『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』
Gladiator II
リドリー・スコット監督が24年を隔てて撮る、傑作『グラディエーター』の続編
公開:2024年 時間:148分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: リドリー・スコット
脚本: デヴィッド・スカルパ
キャスト
ルシアス(ハンノ): ポール・メスカル
アカシウス将軍: ペドロ・パスカル
ルッシラ: コニー・ニールセン
マクリヌス: デンゼル・ワシントン
ゲタ皇帝: ジョセフ・クイン
カラカラ皇帝: フレッド・ヘッキンジャー
グラックス議員: デレク・ジャコビ
トラエクス元議員: ティム・マッキナリー
ウィッゴ: リオル・ラズ
ラヴィ医師: アレクサンダー・カリム
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
将軍アカシウス(ペドロ・パスカル)率いるローマ帝国軍の侵攻により、愛する妻を殺された男ルシアス(ポール・メスカル)。
すべてを失い、アカシウスへの復讐を胸に誓う彼は、マクリヌス(デンゼル・ワシントン)という謎の男と出会う。
ルシアスの心のなかで燃え盛る怒りに目をつけたマクリヌスの導きによって、ルシアスはローマへと赴き、マクリヌスが所有する剣闘士となり、力のみが物を言うコロセウムで待ち受ける戦いへと踏み出していく。
レビュー(まずはネタバレなし)
巨匠自ら撮るあの傑作の続編
リドリー・スコット監督の代表作にしてローマ帝国時代のスペクタクル映画の金字塔、『グラディエーター』の24年ぶりとなる続編。
何十年を隔てて巨匠監督が続編を作るブームでもあるのか、近年ではジェームズ・キャメロンの『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』やティム・バートンの『ビートルジュース ビートルジュース』など、よく目にする。
あのカルト作『ブレードランナー』の続編さえドゥニ・ヴィルヌーヴに任せてしまったリドリー・スコットが、本作では自らメガホンを取って臨むとは、よほど気に入った脚本があったのだろう。
◇
巨匠自身で監督しているのだから、偉大なる前作の顔に泥を塗る作品にはなりえない。
弟の故トニー・スコット監督と設立したスコット・フリーのお馴染みの鳥の動画と似たようなハイセンスなアニメで始まるオープニング。よく見れば前作のダイジェスト。
クールなタイトルロゴに忍ばせたⅡのローマ数字(邦題の余計な副題なぜ付けるかね)。
◇
序盤は北アフリカのヌミディア国に海上から襲い掛かるローマ帝国軍。率いるのは英雄・アカシウス将軍(ペドロ・パスカル)。迎え撃つ兵士のひとりが、主人公のハンノ(ポール・メスカル)。
妻とともに抗戦するも、敵軍には勝てず、弓の射手である妻は殺され、ハンノは焼き印を押され奴隷としてローマに連行される。
復讐相手は誰なのだ
前作では賢帝マルクス・アウレリウスが愚息コモドゥスに殺され、主人公マキシマス(ラッセル・クロウ)の命がけの復讐によって、ローマは再び健全になったかに思えた。
だが、この時代、帝国は双子の共同皇帝ゲタ(ジョセフ・クイン)とカラカラ(フレッド・ヘッキンジャー)の勝手気ままな政治により、腐敗しきっている。

アカシウス将軍はけして好戦的な武将ではないが、この愚帝の命令によって、領地拡大に注力せざるを得なかったようだ。
そして将軍の妻は、なんとあのルッシラ(コニー・ニールセン)。前作でコモドゥスの姉ながら、かつての恋人マキシマスの支えとなっていた女性ではないか。

前作同様、主人公のハンノが奴隷からグラディエーターとして才能を発揮してのし上がり、最後には復讐を果たすのだろうということは何となく想像できる。
だが、先の展開は読みにくい。前作でホアキン・フェニックスが好演した憎き敵コモドゥスに代わる、その復讐相手は誰なのだ。
双子皇帝はおバカすぎる若造だし、アカシウス将軍も善人キャラ。あとは、奴隷のハンノを買い取ってグラディエーターとして育てていく謎の資産家マクリヌス(デンゼル・ワシントン)。
これでどう復讐劇を盛り上げるのだろう。

愛する妻を殺されてという復讐のモチベも、恨みつらみが積み重なった前作に比べるとやや淡泊に思える。昭和のドラマじゃないが、もっと不幸のどん底に落とし込まれないと、コロッセウムの勝負の盛り上がりに欠けやしないか。
そのような懸念は結局最後まで払拭されなかった。やはり、レジェンド本人が監督でも、傑作の続編はハードルが高いのだろう。
◇
ただし、コロッセウムをはじめ、ローマの町並を描いた場面は圧巻の迫力だ。

『ナポレオン』でも感じたことだが、この時代でも全てをCGに頼るのではなく、広大な舞台セットを作り本物感にとことんこだわるリドリー・スコットの創作姿勢は、やはり感服せずにはいられない。
冒頭の戦争シーンをはじめ、コロッセウムでのサルのような凶暴な獣とグラディエーターの戦い、カップヌードルのCMのように暴れるサイとの応戦、更には競技場に水まで張っての海戦の再現など。
美しい特撮画面に見慣れた世代でも、この質感には舌を巻くはずだ。スペクタクルなシーンはどれも興奮必至。脚本の弱さを補って余りある大迫力だ。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
ネタバレ扱いになるのかは定かでないが、本作での大きなサプライズは、ハンノが実は、ルッシラの息子であったということだ。彼の諳んじている詩や教養、そして顔から、ルッシラが確信する。
前作の終盤でコモドゥス皇帝が死んだ際、小さかった息子ルシアスを権力争いから守るべく、ひとりで亡命させたのだ。
つまり、あの時の金髪の可愛い男の子ルシアスが今のハンノ? いや、そこまではいい。驚いたのは、その父親が、前作の主人公マキシマス(ラッセル・クロウ)だということ。えっ、そうなの!
確かに、ルッシラはかつてマキシマスの恋人だったから不倫ではないのだろうが、ルシアスの名は亡くなった皇帝である父親から受け継いだものだし、よもや新旧グラディエーターに血のつながりがあったとは。
当時から、この設定、裏にあったのかな。

ともあれ、当初は自分を捨てた母を憎み、殺された妻の復讐心に燃えるハンノだったが、ルシアスを自覚してから、偉大だった父マキシマスのDNAを感じ取り、ローマ市民のために国の復興を考え始める。私にはそう見えた。
ルシアス役のポール・メスカルは『aftersun/アフターサン』の娘と旅する父親イメージしかなかったが、山田太一原作の『異人たち』にも出ている実はマッチョな男。

ラッセル・クロウとはまた違うキャラにはなっていたが、あそこまで男臭い感じではない。
◇
マクリヌスを演じたデンゼル・ワシントンが、本作ではトリッキーな存在。前作の流れからすると、奴隷の買い主は案外いいヤツ、ましてデンゼルだもの、味方だろうと踏んでいたので、彼の野心的で大胆な行為には、結構たまげた。

男らしく死を遂げたアカシウス将軍役のペドロ・パスカルと、双子皇帝のひとりゲタ役のジョセフ・クインが、ともにマーベルの公開予定作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』のヒーロー4人組のメンバー。これは新作観賞時の楽しみが増えた。
前作から引き続き出演しているのは、ルシアスの母、ルッシラ役のコニー・ニールセンと、グラックス議員役の デレク・ジャコビの二人だけかな。マキシマスは死んでいるから、ラッセル・クロウはアーカイブ映像でしか登場しない。
◇
本作はスペクタクルとはこういうものかと知るための恰好の新作映画だ。
勿論、前作を観ておいた方が理解は深まるし楽しめるが、その場合は、きっと前作に魅了されちゃうだろうな。それほど、ラッセル・クロウとホアキン・フェニックスは、熱かったのだ。