『007 ダイヤモンドは永遠に』
Diamonds Are Forever
ショーン・コネリー復活の007シリーズ第7作。ボンドガールにジル・セント・ジョン
公開:1971 年 時間:120分
製作国:イギリス
スタッフ
監督: ガイ・ハミルトン
原作: イアン・フレミング
『007ダイヤモンドは永遠に』
キャスト
ジェームズ・ボンド: ショーン・コネリー
ティファニー・ケイス:
ジル・セント・ジョン
ブロフェルド: チャールズ・グレイ
フェリックス・ライター:
ノーマン・バートン
M: バーナード・リー
Q: デスモンド・リュウェリン
マネーペニー: ロイス・マクスウェル
ピーター・フランクス:ジョー・ロビンソン
Mr.ウィント: ブルース・グローヴァー
Mr.キッド: パター・スミス
ウィラード・ホワイト: ジミー・ディーン
プレンティ・オトゥール: ラナ・ウッド
シェイディ・トリー: レナード・バー
バート・サクスビー:ブルース・キャボット
メッツ教授: ジョセフ・ファースト
バンビ: ローラ・ラーソン
サンパー: トリナ・パークス
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
アフリカから時価200万ポンドは下らない大量のダイヤが消えるが、闇のマーケットにも一向にダイヤは出回らず、さらに事件の関係者が次々に命を落とす。
英国情報部MI6はスパイのボンドに真相を探らせる。アムステルダムで調査を開始したボンドはダイヤの運び屋を装い、密輸業者ティファニー(ジル・セント・ジョン)と接触。
やがて彼はティファニーの情報から、ダイヤの運び先がアメリカの大富豪ホワイト(ジミー・ディーン)と知り、その動向を探るためラスベガスへ向かう。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
帰ってきたショーン・コネリー
ショーン・コネリーがたった一作離れただけで、すぐにジェームズ・ボンド役に復帰するとは、ファンとしては嬉しい。公開当時の盛り上がりも相当だったのだろう。
ジョージ・レーゼンビーに大根役者の烙印を押す気はないが、仕事ができる軽薄男のボンド役にはどうも似合わなかった。これまでと路線変更でイアン・フレミングの原作に忠実にしたことも、不満要素への加点となったように思う。
◇
そんな『女王陛下の007』と違って、こちらは余裕のエンタメ路線。そもそも、前作のラストでボンドと結婚式を挙げたばかりの妻が射殺されてしまったエピソードも、すっかり忘れ去られている。
映画は冒頭、ボンドがブロフェルドを始末する。だがこいつは替え玉で、本物のブロフェルドは健在。コネリー・ボンドが日本を舞台に活躍した『007は二度死ぬ』で協力者ディッコを演じたチャールズ・グレイが今回のブロフェルド。
今回ボンドはダイヤモンドの密輸業者が次々と殺されている事件の調査を命ぜられる。
密輸業者のピーター・フランクルになりすまし、受取人ティファニー・ケイス(ジル・セント・ジョン)に接触しようとするが、直前で本物のピーター(ジョー・ロビンソン)と鉢合わせ。
ティファニーのアパートのエレベータ内での大男二人の格闘は、なかなか迫力があり目新しい。
無理なスケールアップだがアクションは良
密輸ダイヤをめぐる争いを描いてはいるが、イアン・フレミングの同名原作と比べるとだいぶ大味な展開になっている。
今回もボンドの協力者として活躍するCIAのフェリックス・ライター(ノーマン・バートン)は、原作では怪我が原因でピンカートン探偵社に転職している。
それはまあ、どちらでもいいのだが、本来は今回の主犯ではないブロフェルドを強引に登場させたり、人工衛星やらミサイルをからめて話のスケールアップを狙ったりしているところに無理がある。
コミカルな言動がますます多くなったボンドと、物語の大きさとのバランスも座りが悪い。
ダイヤモンドという今回のアイテムが、話の設定としてあまり生きていないのも難点。『ゴールドフィンガー』の金の方が、まだ説得力があった。
ティファニーが逃げ込む場所をサーカスにしてみたり(女がゴリラになる出し物小屋って必要?)、間抜けなデザインの月面車でボンドが逃走してみたり、アクションの中には的外れなものも多い。
◇
とはいえ、ボンドカーと言っていいのかティファニーの愛車フォード・マスタング・マッハ1をボンドが駆って、片輪走行で狭い道路で追っ手を振り切るシーンは興奮。
軟禁されていたウィラード・ホワイト(ジミー・ディーン)の監視役の女二人組バンビ(ローラ・ラーソン)とサンパー(トリナ・パークス)が、ボンドに肉弾戦を挑むシーン。
女格闘家がバク転しながら近づき、太ももで敵の首を挟んで悶絶させる戦法など、『ブレードランナー』のレプリカント(ダリル・ハンナ)の攻撃スタイルの原型に違いない。
その他、ラスベガスの高層ホテルの最上階のアジトに、ボンドが外壁のエレベータの屋根から侵入する手法は、『ミッション:インポッシブル』っぽい演出で、見せ場はそれなりに存在する。
なお、本作の舞台はラスベガスだが、昨今のテーマパークのパビリオン然としたホテル群とは違い、節度ある古き良きベガスが味わえる。
卒業作品これで良かったのか
ブロフェルドが愛猫と登場し、最後はボンドから逃げ去るというパターンもそろそろ食傷気味。
本作で原作にはないブロフェルドを無断で登場させてしまったせいで権利関係の揉め事となり、以降ダニエル・クレイグの『007スペクター』(2015)までスペクターは007シリーズに登場しない。
だが、これは結果的に良かったのでは。毎回同じ敵ではシリーズはすぐに飽きられるし。
ブロフェルドは終盤でも替え玉と登場し、愛猫まで替え玉がいるというのがユニーク。ブロフェルドは大量のダイヤを使い、人工衛星から大都市にレーザー光線を発すると米国政府を脅迫する。
衛星を制御する暗号コードのカセットテープ。ボンドはアジトに潜入しそれを偽物にすり替えるが、ティファニーが勘違いして、それを元に戻してしまう。
このハラハラは良かったが、通常なら、何らかの形でテープをもう一度すり替えて計画をご破算にするのがセオリーだろう。だが、結局このテープの件は最後には全く伏線回収されずに終わるのが意外。
終盤、計画失敗で逃げようとするブロフェルドの潜航艇を、クレーンで吊り上げ振り回すボンドの勝ち方が圧倒的で笑。まるでヤッターマンとドロンジョ一味みたいな決着のつき方だ。コミカルすぎる。
そういえば、全編を通じて何度も登場するミスター・ウィント(ブルース・グローヴァー)とミスター・キッド(パター・スミス)の殺し屋コンビも、どこかボヤッキーとトンズラーっぽい。
このポンコツな二人組に、棺ごと火葬されそうになったり、土管のまま地中に埋められたりと、ボンドも隙が多すぎる。最後には悲惨な死に方をするとはいえ、この二人組に汚名返上のチャンスを与えすぎだろう。
◇
ショーン・コネリーは鮮やかに復活するが、結局次からはロジャー・ムーアにバトンタッチするので、本作が卒業作。それがこんな出来栄えで良かったのかという気はする。