『仕掛人・藤枝梅安1』
『仕掛人・藤枝梅安2』
『仕掛人・藤枝梅安2』
池波正太郎生誕100年で戻ってきたぞ仕掛人・藤枝梅安。今度の相手は佐藤浩市か椎名桔平か。
公開:2023 年 時間:119分
製作国:日本
スタッフ 監督: 河毛俊作 脚本: 大森寿美男 原作: 池波正太郎 『仕掛人・藤枝梅安』 キャスト 藤枝梅安: 豊川悦司 彦次郎: 片岡愛之助 峯山又十郎、井坂惣市: 椎名桔平 佐々木八蔵: 一ノ瀬颯 井上半十郎: 佐藤浩市 おるい: 篠原ゆき子 白子屋菊右衛門: 石橋蓮司 おもん: 菅野美穂 おせき: 高畑淳子 津山悦堂: 小林薫
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
ポイント
- 二部作だがちょっと前作と風合いが違う本作。やはり椎名桔平と佐藤浩市の存在が大きいのだろう。アクションも興奮度も前作よりスケールアップの感あり。時代劇まだまだ捨てたもんじゃない、と思える一本。
あらすじ
梅安(豊川悦司)が相棒の彦次郎(片岡愛之助)と京に向かう道中、ある男(椎名桔平)の顔を見て彦次郎は憎しみを露にする。その男は彦次郎の妻と子を死に追いやった、彦次郎にとっては絶対に許せない仇だった。
そして、上方の顔役で殺しの依頼を仲介する元締から彦次郎の仇の仕掛を依頼された梅安は、浪人の井上半十郎(佐藤浩市)とすれ違う。井上と梅安もまた憎悪の鎖でつながれていた。
レビュー(まずはネタバレなし)
前作の鬱憤を晴らす展開
豊川悦司を主役に起用した、原作者・池波正太郎生誕100年と銘打った企画である「仕掛人・藤枝梅安」の映画二部作の後編にあたる。
仕掛人である梅安とその相棒の彦次郎(片岡愛之助)は、それぞれ鍼と吹き矢の使い手であり、必然、刀を振り回す格闘シーンが前作では控えめになってしまった。
だが、本作はのっけから京の町を我が物顔で暴れ回る浪人集団が登場し、次々と斬殺死体が転がっていく。その頭領が狂犬のような無頼の井坂惣市(椎名桔平)。
物語は一話完結なので、二部作はそれぞれ独立した作品だが、前作のエンドロール後に登場したのが、この男だ。かつて、彦次郎の愛妻を目の前で乱暴し、妻を自死に追いやった張本人であり、この井坂に仇を討つために、彦次郎は仕掛人の身となったのだった。
本作の序盤は、偶然にもそんな仇敵に出くわした彦次郎が、すぐにも襲い掛からんばかりにヒートアップするが、梅安がそれを制する。
観ている方も、彦次郎と梅安があまりに近い距離で仇敵を尾行するものだから、これじゃ振り向かれたらバレバレだと心配になる。
そもそも、沈着冷静がモットーの仕掛人がこんなに私情を挟んでは、すぐに彦次郎が返り討ちに合ってしまうのではと、前作の終わりからヒヤヒヤさせられたが、果たして結末やいかに。
どいつが敵か味方か
京の町で次々と店を襲い、金や酒、そして女を強奪しまくる井坂たち。店の用心棒たちに斬りかかり、腕の立つ相手をみつければ、言葉巧みに勧誘し鞍替えさせてしまう。
椎名桔平が、『愛なき森で叫べ』(2019、園子温監督)以来の怪演をみせる。
この井坂が今回の敵であることは明白だが、実は、彦次郎が仇敵をみつけたと騒いでいた相手は、松平甲斐守の家臣・峯山又十郎(椎名桔平・二役)という武士であった。二人は双子の兄弟であったことから、話は思わぬ方向に動いていく。
序盤からちょくちょく登場する謎の浪人、井上半十郎(佐藤浩市)と、その若き相棒の佐々木八蔵(一ノ瀬颯)。佐藤浩市が現れるだけで、ただ者ではない威圧感がハンパない。
そして、仕掛人に仕事を依頼する、<蔓>と呼ばれる裏稼業の元締は、前作の江戸の柳葉敏郎に代わり、今回は石橋蓮司扮する、京の白子屋菊右衛門。標的が井坂(椎名桔平)なのは分かるが、はたして剣客の井上半十郎(佐藤浩市)たちは梅安の敵か味方か。
まあ、パワーバランスを考えれば答えは自明かもしれないが、狸爺の石橋蓮司の善悪もなかなか掴めず、この辺の人物相関図はなかなかミステリアスで楽しめる。
必然性があっても肌は見せない
思えば前作では、天海祐希が演じるおみのが、彦次郎のかつての盗賊仲間の頭領の娘であり、そして梅安の生き別れた妹でもあり、それが仕掛けの対象でもあるという、相当にご都合主義の内容であった。
本作もまた、彦次郎が自分の妻を死なせた仇敵に出会い、同時に梅安も自分を仇敵と思っている相手に見つかってしまうという、偶然性に頼った物語にはなっているものの、前作に比べれば違和感は少ない。
娯楽時代劇というジャンルを勘案すれば、この程度は全然ありで良い。むしろ物足りないのは、前作同様にお色気というか、エロス要素だろう。
無理に女性の裸を出すことはないが、無頼集団が町娘をかっさらってアジトに軟禁したり、或いは井坂が彦次郎の妻を夫の眼前でレイプするシーンなど、もう少しR15相当に引き上げても良かったのではないか。
何と言うか、裸は出さないけど、想像させる行為はとてもお下劣というバランスが不自然。昔の映画には、必然性のない脱がしがよくあったが、本シリーズは、必然性があっても脱がせない方針らしい。
キャスティングについて
キャスティングに関しては、梅安を演じたトヨエツは本作でも時代を超越した存在感。彦次郎の片岡愛之助もまた、前作と同様に主役を食う活躍っぷり。この二人のバディ感は相変わらず心地よい。
◇
善の峯山又十郎と悪の井坂惣市という、双子の役を演じた椎名桔平。うまく演じ分けてはいるのだが、井坂惣市のアクが強すぎて、二役にする必要があったのかやや疑問ではある。まあ、そうしないと、仕掛の<起>と呼ばれる依頼人が現れないからか。
◇
そしてラスボス感たっぷりの井上半十郎(佐藤浩市)。彼の登場だけで、前作と比べスケールアップした印象を受ける。佐藤浩市と椎名桔平の共演じゃ『GONIN』(1995、石井隆監督)の再来ではないかと、血が騒ぐ。
老練の井上と組むイケメン剣士の佐々木八蔵(一ノ瀬颯)は、本作で随一といっていい、華麗な刀さばきを披露する。踊るように刀を振り回し、次々に大勢の敵を倒していく姿にリアリティはないが、『仕掛人』シリーズにそれを求めてどうする。
女優陣に関しては、前作から梅安を慕うおもん(菅野美穂)は今回物語にはあまり絡まないのかと思えば、後半で活躍。
また、梅安の家で世話を焼くおせき(高畑淳子)は前回同様、本作で数少ないコメディリリーフ。高畑淳子が楽しんで演じているようにしかみえない。
そして、今回初登場は、井上の妻のおるい(篠原ゆき子)。彼女の死を巡って、梅安と井上には因果が生まれる。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
ここだけは残念!
総じて前作よりも面白さ一割増と思われた本作だが、大きく残念な点が一つある。それは、井坂(椎名桔平)への仕掛の顛末だ。
仇を討ちたいと気が焦る彦次郎に、これは私が請け負った仕掛だと落ち着かせる梅安。腕の立つ相手ゆえ、まともにアジトに乗り込んでも勝ち目はなく、梅安がとった作戦は、水がめに毒を入れるというものだった。
泥酔してこの水を飲んだ井坂は動けなくなり、それをゆっくり苦しませようと、彦次郎は手間暇かけて絞首刑にする。これにはがっかりした。憎き相手を仕掛けて瞬時に絶命させるのが、仕掛人の様式美ではなかったか。
飲み水に毒を盛って、身動きさせなくするのは仕掛人の仕業としては邪道だし、苦労して首を吊るのも、手際が鮮やかとはいえない。これでは仕掛が決まってもスッキリできない。井坂が刀も振り回せず死んで終わるのはどうなのか。
ラスボス対決は見ごたえあり
その一方で、江戸に戻った梅安を、妻の仇と襲ってくる井上半十郎(佐藤浩市)との戦い、これは良かった。
刀を相手には勝ち目のない梅安と彦次郎が、愛用の鍼と吹き矢でいかに勝負に出るか。こちらは、井坂の時とは違い、瞬時に決着がつく。このあっけない幕切れが、仕掛人らしい演出で潔い。
前作に登場人物や仕掛の仕組みの紹介を任せることができた分、本作では無駄なく物語を展開でき、満足のいく仕上がりになったように思う。娯楽時代劇のジャンルも、令和の時代、まだまだ通用する可能性を感じた。
エンドロールには、前作の椎名桔平同様に、「あれ、こんな俳優出てたっけ?」という人物の名が現れる。今回は松本幸四郎。エンドロール後に、ちょっとしたおまけシーンが付いており、そこに登場する。
まるで、続編があるような終わり方だが、企画はまだ続いてくれるのか。