『メガロポリス』考察とネタバレ|コッポラ監督推しにとっての<踏み絵>

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『メガロポリス』
 Megalopolis

フランシス・フォード・コッポラ監督が40年間の構想期間と巨額の私費を投じたSF叙事詩

公開:2025年 時間:138分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:  フランシス・フォード・コッポラ
キャスト
カエサル・カティリナ:アダム・ドライバー
キケロ市長:
 ジャンカルロ・エスポジート
ジュリア・キケロ:ナタリー・エマニュエル
ワオ・プラチナム:  オーブリー・プラザ
クロディオ・プルケル:シャイア・ラブーフ
ハミルトン・クラッスス:ジョン・ヴォイト
ロメイン: ローレンス・フィッシュバーン
ヴェスタ: グレース・ヴァンダーウォール
ヌシュ・バーマン: ダスティン・ホフマン

勝手に評点:2.5
 (悪くはないけど)

(C)2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

あらすじ

21世紀、アメリカの大都市ニューローマでは、富裕層と貧困層の格差が社会問題化していた。

新都市メガロポリスの開発を進めようとする天才建築家カエサル・カティリナ(アダム・ドライバー)は、財政難のなかで利権に固執する新市長フランクリン・キケロ(ジャンカルロ・エスポジート)と対立する。

さらに一族の後継を狙うクローディオ・プルケル(シャイア・ラブーフ)の策謀にも巻き込まれ、カエサルは絶体絶命の危機に陥る。

レビュー(若干ネタバレあり)

御年86歳、巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督の新作。かつてジョージ・ルーカスと立ち上げたアメリカン・ゾエトロープ社のロゴが冒頭に浮かび上がるだけで、感銘を受ける。

崩壊の危機に直面する近未来のアメリカを古代ローマ帝国に見立てた壮大なSF叙事詩。過去何度も破産から復活を遂げてきたこの偉大な映画人は、この新作にも破格の製作費と構想時間を投じている。

『地獄の黙示録』が完成したころから、それこそ40年近くを本作の構想に費やし、脚本を300回書き直し、1.2億ドルの私財を惜しげもなく投じてきたのだ。

だが、そういった努力がそのまま映画の出来に繋がらないところが、この世界の皮肉でもあり、面白さでもある。この待望の新作は、米国ではさんざんな評価だったらしく、ラジー賞コッポラ最低監督賞を獲得。

それでもコッポラはこの受賞に肩を落とすことなく、採算重視の商業映画ではなく芸術作品を撮るからには、万人に評価されないことは承知のうえで、だから受賞はむしろ本望だと、強がって見せた。カッコいい大人だと思う。

そんなわけで、たとえどんなに酷評の嵐でも、この映画は劇場で観なければ、そういう思いで足を運んだ。さて、出来ばえはどうだったかというと、なるほど賛否両論(どちらかというと否定が優勢か)は肯けるという感想。

ここまで書いてきたような、コッポラの努力にまつわるサイドストーリーに酔えたり、ハッとするような映像美とその世界観に満足できるひとには、この作品は刺さると思う。

だけど、近未来風にアレンジしたとはいえ、古代ローマの物語やキャラクター造形はあまりに古臭く、脚本としても古典的でサプライズがなく、新作とは思えないと感じるひとも多いだろう。私はどちらかというと後者だった。

映画は冒頭、マンハッタンの摩天楼でビルのてっぺんから下界を見下ろす主人公の天才建築家カエサル・カティリナ(アダム・ドライバー)

カエサルは時を止めることができる。その能力が最初に明かされることは、彼がやがて町全体を自身で発明した新素材メガロンで再開発していく神のような存在になる布石なのだろうが、正直にいって、映画で有効に機能したとは言い難い。

近未来でもどこか古臭いマンハッタンの景色はよく描かれており、カエサルのオフィスがある超高層のビルはひときわ目立つ。だがその美しさは、アールデコ建築の傑作、クライスラービルそのものの功績であり、映画の手柄ではない。

舞台となるニューローマで、カエサルは市の都市計画局長を務めている。伯父の大富豪で銀行頭取のクラッスス(ジョン・ヴォイト)の援助を受け、彼は理想都市の建築計画に心血を注いでいる。

カエサルは、財政難のなかで利権に固執しカジノを建設しようとするキケロ市長(ジャンカルロ・エスポジート)と対立しているが、市長の娘ジュリア(ナタリー・エマニュエル)はカエサルに共感し、彼のもとで働き始める。

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一方、カエサルの恋人でテレビ番組の司会もやる金融ジャーナリストのワオ・プラチナム(オーブリー・プラザ)は野心家で、高齢のクラッススと結婚する。

クラッススの孫で不出来な問題児クローディオ(シャイア・ラブーフ)は、後継者争いで、目につくカエサルを失脚させようと企む。

カエサルとキケロ市長の対立を軸に、それぞれの親族や関係者がさらに敵味方を作って絡み合う人物相関図を作っている。とはいえ、人間関係はそう複雑ではなく、『ゴッドファーザー』に比べれば単純なものだ。

カエサルはその名の通り、ジュリアス・シーザーを意識した役なのだろう。余談だが、日本語字幕はカエサルとキケロだが、英語の台詞ではシーザー、シセロと言っているので、そのまま採用してくれれば違和感がないのにと思った。

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ティーンのポップスター、ヴェスタ・スウィートウォーター(グレース・ヴァンダーウォール)がステージで歌う幻想的なシーンは目を引く。その後のスキャンダラスな展開は置いといて、このシーンの美しさは『ワン・フロム・ザ・ハート』を彷彿とさせる。

その他、街中で巨大なローマ彫像が熱中症にやられたかのように突如動き出して寝転んでしまったり、キケロ市長のデスクが執務室で砂に埋もれていったり、超高層のクライスラービルの上で鉄柱の上をカエサルとジュリアが歩いたりと、映像的に印象深いシーンは多数ある。

それが、物語とうまく繋がっていかないチグハグ感は最後まで拭えなかったのだが、この作品も数年後、他のコッポラ監督作品と同じように、未公開シーンを30分くらい増量したディレクターズカット版がお目見えするかもしれない。

そうなったら、文句なしの傑作になりえる可能性は秘めている。(個人的には、米国では存在する『コットンクラブ』のディレクターズカット版の日本公開を待っているのだが)

クラッスス役のジョン・ボイド泉谷しげるに見えてしまい笑ってしまった。キケロのフィクサーとしてダスティン・ホフマンがチョイ役で出演しているので、『真夜中のカーボーイ』繋がりかよとツッコみたくなる。

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主演のアダム・ドライバーはどんな不可思議な役でも淡々とこなすが、今回の神格化されたカエサル役は、マイケル・マン監督の『フェラーリ』エンツォ・フェラーリを思わせた。

何だか、ろくに内容の紹介ができなかったが、そこを頑張って説明する映画ではないということで、先行上映会のように、コッポラの手掛けるワインを片手に、酔いながら鑑賞する感じが丁度よいのかもしれない。