『インファナル・アフェア』
『インファナル・アフェアⅡ 無間序曲』
『インファナル・アフェアⅢ 終極無間』
『インファナル・アフェアⅢ 終極無間』
無間道Ⅲ:終極無間
完結編は唯一生き残りながらも、犯した罪に苛まれ、苦しむラウが主役。無間地獄の運命は変えられない。これまでに死んでしまったヤンもサムもウォンも、大量の回想シーンで勢ぞろいしてくれて嬉しい限り。
公開:2003 年 時間:118分
製作国:香港
スタッフ 監督: アンドリュー・ラウ キャスト ラウ: アンディ・ラウ ヤン: トニー・レオン ヨン: レオン・ライ シェン:チェン・ダオミン ウォン:アンソニー・ウォン サム: エリック・ツァン リー: ケリー・チャン キョン:チャップマン・トウ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
自分の正体を見破った潜入捜査官ヤンの殉職から10か月後、警官として生きる潜入マフィアのラウ。善への道を歩もうとする彼だが、犯罪組織と接触のある警官ヨンの出現によって運命を狂わせていく。
ラウは、ヨンとサムとの会話が録音されたテープを発見。また、サムの商売相手だった本土の大物シェンが、ヨンと一緒に写る写真も見つけ、ヨンが潜入マフィアだと確信する。
ラウはまた、精神科医リーから、パソコンに大切に保存されていたヤンのカルテを手に入れる。そこには、ヤンの生涯でもっとも幸福だった日々が記されていた。カルテを読むうちに、ラウはヤンに自分を重ね、ヤンの世界に入り込んでいく。
レビュー(ネタバレなし)
計算されつくした完結編
ついに完結編である。そこそこ古い映画なので、三作通しでこれまで3~4回は観ているはずだが、まったく飽きない。
ヒットしたから次作という手法ではなく、はじめから考えられている構成なので、全て観終わった満足感は大きい。
◇
1作目だけでも十分堪能できたが、全部観ることで味わいも深まるし、新たな発見もある。全作を振り返ると、登場人物はみな個性的で乱暴な連中だが、心底いやなヤツはいなかったように思う。
勿論イケメン俳優も多いのだが、そうでないキャラの役さえも、結構カッコよく見えてしまう。
例えば、全三作登場のバカのキョン(チャップマン・トウ)。ヤン(トニー・レオン)とは対等の関係いいうより先輩格。しかも、ヤンをただ一人の信頼できる奴だとサム(エリック・ツァン)に食って掛かる一面もあり、結構カッコいい。
◇
本作はミステリー要素はあるが、シリーズ固有のダブル潜入スパイものの面白味は過去二作に比べるとやや希薄に感じる。それでも三作目に存在意義を感じるのは、生前のヤンの登場シーンが多いことだろうか。
回想シーンではあるが、リー先生(ケリー・チャン)との診察時間にだけ許された、緊張から解放されたヤンの幸福な時間が垣間見られることは嬉しい。
レビュー(ネタバレあり)
ボーっと観てんじゃないよ
最後の章にあたる本作は意外と難解だ。ヨン(レオン・ライ)とシェン(チェン・ダオミン)をサムの一味と誘導するような作りになっているので、のめりこんで観るほど騙されてしまう。
◇
ボーっとしていると、保安部のオフィスになぜシェンの足を引きずる足音が聞こえてくるのか、テープを投函したポストがなぜ燃え上がるのか、分からなくなってしまうし、シェンの足音が空き缶を潰す音に入れ替わるのも、意味ありげに思えてしまう。
◇
シェンのあの風貌をみれば悪人にしか見えないし、ヨンの眼前でサムの潜入だったチャン(レイ・チーホン)が自殺するのも、その現場を見せず銃を持ったヨンが現れるだけなので怪しく思える。
騙されるのは無理のない作りなのだが、考えれば過去二作でラウとヤン以外で潜入していたのは、一見してそうは見えないヤツばかりだったではないか。学習できていない。
サムはかつてないほど厳しい
本作のサムは、今まで以上に極悪非道で、特にヤンに対しては厳しい。
大陸のマフィア、シェンとの接触を始めたころ、シェンの弟リャンと二人で食事をするヤンの携帯に、サムから唐突に「灰皿でそいつを殴れ」の指令。コントのようだが、全力で行動に移すヤン。
おかげで彼はその後半殺しの目に遭うが、サムは、「シェンはなぜヤンを殺さなかったのだろう」という始末。ヤンはその後シェンとの武器の取引でも、サムの裏切りによりシェンに殺されそうになる。
サムは厳しいボスだが、振り返れば、シェンの正体に感づいての行動だったのかもしれない。
善人になりたいラウ
さて、複雑に時系列をいじった編集ではあるが、それを取り除けば、本作は、潜在意識のなかで自分の犯した罪に苦しむラウ(アンディ・ラウ)が、善人になりたかったという思いとの葛藤から、徐々に自分を追い詰めていく話である。
◇
ヤンの死亡時に現場にいたことで殺人関与を疑われたラウだが、目撃者も始末したことで都合のよい供述をでっちあげ、無事に無罪放免となる。ここまでは計算通りだが、妻マリーとは離婚話が進む。
ラウはチャンの自殺事案を調べるうちに、サムと自分との会話が録音されたテープをヨンが保管していると確信する。それが明るみに出れば自分はおしまいだ。
また、リー先生はヤンの死後も彼のカルテを保管しており、そのファイルも何とか入手して内容をあらためる必要がある。
多くの関係者を始末して得た今の地位を守るためには、あらゆるリスクを排除していかなければならない。いつしか、ラウもまた、生前のヤンのように疲弊し神経を病んでいく。
リーの診察室に忍び込みPCを盗んだラウは、彼女から首尾よくパスワードを聞き出し、ヤンのカルテにアクセスする。
カルテを読み進めると、ヤンとリー先生の初回診療から彼がついに心を開き診察室で眠れるようになるまでの日々が描きだされる。ヤンが先生とのキスの応酬の夢落ちまであるとはサービス満点だ。
そして、読み進むうちに、いつしかヤンと自分がオーバーラップするようになる。しまいには、ラウもまたリーの診察室で眠り、彼女に出自を語ってしまうのだ。
潜入スパイ大作戦!
それと並行し、ラウはヨンの働く保安課オフィスに侵入し録音テープを奪取する作戦を、憑りつかれたように単身で進めていく。
仕掛けたカメラで金庫の開錠ナンバーを割り出し、睡眠薬を飲料水に仕込み、まるで<潜入スパイ大作戦>である。
◇
夜も寝付けない体質になっており、だんだんとラウの妄想が深まっていく。思えば、冒頭で妻マリー(サミー・チェン)からの離婚電話に怒鳴り、マグカップが割れたあたりが妄想の始まりか。
そしてついに入手したテープを掲げて、なぜかヨンのオフィスへ向かい、彼を内通者容疑で連行すると通告。
だが、再生するとテープの内容はサムと自分との関係。周囲の内部調査課の面々は、混乱しつつも、ラウを連行しようとする。
「ラウ・キンミン、お前を逮捕する」とラウ自身が言っているのだから、本人は誰のつもりか。善人を貫き、一番ラウを逮捕したがっていたヤンだろう。
実際、少し前のシーンでは、ロッカーの鏡に映るラウは、ヤンの姿になっていたではないか。
◇
そして、悪徳警官のフリで仕事を進めてきたヨン、大陸で同様に潜入として活動しているシェンの二人は、実際にはヤンと同じように「あいにく、俺は警官だ」ということが明かされる。
ヤン・ヨン・シェンの(兄弟のような名前の)三人は失敗した武器取引の縁で互いの存在を認識し、ラウの調査を進めていたのだ。
地獄の蓋は閉まらない
ラウはヨンの額を撃ち抜く。武器取引でも手足を狙って撃つヤンやシェンの警察流儀ではなく、黒社会出身のラウは即死あるのみだ。シェンに撃たれたラウは自分のあごを撃ち抜いて自害した、そのように見えた。
だが、ここで死んでは無間地獄にならないのである。
◇
瀕死の重傷を負うが、ラウは生きながらえ、車椅子で病院生活を送る。
現実に彼の前にいるのは妻のマリーだが、彼の背後には、かつて彼が愛し、彼が殺してしまったと言えるサムの妻、マリー姐さん(カリーナ・ラウ)が現れ、彼に銃を向け発砲する。
ラウは死ぬことはないが、これまでの罪深い行いに苦しみ続ける日々が続くのだ。
気づけば、ラウは車椅子の手すりでモールス信号を送っている。もう一人の自分であるヤンが、ウォン(アンソニー・ウォン)に情報を流しているのだろうか。ヤンの苦しみも背負ってしまったということか。
ラストに、オーディオショップで初めてラウとヤンが出会う、シリーズの冒頭のシーンに戻る。全ては無限に繰り返すということなのか。それとも、「チャンスをくれ」というラウに、善人になる機会が与えられたのだろうか。
4K版観に行ってきた
追記:2023年11月。日本公開20周年ということで、スクリーンを拝みに行った。
バカのキョンが、マッサージ店でいい女が担当になることの重要さを力説するのが、一作目の伏線回収になっている。
良心の呵責で自己崩壊していくラウ。精神的に彼を追い詰めていくヤン。完結編に相応しい展開。
◇
本作は無駄に説明的な回想シーンを挟まない。観客が分かっている前提だ。
警察学校の放校シーンやオーディオショップの顔合わせシーンなどはあっても、主要人物の射殺シーンなどは繰り返さない。ヤンの死ぬ場面はあっても、ラウの虚偽報告に基づく映像なのが心憎い。
観直すたびに、ヨンとシェンが谷原章介と北村有起哉に見えてしまうのは私だけだろうか。
ともあれ、全編振り返ると、リー先生という良き理解者を得たヤンの方が、早死にだけど幸福な人生を全うできた気がする。
改めて観ると、殉職警官の墓は三作を通じて随分増えてきたものだ。素晴らしい三部作をありがとう、アンドリュー・ラウ監督。