『朽ちないサクラ』
柚月裕子の原作を杉咲花主演で映画化。殺された親友のために真相究明に挑んだ彼女が辿り着いた先は。
公開:2024年 時間:119分
製作国:日本
スタッフ
監督: 原廣利
原作: 柚月裕子
『朽ちないサクラ』
キャスト
森口泉: 杉咲花
富樫隆幸: 安田顕
梶山浩介: 豊原功補
磯川俊一: 萩原利久
津村千佳: 森田想
津村雅子: 藤田朋子
辺見学: 坂東巳之助
浅羽弘毅: 遠藤雄弥
兵藤洋: 駿河太郎
宮部秀人: 篠原悠伸
臼澤: 和田聰宏
勝手に評点:
(悪くはないけど)

コンテンツ
あらすじ
たび重なるストーカー被害を受けていた愛知県平井市在住の女子大生が、神社の長男に殺害された。
ストーカー被害届の受理を先延ばしにした警察が、その間に慰安旅行に行っていたことが地元新聞のスクープ記事で明らかになる。
県警広報広聴課の森口泉(杉咲花)は、親友の新聞記者・津村千佳(森田想)が記事にしたと疑うが、身の潔白を証明しようとした千佳は一週間後に変死体で発見される。
後悔の念に突き動かされた泉は、捜査する立場にないにもかかわらず、千佳を殺した犯人を自らの手で捕まえることを誓う。
レビュー(まずはネタバレなし)
慰安旅行から始まる騒動
柚月裕子の人気警察小説を杉咲花主演で映画化。とはいうものの、彼女が演じる主人公・森口泉は刑事でも警察官でもなく、一介の県警広報課の事務職員だ。
そんな主人公がぐいぐいと殺人事件の捜査に斬りこんでいく展開には無理があるが、被害者女性の県警担当記者・津村千佳(森田想)が親友だったということでこの無茶な設定を乗り越える。
それも、県警がストーカー被害届の受理を渋っている間にその女子大生は殺され、更にその時期に警察が慰安旅行に行っていたことが千佳の勤務する地元紙ですっぱ抜かれる。
泉は迂闊にその旅行情報を千佳に伝えてしまったが、彼女は記事にしないと約束する。だが事実は明るみになり、県警には苦情電話が殺到。
泉に疑われた千佳はリークのネタ元を調べ、そして殺された。だから、泉は単なる義侠心や友情に突き動かされるのではなく、自戒の念で自力捜査を始めるのだ。事件の端緒となる、慰安旅行土産を泉に渡した後輩刑事の磯川俊一(萩原利久)とともに。
杉咲花の本領が発揮しにくい
ここまでをわりとコンパクトに、しかも説明的でなくきちんと伝えてくれる導入部分はうまく纏まっていた。原廣利監督はデビュー作『帰ってきた あぶない刑事』に続く本作だが、愛知県警もヨコハマ港署みたいにおふざけ演出されることはなく、一安心。
柚月裕子原作の映画化というと、どうしても『弧狼の血』シリーズのド迫力や、ドラマ『佐方貞人』シリーズの天才検事の活躍を期待してしまうが、その点ではどうしても物足りなさが残る。
原作には比較的忠実にしっかりと作られているのだが、映画ならではの何かが欲しかったという気がする。

杉咲花は刑事顔負けの眼力もあるし、演技力にも申し分ないのだが、この物語での泉は亡き親友のために真実を追究する役なので、終始苦しい表情をしている。そこが勿体ない。
喜怒哀楽を自在に操れる杉咲花なら、大笑いしてから涙をボロボロ流すことも容易くできてしまうと思うのだが、残念ながらこの作品には披露の場が少ないと感じた。
『ミーツ・ザ・ワールド』や『52ヘルツのクジラたち』などの演技に比べると、ちょっと本領発揮できずにいる印象。

安田顕と豊原功補
泉の上司である広報課長の富樫(安田顕)は、元公安刑事、つまりサクラ出身。泉が慰安旅行情報のリーク元であることを突き止めるが、事件捜査に関しては彼女の良き理解者となっている。
安田顕が真面目な顔で警察官を演じているのは珍しい? いや、テレビドラマならよくあるのかな。この人物の本性は、どこまで信じていいのか気になったが、思わせぶりな演出は特にない。
本作でいちばん気に入っているキャストは、鬼の県警捜査一課長・梶山(豊原功補)。押しの強い、いわゆるたたき上げの刑事課長なのだが、無骨なキャラが豊原功補にフィット。
彼はドラマ『時効警察』のトレンチコート姿のとぼけたハードボイルド刑事のイメージが強すぎて、もうこういう役はできないのかと思っていた。
◇
さて、捜査一課による事件捜査はなかなかはかどらないところ、泉に協力する磯川が勤務する平井署で、派遣切りにあった百瀬という女性が、慰安旅行のリーク元として疑われるという話になる。
このあたりから捜査は少しずつ進展をしていき、梶山たちも泉の情報を手掛かりに動いていく。

レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見未読の方はご留意ください。
原作からの改変
何者かが女性を風呂で溺死させて川に投げ込む冒頭のシーンは原作にないが、映画用に少し構成を凝りたかったのか。その他原作から改変したところはいくつかある。
- 派遣切りの百瀬は上司と不倫ではなく、ストーカー被害届を受理しなかった真面目な警察官・辺見(坂東巳之助)と交際していたこと。
- 事件の鍵を握るカルト教団の信者リストからクルマを割り出すのに、レンタカーというヒントを富樫が与えなかったこと。
- 真相にたどり着く材料に、神社のおみくじというのも、原作では使われていなかったのではなかったか。
ただ、改変自体は当然あってしかるべしだし、不自然さもなく、映画的にはうまい手だと思う。

公安との対決
途中からカルト教団がからんできてしまうのは、本作が公安警察(サクラ)を題材にしている以上必然なのかもしれないが、ちょっと方向性が中途半端になった感が否めない。
公安と警察の不仲を描くとなると、例えば逢坂剛の『MOZU』シリーズのスケールには及ばないし、泉が女刑事でないことから、誉田哲也の『姫川玲子』シリーズ(竹内結子主演)や秦建日子の『アンフェア』(篠原涼子主演)のような活躍もできない。

せっかくみつけた真犯人に教団施設からまんまと脱走され、挙句に自動車事故死という間抜けぶりが実に豊原功補ぽくて笑ってしまった。
だが、犯人逮捕で事件解決はやはり捜査課のカタルシスであって、広報課の泉は蚊帳の外だ。なんで、彼女が主人公なのだろうという疑問は、終盤に答えが与えられる。
これはどんでん返しということになるが、ちょっとついていけない気もする。しかも、料亭のような座敷で対面で語られるだけなので、映画的な盛り上がりには欠ける。

映画の最後で、失望した泉は警察官を目指して試験を受けると決意する。「朽ちないサクラ」というのは、死んでしまった一人より、生きている百人の平和を優先する公安警察を、「懲りない面々」と言っているに等しいタイトルなのだ。
念願かなって刑事になった泉の活躍する次作『月下のサクラ』も、杉咲花で映画化するのかな。
