『Love Letter』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー(ラブレター) | シネフィリー

『Love Letter』今更レビュー|「あなたは誰ですか」手紙のあった時代に

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『Love Letter』

岩井俊二の長編監督デビュー作。小樽と神戸で中山美穂の二役が雪に映える、手紙と分身の混沌。「お元気ですかー!」は同年の私設流行語大賞だ。

公開:1995 年  時間:117分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督・脚本: 岩井俊二


キャスト
渡辺博子: 中山美穂

藤井樹:  中山美穂(二役)
      酒井美紀(少女時代)
藤井樹:  柏原崇 (少年時代)
秋葉茂:  豊川悦司
藤井晶子: 范文雀
藤井剛吉: 篠原勝之
藤井精一: 鈴木慶一
藤井安代: 加賀まりこ
藤井慎吉: 田口トモロヲ
阿部粕:  光石研
及川早苗: 鈴木蘭々
梶親父:  塩見三省
浜口先生: 中村久美

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

あらすじ

婚約者を亡くした渡辺博子(中山美穂)は、忘れられない彼への思いから、彼が昔住んでいた小樽へと手紙を出した。

すると、来るはずのない返事が返って来る。それをきっかけにして、彼と同姓同名で中学時代、彼と同級生だった女性と知り合うことになる。

今更レビュー(ネタバレあり)

手紙と分身を散りばめた初期の名作

岩井俊二監督の初めての長編監督作品。冒頭の、雪がちらつく幻想的な銀世界で空を仰ぐ中山美穂の美しさに息をのむ。

ここからひたすら、女優陣を魔法にかけたような岩井イズムの映像美が繰り広げられる。

神戸に暮らす主人公・渡辺博子(中山美穂)が、三年前に雪山で遭難死した恋人藤井樹の実家で、かつて住んでいたという小樽の中学の卒業アルバムをみつける。

博子は思いつきで、今は国道になってしまって何もないという昔の住所の彼に宛てて手紙を書く

だが、住所不明で不着になるはずのその手紙に、なぜか返事がくる。小樽のその住所には、彼と同じ名前の藤井樹(中山美穂・二役)が住んでいたのだ。

どうも、天国から手紙が返ってきたわけではなさそうだ。こうして不思議な手紙のやりとりが始まる。

あえて書き分けない二役のキャラ

本作から25年が経って『ラストレター』が2020年に公開されたが、不思議な書簡のやりとりによるドラマの原点はここにある。

また手紙に加えて、双子のような分身の存在という岩井俊二の代名詞といえる二大アイテムも、本作では重要な役割を担っている。

それにしても、中山美穂二役の扱い方がユニークだ。

渡辺博子が、恋人を失くしてまだ立ち直れていない生真面目そうな女性なのであれば、その恋人と同姓同名で中学時代は周囲にからかわれた藤井樹は、対照的に破天荒でアクティブなキャラであるべきだろう。

神戸と小樽で舞台を分けたのも、片方は雪国で暮らしているという環境の違いを明確に打ち出すべき、それが映画では常識のはず。

山口百恵『古都』だって小泉今日子『生徒諸君!』だって、およそ二役というのは対照的なキャラを演じるからこそ効き目があるのだ(どっちも例えが古いね)。

かくいう中山美穂自身も、伴一彦のドラマ『おヒマなら来てよネ!』では静と動で対照的な二役を演じていたではないか。

だが、本作は面白いことに、渡辺博子と比較すればまだ明朗快活ではあるが、図書館司書として働く藤井樹も、十分おとなしめなキャラなのだ。さすがに衣装等で見分けはつくが、演技だけではどちらの役だか判然としない

加えて、ご丁寧なことに神戸のシーンにも雪が降っている。これでは小樽と見分けがつきにくい。神戸で暮らしていても博子は標準語だし。

かろうじて、彼氏の秋葉茂(豊川悦司)が関西弁を喋ることで、それっぽさを出しているのだろうが、ちょっと芸人ぽい語り口で不自然な気も。

神戸のシーンは一部を小樽で撮ったという話だから当然(というか狙い通り)なのかもしれないが、おかげで、神戸の博子と小樽の樹の世界は、離れているのに混然一体としてくる

手紙のやりとりから小樽へ

亡くなった恋人の昔の住所に送った筈の手紙は、同じ中学を卒業した同姓同名の子に届く。博子が書き留めたのは、その娘の住所だったのだ。何度か手紙をやりとりするうちに、博子はその事実にやっとたどり着く。

見ず知らずの相手に自分の運転免許証のコピーを送る樹の無防備さに驚かされたり、薬包紙に入った風邪薬の粉末を送る博子に、そこは当然エスタックだろうと突っ込んでみたり、楽しみ方は人それぞれ。

秋葉と一緒に小樽に押し掛けた博子だったが、結局樹にはすれ違いで会えずじまい。結局この二人が同じシーンに入るのは、小樽の街中で一瞬ニアミスを起こす場面しかない。

このカットは、極めて自然で好感がもてる。多くの場面で合成シーンを見せられても興ざめなだけなので、この対応は好判断で嬉しい。

さて、樹に会えずに神戸に戻った博子だが、二人は容姿が似ていることを知ってしまう。なんとも悲しいことだ。一目惚れしたという彼氏の言葉を信じていたが、自分が樹に似ていたから好きになったのではないかと勘繰って、深く傷つく。

「中学生に焼き餅をやくの?うちの息子は幸福ね」と樹の母(加賀まりこ)はからかうが、年齢は関係ない。博子の直観はきっと正しい。(若手女優だけでなく加賀まりこも美しくカメラに収めているのは、さすが岩井美学)。

回想シーンが常に輝いている岩井映画

本作は、博子にとって残酷な物語であり、また客観的に考えれば、中山美穂ひとりで文通しているだけの寂しい映なのだ。

だが、現代編が暗く色彩が乏しい分、過去の話、即ち二人の藤井樹(酒井美紀柏原崇)の中学時代の回想シーンが実にみずみずしいタッチで描かれている。

思えば『ラストレター』でも、過去の神木隆之介森七菜回想シーンの方が現代編より輝いて見えたが、本作にも同じことが言える。二人の藤井樹はけして恋愛関係にある訳ではないのに、とても微笑ましい仲なのである。

この中学時代は、コミックリリーフで登場の鈴木蘭々のおかげで面白味もあるが、勝気な酒井美紀のピュアな魅力と、照れくさそうに口を尖らせる柏原崇のナイーブさが何とも言えず良い。

同じ名前だからとクラスの男子女子に冷やかされて、二人が選ばれてしまう図書委員。何を隠そう、私にも意中の女の子と一緒に図書委員に選ばれた甘酸っぱい記憶があり、このシーンは素通りできない。

君の名前を食べたい、いや、書きたい

誰も借りない本ばかり選んでカードに自分の名を書き続ける樹(柏原)。その思い出話を樹(中山)からの手紙で読んで、「それは本当に自分の名前だったのでしょうか」と疑ってくる博子。

ラストシーンで樹(酒井)は、母校の後輩女子の図書委員たち(みんなカワイイ)から教わる、「彼が書きたかったのは先輩の名前です」、と。転校間際に書いた図書カードの裏には、その証拠がある。

ああ、『キミスイ』よ、良く聞け。これが図書委員の恋の描き方というものだ。そして本の裏表紙に挟まれた無骨な図書貸出票こそが、本作では<Love Letter>なのだよ。

藤井樹(中山美穂)は、ラストで中学時代の思い出がちょっと両想いっぽい感じになって救われた。一方の博子は、こと死んだ彼氏に関しては冴えない顛末で報われなかったが、その分、今の誠実そうな彼氏の秋葉と、幸福になってほしい。

山に叫ぶのも、一種のラブレターか

「お元気ですか~!」

恋人が遭難死した山に向かって大声で叫ぶ博子のこのシーンは、本作の白眉である。本作で助監督を務めた行定勲は、ここで、のちに監督としてヒットさせる『セカチュー』のインスピレーションを得たに違いない。

だが、本当なら、彼女には直接会って問い詰めたいことが山積しているはずだ。

「一目惚れって言ったのは、本心ですか~!」

まあ、これだと感動的な映画になりにくいか。ぐっと堪えて、元気か尋ねるところに、彼女の奥ゆかしさがあるのだろう。

ところで、本作において浮いているように見えるのは、小樽で母(范文雀)と祖父(篠原勝之)が、風邪をこじらせて肺炎になっている樹(中山美穂)を背負って大雪の中を病院まで駆け込むシーンだ。

やたら尺を取っているし、父親(田口トモロヲ)の時には対処が遅れて死なせてしまうという重たい話まで付け加わっている。これが物語において、どのような役割を担っていたのかがイマイチ見えていない

もしかしたら、どうにか入院が間に合って命拾いした樹に、病床でうわごとのように「お元気ですか」と言わせて、博子のシーンと繋げたかっただけなのかもしれない。

それにしても、藤井樹という集合A中山美穂という集合Bベン図が描けそうな複雑な構造を持つ作品だ。ABは何人か述べよ、と聞かれると一瞬戸惑う。

大人になった柏原崇の配役を作らなかったところが、映画的には独特のバランスを生み出していると思う。

中山美穂目当てで観るべき作品ではあるが、本作で一番おいしい所を持ってったのは酒井美紀だったのではないかな。ああ、トヨエツには最後まで殆ど触れずじまいになってしまった。