『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』
The Meyerowitz Stories (New and Selected)
アダム・サンドラーとベン・スティラーの兄弟、父がダスティン・ホフマンと家族コメディに無敵の布陣。プライドばかりが高い芸術家の父に、いくつになっても振り回される子供たち。呆れながらも随所に笑いの地雷。
公開:2017 年 時間:110分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ノア・バームバック キャスト ダニー・マイヤーウィッツ: アダム・サンドラー マシュー・マイヤーウィッツ: ベン・スティラー ハロルド・マイヤーウィッツ: ダスティン・ホフマン ジーン・マイヤーウィッツ: エリザベス・マーヴェル モリーン: エマ・トンプソン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
ニューヨークで暮らす年老いた彫刻家の父ハロルド(ダスティン・ホフマン)に会うため、久々に顔を合わせたダニー(アダム・サンドラー)、マシュー(ベン・スティラー)、ジーン(エリザベス・マーベル)の3姉弟。
奔放な父は離婚・再婚を繰り返し、末弟のマシューは異母兄弟。また現実主義でビジネスマンとしても成功していたこともあり、フラフラと頼りない兄ダニーとは確執が消えない。
ギクシャクする家族の中心にあり、みんなを振り回しているのは、気難しく気位の高い、忘れられた芸術家である父・ハロルドだった。
レビュー(まずはネタバレなし)
無敵のコメディ俳優揃いのファミリー
ノア・バームバック監督による家族コメディ。ポン・ジュノ監督の『オクジャ』同様、Netflixのみで一般公開されないものは映画なのかと、カンヌの審査で配給方法を巡ってひと悶着あったと記憶するが、そこは切り離しての感想としたい。
冒頭からしばらくは、名前のみ会話にでてくる家族もあり、メンバーの関係把握に戸惑ったものの、シニカルな会話をベースに、たまにクスりと笑える小ネタをはさむ映画の展開は、十分にリラックスして楽しめる。
◇
アダム・サンドラーもベン・スティラーもこの手の脱力系コメディはお得意で安心して観ていられるし、そこに大御所ダスティン・ホフマンが加わるのだから、作品自体の重みも増す。
というか、ダスティン・ホフマンが一番笑わせてくれる。そういえば、彼は出演したコメディ『ミート・ザ・ペアレンツ』シリーズでも、確かベン・スティラーの父親役だったっけ。
子供のように傍若無人のビッグ・ダディ
とにかく、このマイヤーウィッツ家の大黒柱ハロルドの、売れなくてもプライドは高く、不平不満しか口にせずこどものような老人のふるまいが、一家を翻弄してきたのだ。まさに昭和の父、寺内貫太郎一家である。
一家が空中分解を免れているのは、父を愛する家族たちのおかげではないのか、と思うものの、当の大黒柱は、そんなことはお構いなしだ。
◇
『フランシス・ハ』、『マリッジストーリー』と、このところ続けて観ているノア・バームバック監督作品だが、彼の作品常連のアダム・ドライバーやら、本人役のシガニー・ウィーバーがカメオ出演するのも楽しい。
タイトルにある、どの辺が(改訂版)なのかよく分からなかったが、これもちょっとしたジョークなのだろうか。ダニーが声を荒げて喋っている途中でブツ切りしてシーンが移る編集が何度かあり、むしろ(パイロット版)のようだけれど。
レビュー(ここからネタバレ)
結構笑わせてもらった
というほどのネタはない映画だが、笑える部分は多い。野暮を承知で少し紹介したい。
- ダニーの娘イライザが映像芸術家として撮る作品がどれもおバカなエロ映画で、彼女の風貌とのギャップがツボ。
- レストランで無礼な隣客が自分のジャケットを間違えて着て帰ってしまったとハロルドが騒いでトラブルになるところ。
- ハロルドが、ダニーにもらった思い出のビリヤードのキューを、いともあっさり叩き折るところも好き。
- ジーンにかつていたずらした老人のクルマを兄弟でボコボコにする話は、ちょっとやりすぎで引いた。
家族の確執と、根底にある絆
どこの家庭でもある話だろうが、異母兄弟でなくても、兄と弟には競争心もあれば確執だってある。マイヤーウィッツ家のように大人になっても続くことも珍しくはない。
ただ、ダニーとマシューだって、いまだに本気で殴り合う間柄だが、根底には兄弟の絆を感じているのだ。
展覧会のスピーチで、父の作品を売却した自分を泣きながら責めるマシューだったが、あれは気分を下げる薬の効能だったのか。
◇
やり手のビジネスマンのマシューと、劣等感に苛まれるダニー。
やはりマシューは自意識過剰なのだろうか、自分の名前を付けた父の作品<マシュー>を、幼少期の自分との共作と信じて、無理して買い戻す。
だが、あっさりとハロルドに、これはマシューが生まれる前にダニーと共作したものだと言い放たれる(作品名が紛らわしいが)。
結局、父は兄姉が妬むほどマシューだけを可愛がっていたわけでもなく、平等に愛し、ただ芸術家肌ゆえに口にも行動にもださないだけなのだろう。
ラストでダニーは、退院後も相変わらず勝手な言動を繰り返し、自分を縛り付ける父親からの訣別と自立のための行動にでる。そのために大きな音をたててトレーをひっくり返したのだ、父への感謝を囁きながら。
勝手な言動ばかりの父親が以前から唱えていた、「作品をホイットニー美術館に渡した」という話だけが、みんなの思うようにボケ老人の戯言ではなかったことが、皮肉である。