『十一人の賊軍』
白石和彌監督の現代風解釈で、幻のプロットが甦った東映集団抗争時代劇。
公開:2024 年 時間:155分
製作国:日本
スタッフ
監督: 白石和彌
脚本: 池上純哉
原案: 笠原和夫
キャスト
<罪人>
政: 山田孝之
赤丹: 尾上右近
なつ: 鞘師里保
ノロ: 佐久本宝
引導: 千原せいじ
おろしや: 岡山天音
三途: 松浦祐也
二枚目: 一ノ瀬颯
辻斬: 小柳亮太
爺っつぁん: 本山力
<決死隊>
鷲尾兵士郎: 仲野太賀
入江数馬: 野村周平
荒井万之助: 田中俊介
小暮総七: 松尾諭
<新発田藩>
溝口直正: 柴崎楓雅
溝口内匠: 阿部サダヲ
溝口みね: 西田尚美
溝口加奈: 木竜麻生
<新政府軍(官軍)>
山縣狂介: 玉木宏
岩村精一郎: 浅香航大
杉山荘一郎: 佐野和真
世良荘一郎: 安藤ヒロキオ
水本正虎: 佐野岳
水本正鷹: ナダル
<奥羽越列藩同盟(旧幕府軍)>
色部長門: 松角洋平
斉藤主計: 駿河太郎
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
1868年、江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜を擁する旧幕府軍と、薩摩藩・長州藩を中心とする新政府軍(官軍)の間で争われた戊辰戦争。
そのさなか、新政府軍と対立する奥羽越列藩同盟に加わっていた新発田藩で繰り広げられた、同盟への裏切り。
侍殺しの罪で捕まった駕籠屋の政(山田孝之)は、薩長率いる官軍から砦を守るよう命じられる。勝てば無罪放免、負ければ死。
あらゆる悪事を犯した十人の罪人たちは、主戦派の新発田藩士鷲尾兵士郎(仲野太賀)らとともに官軍との戦いに挑む。
レビュー(ほぼネタバレなし)
東映集団抗争時代劇
原型は東宝の『七人の侍』らしいが、『十七人の忍者』、『十一人の侍』、三池崇史監督がリメイクした『十三人の刺客』など、<東映集団抗争時代劇>と言われるカテゴリーがあるらしい。
本作『十一人の賊軍』もその流れを汲む作品なのだろう。『仁義なき戦い』や『日本侠客伝』をはじめ数多くの秀作を残した名脚本家・笠原和夫が残したプロットを白石和彌監督が現代によみがえらせた作品。
◇
なぜプロットなのかというと、笠原和夫が書き上げた大作の脚本を、当時の東映京都撮影所長(つまり、後に東映社長になる岡田茂)が、「全員が討ち死になんてダメだ」と突っ返し、怒った笠原が全て破り捨ててしまったからなのだ。
そんなサイドストーリーを知ると、本作は一層楽しめる。
「全員討ち死に」の展開は、単なる勧善懲悪では満足しない複雑な現代社会においては、むしろ現実味を帯びていて受け容れられやすい気もするが、そこには白石和彌監督による現代解釈として、また原案とはことなるアレンジが加わっている。
戊辰戦争からの背景
時代は1868年。戊辰戦争から江戸無血開城、上野戦争と時代の変遷が紹介され、舞台は北陸地方へ。
薩摩・長州を中心とする新政府軍が官軍とされ、最後の将軍・徳川慶喜を擁する旧幕府軍を支持する奥羽越列藩同盟は、必然的に賊軍とされた。はたしてどちらの体制に与するか。
この時代で北陸が舞台といえば、思い出すのが役所広司が長岡藩の家老・河井継之助を演じた『峠 最後のサムライ』(小泉堯史監督)。
あの映画は越後の小藩である長岡藩が武装中立を目指そうという話だったが、本作の舞台である新発田藩は、それとはまた少々事情が異なる。
新発田藩は旧幕府軍の奥羽越列藩同盟から、米沢藩の色部長門(松角洋平)や斉藤主計(駿河太郎)らによって出兵を求められている。
新発田藩のまだ幼き藩主・溝口直正(柴崎楓雅)は、勝ち馬と見た新政府軍に従う腹であるが、奥羽越列藩同盟は城内に兵を入れ、旗幟を鮮明にすることを迫る。
折りしも新政府軍の山縣狂介(玉木宏)や岩村精一郎(浅香航大)らが、立地的に北陸の心臓部である新発田藩に進軍しようとしていた。もし城内で両軍が鉢合わせすれば、戦地となる新発田藩の被害は甚大だ。
家老の溝口内匠(阿部サダヲ)は、奥羽越列藩同盟に参戦し出兵を装い、彼らとともに出て行くまでの数日間、新政府軍の進軍を足止めすべく、急ごしらえの砦を作る。
そこに集められたのが、本来ならば死罪で磔なり打ち首で処刑されるはずの罪人たち。彼らは、作戦が成功すれば無罪放免にしてやるという約束のもと、奥羽越列藩同盟を装って官軍相手に抗戦する。
罪人を集めて云々というくだりはフィクションであろうが、新発田藩が旗幟を鮮明にせずに翻弄し、領内での戦争を免れたというのは史実に基づいているようだ。さすが笠原和夫の脚本には、一定の説得力がある。
賊軍たちの顔ぶれ
罪人の顔ぶれは以下のとおり。
- 政(山田孝之):駕籠屋。妻さだ(長井恵里)を手籠めにした侍(音尾琢真)を殺害
- 赤丹(尾上右近):イカサマ博徒。武士から金を巻き上げる。罪状は賭博罪
- なつ(鞘師里保):女郎。子を堕ろされた恨みで男の家に放火する
- ノロ(佐久本宝):花火師の子。磔の政を死んだ兄と思い込み、逃がそうと脱獄幇助
- 引導(千原せいじ):坊主。檀家の娘を手籠めにするなど、数多くの女犯で罪人に
- おろしや(岡山天音):医学を学ぶため、おろしや(ロシア)へ密航未遂
- 三途(松浦祐也):貧乏な百姓。⼀家心中をするが、自分だけ死ねず
- 二枚目(一ノ瀬颯):新発田随一の色男。侍の女房と恋仲になり姦通罪
- 辻斬(小柳亮太):浪人。大人数の村人を無差別に殺害
- 爺っつぁん(本山力):長州の剣術家。新発田で地主への強盗殺人を犯す
罪人が十人しかいないのは、書き間違いではない。
彼らとともに砦で戦う決死隊には剣術道場の道場主、鷲尾兵士郎(仲野太賀)や、決死隊隊長の入江数馬(野村周平)らがいる。
入江は城代家老の腹心で娘・加奈(木竜麻生)の婚約者。城内政治の中でうまく立ち回っている人物といえ、一方鷲尾は、侍として同盟とともに新政府軍と戦うべしという主戦派である。
多人数でもきちんと描き切る
これだけ多くの登場人物を擁しながら、分かりやすく物語を進めていき、しかも砦で戦う賊軍たちそれぞれに見せ場を用意しているのはさすが白石和彌監督の職人芸。
勿論、主人公である政(山田孝之)と鷲尾(仲野太賀)の活躍の場が多いことは言うまでもないが、それ以外のメンバーも、早死にか遅死にかによらず、ちゃんと爪痕を残して死に去っていく。
山田孝之は主演ながら、罪人らしい薄汚い恰好で終始戦うのでちょっと気の毒になる。観た感じは、まるで上映前に流れるJT(日本たばこ)のCMで彼自身が演じている鬼である。音楽までどこか似ている。
山田孝之の存在感はさすがに大きいが、今回は仲野太賀が負けていない。剣術の使い手という役だけあって、殺陣のシーンも見応えがある。仲野太賀に善人役は多いが、ここまで腕が立って頼りになる役というのは珍しい。痺れた。
◇
その他にも殺陣が痺れたのは、爺っつぁん役の本山力、槍さばきはお見事。太賀とは『笑いのカイブツ』でも組んでた岡山天音の医者役も良かった。野村周平は鼻もちならない役なのかと思ったら、途中の心変わりが良かった。
人数が多いので全て語りきれないのが残念。新政府軍の水本兄弟に、顔のパーツが似てると言われる佐野岳とナダルの起用とは驚いた。
現代風にアレンジか
勝ったら無罪放免という設定はよくあるが、反故にされるパターンも多い。今回もはじめはその気配が濃厚だったが、途中から希望が見え始める。
藩のためでも侍スピリッツでもなく、ただ自分の無罪放免のために命がけで戦う賊軍たちの懸命な姿が美しい。
白石和彌監督ならではの、腕やら首やらがスパスパと切り刻まれるグロいシーンもテンコ盛り。このあたりは好き嫌いが分かれるかもしれないが、集団抗争時代劇としては見事にエンタメ性を追求。150分を飽きさせない。
最後に若干ネタバレになるので、未見の方はご留意願います。
◇
阿部サダヲ演じる家老は、罪人たちの無罪放免という約束をどう扱うか。この辺は現代風にアレンジした部分なのだろう。それにより、11人目の賊軍として鷲尾(仲野太賀)が名乗りを上げ、更に物語は熾烈な方向に進む。
皮肉なのは、ここでの藩主や家老の判断や行動が、新発田藩の町民たちには戦争を回避してくれたと熱烈に支持されていることだろう。そこには、この平和のために犠牲になった11人の賊軍たちの存在など、知る者はいないのだ。
史実というものは、視点ひとつで見方が大きく変わってしまうものか。
最後に、白石和彌監督作品でいつも期待している音尾琢真の配役だが、今回も楽しませてもらったことを付記しておきたい。