『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』
A Haunting in Venice
ケネス・ブラナーが監督・主演を務める名探偵ポアロシリーズの第三弾。
公開:2023年 時間:103分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ケネス・ブラナー
脚本: マイケル・グリーン
原作: アガサ・クリスティ
『ハロウィーン・パーティ』
キャスト
エルキュール・ポアロ: ケネス・ブラナー
アリアドニ・オリヴァ: ティナ・フェイ
ロウィーナ・ドレイク: ケリー・ライリー
アリシア・ドレイク:ローワン・ロビンソン
マキシム・ジェラード: カイル・アレン
オルガ・セミノフ: カミーユ・コッタン
レスリー・フェリエ:ジェイミー・ドーナン
レオポルド・フェリエ: ジュード・ヒル
ヴィターレ・ポルトフォリオ:
リッカルド・スカマルチョ
ジョイス・レイノルズ: ミシェル・ヨー
ニコラス・ホランド: アリ・カーン
デズデモーナ・ホランド: エマ・レアード
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
ミステリアスで美しい水上の迷宮都市ベネチア。
流浪の日々を送る名探偵エルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)は、死者の声を話すことができるという霊媒師のトリックを見破るために、子どもの亡霊が出るという謎めいた屋敷での降霊会に参加する。
しかし、そこで招待客のひとりが人間には不可能な方法で殺害される事件が発生。犯人が実在するかさえ不明な殺人事件に戸惑いながらも、真相究明に挑むポアロだったが…。
レビュー(まずはネタバレなし)
ポアロ・シリーズ第三弾
ケネス・ブラナーの監督・主演によるエルキュール・ポアロのシリーズものも、本作で三回目となる。
今回の原作はアガサ・クリスティの「ハロウィーン・パーティ」。原作は未読であるが、映画化されたのは今回が初めてというのが、何となく肯ける。というのも、題材が地味なのだ。
豪華な列車の中での殺人を取り扱った『オリエント急行殺人事件』にしても、エジプトを舞台に繰り広げられた『ナイル殺人事件』にしても、優美な寝台列車や豪華客船などを舞台にした、派手さとスケールの大きさがあった。
そこで名推理を働かせるポアロにも見せ場が多かった。だからこそ、これまでにも映画化されているのだろう。それに比べると、本作は相当にダークで陰湿な印象が拭えない。
◇
まずもって、世界一の名探偵ポアロが現役を退いてしまっている。ここで早くも大きく勢いがそがれる。ベネチアでの隠遁生活。自宅には連日依頼が訪れているがすべて謝絶。
旧友の女流ミステリー作家アリアドニ・オリヴァ(ティナ・フェイ)に頼まれたことで、ロウィーナ・ドレイク(ケリー・ライリー)の屋敷で開かれるハロウィーン・パーティおよび降霊会に訪れる。
ロウィーナはアリシアという娘がいたが、婚約者マキシム・ジェラード(カイル・アレン)との縁談が壊れたことを苦に、屋敷のバルコニーから海へと自殺を図っていた。
ホラーにはなり得ない
降霊会では、霊媒師ジョイス・レイノルズ(ミシェル・ヨー)がアリシアを呼び出そうとしていた。そこに招かれたポアロは、当然このレイノルズがインチキ霊媒師であることを暴こうとする。
この霊媒師が本物かどうかというのは、普通なら大きなポイントになるところだが、何せポアロが主役なのだから、どんなに霊が屋敷のあちこちで悪さをしようが、そこにはトリックがあるのだろう。そう筋書きが読めてしまう。
主人公も原作者も無名であれば、途中まではゴシックホラーとしての楽しみ方もあっただろうが、世界で最も有名な原作者と主人公だけに、そうはいかない。
だから、いくら薄暗い屋敷の雰囲気が怖そうでも、本作はホラーではなくあくまでミステリーなのだ。そうなると、引退した老探偵が霊媒師のインチキを見破り、そのあとに起きる殺人事件の謎を解くという物語がメインとなる。
走行中の車両や航行中の客船で事件が起きた、これまでのシリーズ作品では、犯人は逃げることができない環境にあり、「この中に犯人がいる」という前提でポアロは捜査を進めることができた。
本作も屋敷の中とはいっても、ベネチアの屋敷は周囲を水路や海に囲まれ、事件当夜は波も高く警察さえゴンドラが出せない状況。ここで出入口をシャットアウトすれば、同じように「この中に犯人がいる」状態は作れる。
だが、それでもあまりにスケール感が乏しいのは、屋敷に残っている容疑者・関係者の面々が、今回はあまりにショボいからなのだと思う。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
はじめの降霊会でポアロが霊媒師レイノルズのインチキを暴いてしまった後、一体物語をどう展開させるのかと思っていた。
すると、まずはポアロ自身が何者かに殺されそうになったあと、レイノルズが高所から落とされ、串刺しになって死んでしまう。この死にザマは横溝正史作品を思わせる派手で猟奇的なものだった。
その犯人を捜査しながら、ポアロ自身が幽霊のようなものを目にし始める。彼は口が裂けても、幽霊を見たとか信じているとかは言わないが、次第にその症状はエスカレートしていく。
◇
霊媒師を演じたミシェル・ヨーが早々に殺されてしまったのは残念だ。『オリエント急行殺人事件』であっという間に殺されてしまったジョニー・デップを思い出す。
屋敷の主ロウィーナ・ドレイク(ケリー・ライリー)と、ポアロの友人で新作による人気回復を企む作家のアリアドニ・オリヴァ(ティナ・フェイ)。
◇
死んだ娘アリシアの婚約者マキシム・ジェラード(カイル・アレン)と屋敷の家政婦オルガ・セミノフ(カミーユ・コッタン)。
ポアロのボディガードには元警部のヴィターレ・ポルトフォリオ(リッカルド・スカマルチョ)。この警部は『ジョン・ウィック2』でキアヌ・リーヴスを苦しめた敵組織の幹部だった俳優だ。
あと屋敷の中には、ドレイク家の主治医フェリエ医師(ジェイミー・ドーナン)と、10歳の早熟の息子レオポルド(ジュード・ヒル)。この父子は、ケネス・ブラナーが自身の少年期を描いた『ベルファスト』の主人公少年とその父親役だったとは、さすがに気づかず。
最後に、霊媒師レイノルズの助手を務めていたニコラス・ホランド(アリ・カーン)とデズデモーナ・ホランド(エマ・レアード)の異母姉弟。
この中からポアロは真犯人を導き出すわけだが、まあ、ちょっと登場人物にも役者にも、これまでの作品からすると華がない印象は否めず。
ポアロの謎解きと真犯人はここでは触れないが、劇中に何度も出てくる自家製のハチミツはさすがに素人目にも怪しく映った。
◇
事件を解決したポアロは、余韻も残さず次の事件へと立ち去るのがこれまでのパターンだったが、なぜか今回は、ポアロをベネチアに残して、登場人物たちが去っていく。
さて、ここまで地味になったシリーズに次回作はあるのか。