1. 『ヴェノム』(2018)
2. 『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021)
『ヴェノム』
Venom
公開:2018 年 時間:112分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ルーベン・フライシャー キャスト エディ・ブロック / ヴェノム: トム・ハーディ アン・ウェイング / シーヴェノム: ミシェル・ウィリアムズ カールトン・ドレイク / ライオット: リズ・アーメッド ローランド・トリース: スコット・ヘイズ ダン・ルイス: リード・スコット ドーラ・スカース: ジェニー・スレイト マリア: メローラ・ウォルターズ チェン: ペギー・ルー
勝手に評点:
(悪くはないけど)
あらすじ
歴史的偉業を発見したという、カールトン・ドレイク(リズ・アーメッド)が率いるライフ財団が、ひそかに人体実験を行い、死者を出しているという噂をかぎつけたジャーナリストのエディ・ブロック(トム・ハーディ)。
正義感に突き動かされ取材を進めるエディだったが、その過程で人体実験の被験者と接触し、そこで意思をもった地球外生命体<シンビオート>に寄生されてしまう。
エディはシンビオートが語りかける声が聞こえるようになり、次第に体にも恐るべき変化が現れはじめる。
レビュー(ネタバレあり)
マーベル版デビルマンだ
公開時に観た時は、こりゃどうにも苦手な作品だと思ったのだが、驚いたことに半信半疑だった<ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース>なるものが本作からホントに始まったので、『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』、『モービウス』に繋がる第一歩を一応復習してみた。
だが、やはり数年ぶりの再会で印象を改めることはなかった。なかなか楽しめる部分もあるにはあるし、キャスティングも悪くなく、特撮にも金がかかっているようだが、はたしてイケてない点はどこなのか。
◇
最大の難点は、間違いなくヴェノムをはじめ<シンビオート>たちの造形だろう。子供の落書きのような顔かたちは、もう少しマシにできなかったか。
本作は、劇中でも<寄生>という表現が使われており、日本においては『寄生獣』との類似点が取り沙汰されることもあった。だが、敵であるはずの超人的な存在が、人間社会でしばらく共生するうちに、裏切り者として元の仲間と戦う。このプロットは『寄生獣』というよりは、永井豪の名作『デビルマン』そのものではないか。
同じプロットでいくならば、せめてヴェノムにはヒーローの造形を期待するが、どちらかというと、デビルマンの宿敵デーモン族の魔将軍ザンニンに近い。原作コミックに近いのかもしれないが、これでは感情移入しにくい。
増岡弘さんを悼んで振り返る
— ながれ (@boomerangsaucer) March 26, 2020
デビルマン 第4話「魔将軍ザンニン」
ザンニンは短気でヒステリック、できれば上司にしたくないタイプで、増岡ボイスのおかげでそのキャラが増幅(笑)。『魔王ダンテ』からの流用であるザンニンの設定デザインは本話作監の荒木伸吾先生だそうですね。カッコイイ! pic.twitter.com/Epel03xyBq
もうひとつの大きな難点は、ヴェノムと敵対するライオットやシーヴェノムといったヴィランたちが、ほとんど同じような見かけだと言う点だ。みんな<シンビオート>なのだから、似ているのは仕方ないと言われてしまいそうだが、これは映画的には大きな失点になる。
マーベルはMCUの作品群でも同じ過ちを何度か繰り返しているが、主人公と見かけが同じ敵との対決が盛り上がったためしがない。敵キャラのデザインはこのままでもよいが、せめて善玉になったヴェノムだけは子供の落書きからレベルアップさせてほしかった。
キャスティングについて
ヴェノムと共生する主人公のエディ役にはトム・ハーディ。彼が出演のヒーローものといえば、『ダークナイト・ライジング』(クリストファー・ノーラン監督)の悪役ベイン。
あの時のトム・ハーディは、ずっとガスマスクを装着していたので、今回は顔出しが嬉しい。ヴェノムが憑依して低音の声で話しかける様子は、まるでバットマンがベインに語りかけているような錯覚に陥る。
◇
エディの元恋人アンを演じるのは、『ブロークバック・マウンテン』(アン・リー監督)、『マリリン 7日間の恋』(サイモン・カーティス監督)のミシェル・ウィリアムズ。
そしてライフ財団の創設者カールトン・ドレイクには、『ナイト・クローラー』(ダン・ギルロイ監督)、『サウンド・オブ・メタル』(ダリウス・マーダー監督)のリズ・アーメッド。
演技力も華もあり、キャスティングはけして悪くないのだ。
ストーリーには既視感だらけ
ただ、悲しいかな、脚本に語るべきものはない。あまりに先が読める、手垢のついたストーリー展開。
宇宙船から持ち帰ろうとしたサンプルが消失し、その謎の生命体がクルーに憑依して、地球に潜入してしまう。天才科学者で大富豪でもある悪者キャラの男が、そのサンプルと人間の融合を試みるが失敗続き。そこに偶然やってくる主人公がたまたま、融合してしまう。
◇
実験失敗でモンスター登場の話は『インクレディブル・ハルク』的だし、怪物が次々と誰かに憑依していく様子はジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』。
サンフランシスコの坂道カーチェイスは『アントマン&ワスプ』でもお馴染み(本作以降『シャン・チー/テン・リングスの伝説』でも登場するので、食傷気味に)。中国人女性の経営する雑貨店の強盗退治は、『シャザム!』(2019)とモロかぶりだったが、公開時期は本作が先か。
ヴェノムが憑りついたエディがレストランに乗り込んでは、生きた食い物が欲しくて生け簀に飛び込みロブスターにかぶりつく。これなど、はるか40年前にダリル・ハンナが人魚を演じた『スプラッシュ』(ロン・ハワード監督)へのオマージュかと思った。
おまけはいらない
ストーリーにひねりがないのに加え、112分の作品の後半20分で早くもエンドロールが出始める。そこから訳が分からないスパイダーマンのアニメが始まり、あまりの水増し感に唖然とする。
短編アニメ併映って、ピクサーかよ。これなら90分で終わってくれた方がよほど気持ちが晴れる。しかも、マーベルものはエンドロール終了まで観ないといけないルールがあるから厄介だ。
最後にはとってつけたように、次作に繋がるキャラのクレタス・キャサディ(ウディ・ハレルソン)が登場し、カーネイジについて語るが、本作の出来栄えからは、よく製作サイドは続編にゴーサインを出したものだ。
ソニーの広告宣伝の集客力で、世界的にも動員数は好調だったようだが、はたして満足できた観客はどのくらいいたのか。
これなら、マーク・ウェブ監督の『アメイジング・スパイダーマン』を途中で打ち切らずに三部作にしてくれたほうが良かったのに、と恨み節を言いたくなる。次作で挽回してくれるのだろうか。