『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』一気通貫今更レビュー③

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『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』
Harry Potter And The Prisoner Of Azkaban

公開:2004 年  時間:142分  
製作国:イギリス

スタッフ 
監督:    アルフォンソ・キュアロン
脚本:     スティーブ・クローブス
原作:        J・K・ローリング
 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』
キャスト
ハリー・ポッター:ダニエル・ラドクリフ
ロン・ウィーズリー:ルパート・グリント
ハーマイオニー・グレンジャー:
            エマ・ワトソン
シリウス・ブラック:
        ゲイリー・オールドマン
リーマス・ルーピン:
        デイビッド・シューリス
ピーター・ペティグリュー:
         ティモシー・スポール
ダンブルドア:   マイケル・ガンボン
スネイプ:     アラン・リックマン
マクゴナガル:     マギー・スミス
ハグリッド:   ロビー・コルトレーン
トレローニー:    エマ・トンプソン
ドラコ・マルフォイ: トム・フェルトン
ネビル・ロングボトム:マシュー・ルイス

勝手に評点:3.5 
(一見の価値はあり)

あらすじ

ホグワーツ魔法魔術学校の三年生になるハリー。人々の噂では、囚人シリウス・ブラック(ゲイリー・オールドマン)がアズカバン監獄を脱獄し、ハリーの命を狙っているという。

ホグワーツにはブラックを捕縛するためという名目で、アズカバンの看守である吸魂鬼たちが配備される。

新たに就任したリーマス・ルーピン教授(デイビッド・シューリス)らの下で学校生活を送るハリーは、やがてブラックがかつて父の親友であったこと、そして親友である父を裏切り闇の魔法使いの手下になったことを知る。

一気通貫レビュー(ネタバレあり)

シリーズ三作目にして、監督がクリス・コロンバスからアルフォンソ・キュアロンに変更。原作を忠実に映画化しヒットさせたコロンバスが不評だったわけではなく、このシリーズの監督業に忙殺されたことで降板申し出があったようだ。

同様の理由でキュアロンも自分らしい映画を撮りたいと本作一作で続投を辞退し、『ゼログラビティ』『ROMA』でのオスカー獲得に至る。ともあれ、本作はそんなキュアロン監督による貴重な一本。

ホグワーツも三年生ともなると、幼かったハリーたちも当初からはすっかり成長、呪文を唱える様子も板についてきた。

相変わらずハリーは人間社会ではダーズリー家で虐げられて暮らしているが、死んだ両親を悪く言う叔母にカッとなり、魔法をかけて風船のように身体を膨らませて空に飛ばすお仕置き。

従順だった少年期からの脱却か、この感情剥き出しなハリーの険悪な雰囲気にもみられるように、本作はこれまでのお子様向きファンタジーから一歩ダークに転調している。これはいい。

だって、『賢者の石』から本シリーズを観てきたファン層の子供たちも、ハリーやハーマイオニーたちと同様に成長しているのだから。

タイトルにある<アズカバンの囚人>とは、シリウス・ブラック(ゲイリー・オールドマン)のことだ。

恐ろしい吸魂鬼が看守をする魔法牢獄アズカバンから脱獄したシリウスが捕まっていないことから、魔法世界では厳戒態勢がとられている。しかも、どうやらシリウスは、ハリーの命をねらっているらしい。

シリウスは、名前を出せないあの人(ヴォルデモート)の部下で、かつてはハリーの両親と親しかったが、二人を裏切ってその居場所を主君に教え、死に追いやったとされる人物。

主君を倒したハリーを殺すことで、再び自分の復権を図ろうというのだ。

ゲイリー・オールドマンの好演はあったが、シリウスが何人もの魔法使いを殺害した凶悪犯であるといった原作設定がやや希薄だったせいか、このアズカバンの囚人の怖さはあまり伝わらない

だが、なかなか姿を現さないことのスリルや、シリウスを追い詰める吸魂鬼ディメンターたちの風貌が相当怖く描かれていることもあり、全体的には緊迫感が漂う。

そこに、新たに担当教授となる温和でハリーたちに協力的なルーピン先生(デイビッド・シューリス)や、不吉な予言ばかりするトレローニー先生(エマ・トンプソン)らが絡んでくる。

スネイプ先生(アラン・リックマン)の不気味さや悪ガキのドラコ・マルフォイ(トム・フェルトン)の憎たらしさはいつも通りだが、ダンブルドア校長リチャード・ハリスの逝去でマイケル・ガンボンに交代。知らずに観ていたので若干戸惑う。

過去二作では150~160分あった上映時間を、本作では140分にまで短縮。当然に原作から落とす部分は多くなるが、映画化である以上、こういうメリハリのつけ方は必要。

その点、キュアロン監督原作の面白味やテイストは変えずに、スリム化に成功している。

原作で冗長と思っていたクィディッチの試合に関するパートも大胆に短縮化している一方、本筋とは関係が薄いようにみえて終盤に意味を持つ、ハグリッド(ロビー・コルトレーン)と魔法生物のバックビークのエピソードなどは、丁寧に描かれている。

今後、原作はどんどん長編になっていくので、それに倣って映画まで長時間化することは勘弁してほしいところ。

原作は勿論面白かったが、映画ならではの良さが感じられた点はいくつかある。

冒頭に出てきた三階建ての夜の騎士バスの快走ぶり、巨大な鳥のようなバックビークの造形、吸魂鬼ディメンターの恐ろしさ、人の居場所がリアタイで分かる忍びの地図の描写も映画ならでは。

相手が最も怖がるものに化けるモノマネ妖怪のシーンでは、ハリーがヴォルデモートを出現させることを恐れたルーピン先生が、急遽ハリーに代わり妖怪と対峙する。そこで一瞬登場するのが「夜空の月」

これはルービンの正体が人狼であることの伏線であるが、そのシーンではさりげなく扱うのも心憎い。

また、終盤で、ハーマイオニーが先生から授かった逆転時計で過去に戻るシーンの絵的な面白さもセンスを感じさせるもので、これは文字では表現できない部分だ。

(C)2004 Warner Bros. Ent. Harry Potter Publishing Rights (C)J.K.R.

以下、ネタバレになるのでご留意ください。

ついにシリウスがハリーたちの前に姿を現した際、シリウスがルーピン先生の仲間であったことが判明する。

先生が学校を騙してシリウスを引き入れたのだとハリーたちは考えたが、そこに、シリウスに殺されたはずのピーター・ペティグリュー(ティモシー・スポール)が登場する。

彼こそが、ハリーの両親をヴォルデモートに売り渡した真犯人で、その罪をシリウスに押し付けたのだ。そしてロンのペットのネズミに姿を変えて12年、ハリーに近づき、彼を殺して罪をシリウスにかぶせる日を待っていた。

シリウスとともに憎きペティグリューを倒し、復讐を果たすのかと思えば、そこにはハリーの人間的成長がみられ、殺人の罪を重ねてはいけないと諭す。

そこから、折悪く満月がルーピンを人狼に変え、気づけばペティグリューには逃げられ、シリウスは吸魂鬼に捕まる。そこからは時間を戻す話となり、多くの伏線が回収されていく。

亡き母の叫びや父の影、ハリーは作品ごとに自分の過去に一歩ずつ近づいていく。三作目で新鮮味は薄れたが、成長譚としては欠かせないドラマティックな一作。