         中村蒼
チバナ:       瀧内公美
タイラ:         尚玄
ダニー岸:       木幡竜
謝花ジョー:     奥野瑛太
辺土名:       村田秀亮
ウタ:         栄莉弥
徳尚:        塚本晋也
オン:        永山瑛太

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

あらすじ

1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民らに分け与える「戦果アギヤー」。

いつか戦果をあげることを夢見るグスク(妻夫木聡)、ヤマコ(広瀬すず)、レイ(窪田正孝)の幼なじみの若者三人と、彼らにとって英雄的存在であるリーダーのオンちゃん(永山瑛太)

しかしある夜の襲撃でオンちゃんは米軍に反撃され、そのまま消息を絶ってしまう。

残された三人はオンちゃんの影を追いながら生き、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、それぞれの道を歩んでいく。

アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境で、思い通りにならない現実に、三人はやり場のない怒りを募らせていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

やられた。圧巻の191分だった。

本土とはまったく異なる沖縄の戦後の歴史、統治される米軍との軋轢、鬱積する市民感情、そして、最後にはコザ暴動に発展するまでの沖縄史が、真正面から描かれている。

それでいて、ある日、忽然と姿を消してしまった、仲間たちの英雄であるオンちゃんを探すという、サスペンス要素もしっかりと中心に据えており、一級のエンタメ作品に仕上げているところは、さすが大友啓史監督の手腕だ。

真藤順丈による直木賞受賞の同名原作は、以前に読んでいた。

圧倒的な熱量の超長編で、主人公・グスクの独特な語り口によって綴られる物語は、久々に夢中にページをめくらせてくれる面白さだった。沖縄についての文化や歴史の小ネタも満載で、著者が沖縄人でないことに愕然としたほどだ。

映画は原作同様に、リアルな沖縄を再現してくれる。失踪したオン(永山瑛太)の親友グスク(妻夫木聡)、オンの恋人ヤマコ(広瀬すず)、オンの弟レイ(窪田正孝)

原作者同様、主要キャストにも沖縄人がひとりもいないことが信じられないほどの、言葉や雰囲気の説得力。同時期に公開された沖縄映画『風のマジム』も沖縄言葉で話していたのに、その本物感の差は歴然。

3時間越えの作品とはいえ、原作の全てを容易に詰め込めるわけではなく、高田亮ら脚本家の努力が窺える。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

「戦果アギヤー」(戦果をあげる者)というのは文字で見ないと頭に入りにくい、御嶽うたきが琉球の自然崇拝に基く神聖な場所であることも伝わりにくい気はしたが、総じて原作未読でも理解できない部分はなく、存分に盛りあがれる。

東映『宝島』に先行し、同じく3時間近い大作でタイトルに「宝」が入る東宝『国宝』が記録的なヒットを飛ばしているが、本作も内容的には負けていない。

もっとも、ヒットするに越したことはないのだろうが、コロナ禍で何度も暗礁に乗り上げたこの企画を完遂させた大友啓史監督やアンバサダーとして全国を行脚した妻夫木聡は、沖縄人の思いと熱量が、観るひとに伝わることを望んでいるように感じた。

沖縄が日本に戻る前の時代、戦果アギヤーとして米軍から戦利品を奪ってくる強盗団たちの首領オンちゃんが突如姿を消す。

そして数年後、オンちゃんを探すために、親友グスクは琉球警察の刑事になり、弟のレイは戦果アギヤーの罪をかぶり刑務所で情報を集める。一方ヤマコはオンちゃんとの約束を守り、彼が建てた小学校で教師になる。

みんながオンちゃんを待ち続け、米軍や日本政府に裏切られながらこの町で生きている。

米軍兵が飲酒運転で市民を事故死させても、女性を襲っても、戦闘機を墜落させても、最後には島人の泣き寝入りで終わる。

1972年に悲願の本土復帰を果たしても、米軍基地は残留し続けるという矛盾。人々は基地の前で抗議活動をするしかない。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

刑事のグスクには、協力を求める米軍諜報部のアーヴィン(デリック・ドーバー)と通訳の小松(中村蒼)が近づき、裏の世界で生きるレイは、那覇派の活動家タイラ(尚玄)と共闘するようになる。

ヤマコの勤める小学校の上空から、米軍機が落ちてくる。

沖縄映画といえばこの人という尚玄は、『風のマジム』のインテリ上司役よりやっぱこっちの役の方が似合う。通訳小松役の中村蒼は、はじめ誰だか分からなかったほど、同時通訳が板についていた。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

妻夫木聡『涙そうそう』(2006、土井裕泰監督)で沖縄とは縁がある。久々に、彼が感情をむき出しにヒートアップする演技を観た気がする。こういう妻夫木聡は、いいな。

窪田正孝のヤクザキャラは、『悪い夏』(2025、城定秀夫監督)ですっかりおなじみの安定感。

『ある男』(2022、石川慶監督)でずっと妻夫木聡が探し続けていた窪田正孝と共演し、今度は二人で永山瑛太を探しているという構図は面白い。

石川慶監督といえば、新作『遠い山なみの光』の主演が広瀬すずで繋がる。現代っ子の代表格みたいな世代だと思っていた彼女が、『ゆきてかへらぬ』あたりからすっかり大正・昭和のハイカラな女性をも見事に演じるようになった。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

映画化にあたり、今回もっとも感銘を受けたのは、コザの繁華街の再現だ。勿論、当時の様子など知っているわけではないのだが、当時の面影を求めて、つい半年ほど前にも沖縄市(旧コザ市)に足を運んでいる。

相変わらず店は多く独自の雰囲気はあるものの、当時の盛況とは違うのだろう。だから、今回の大がかりなセットには興奮する。ここで映画のように、米軍車両を転覆させたり、怒り心頭の沖縄人の暴動があったのだ

とても走行可能にはみえないビンテージカーを多数用意し、大人数のエキストラを動員して、当時の町並を再現。全編を通じ随所に特撮は施されているのだろうが、そうとは感じさせない匙加減がドラマに没入させてくれる。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

ニクソン大統領佐藤栄作首相、その他戦中・戦後のアーカイブ映像を効果的に差し込み、沖縄がただの平和な観光リゾートではないことが、若い世代にも十分に伝わったはずだ。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

原作を読んでいた際には、当初主人公と思われたオンちゃんがいつになっても再登場してこないもどかしさを感じた。

登場しないことに意味があったわけだが、映画ははじめからグスクが主人公だと認識させているので、不思議に思わずに観ていられる。

オンちゃんの回想シーンもふんだんに使われているので、永山瑛太の存在感もある。時空を越えての共演場面もあって、映画なりのアレンジが楽しめた。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

危険な毒ガス兵器が基地内に持ち込まれているという一件が徐々に明らかになっていく。福井晴敏『亡国のイージス』を思わせる展開だ。

レイは<貧乏人の核兵器>であるVXガスを手に入れ、米軍に戦いを仕掛けようとする。

「ベトナムにできて、何で俺たちはアメリカーと戦えんのよ!」

この台詞はさすがに映画では割愛されてたが、彼らの心の叫びなのだと思う。ちなみに「アメリカー」と語尾を伸ばし後半にアクセントが沖縄流。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

途中から登場する戦争孤児の混血少年ウタ(栄莉弥)を、ヤマコは母親のように目をかけているのだが、やがて大きくなるこの青年が、物語では重要な役割を担っている。

コザのカオスの中で、グスクが怒りで叫ぶ。

「なんくるないで済むかー!」

なんくるないわけがない歴史を積み重ねて耐え忍んできた沖縄に、オンちゃんは変化を生み出そうとしていた。その情熱を伝えるために、語り継がれる映画が出来上がった。

ヒーローに続こう。そう思いたくなる映画だった。