『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』
Män som hatar kvinnor
公開:2009年 時間:180分(完全版)
製作国:スウェーデン
スタッフ
監督: ニールス・アルデン・オプレヴ
原作: スティーグ・ラーソン
「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」
キャスト
ミカエル・ブルムクヴィスト:
ミカエル・ニクヴィスト
リスベット・サランデル: ノオミ・ラパス
エリカ・ベルジェ: レナ・エンドレ
フルーデ: イングヴァル・ヒルドヴァル
ビュルマン: ピーター・アンダーソン
モレル警部: ビョルン・グラナート
<ヴァンゲル家>
ヘンリック:スヴェン・バーティル・タウベ
マルティン: ペーテル・ハベル
セシリア: マリカ・ラーゲルクランツ
ハラルド: イェスタ・ブレデフェルト
イザベラ: グンネル・リンドブロム
ハリエット: エヴァ・フレーリング
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

『ドラゴン・タトゥーの女』
The Girl with the Dragon Tattoo
公開:2011年 時間:158分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: デヴィッド・フィンチャー
原作: スティーグ・ラーソン
「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」
キャスト
ミカエル・ブルムクヴィスト:
ダニエル・クレイグ
リスベット・サランデル:ルーニー・マーラ
エリカ・ベルジェ: ロビン・ライト
フルーデ弁護士: スティーヴン・バーコフ
ビュルマン弁護士:
ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン
モレル警部補: ドナルド・サムター
<ヴァンゲル家>
ヘンリック: クリストファー・プラマー
マルティン: ステラン・スカルスガルド
セシリア: ジェラルディン・ジェームズ
ハラルド: ペル・マイヤーバーグ
イザベラ: インガ・ランドグレー
アニタ: ジョエリー・リチャードソン
ハリエット: モア・ガーペンダル
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

あらすじ
経済誌「ミレニアム」の発行責任者で経済ジャーナリストのミカエルは、資産家のヘンリック・ヴァンゲルから40年前に起こった少女ハリエットの失踪事件の真相追究を依頼される。
ミカエルは、背中にドラゴンのタトゥをした天才ハッカーのリスベットとともに捜査を進めていくが、その中でヴァンゲル家に隠された闇に迫っていく。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
北欧ミステリーの本家とリメイク
スウェーデンの大ベストセラーとなったスティーグ・ラーソンの『ミレニアム』シリーズ。著者はその第一部の出版を待たずに不運にも早逝してしまうのだが、『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』が大ヒット。
まずは本国で『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009)、その2年後にデヴィッド・フィンチャー監督によるハリウッドリメイクで『ドラゴン・タトゥーの女』(2011)が公開される。
公開時以来、久々に原作を読み直し、映画もそれぞれ再観賞したが、やはりスティーグ・ラーソンの原作が面白い。前後編に分かれる大作だが、飽きずに読ませる。
経済誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエル・ブルムクヴィストは実業家ヴェンネルストレムの不正を報道したが、名誉毀損の有罪判決を下される。
雑誌廃刊の危機のミカエルに対し、大企業グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルの依頼で身元調査を実施するのが、ドラゴン・タトゥーの女、リスベット・サランデル。
調査報告を踏まえ、ヘンリックはミカエルに仕事を依頼する。それは36年前に一族が住む島から忽然と姿を消した少女ハリエットの失踪事件の調査だった。
調査は困難を極めるが、ミカエルはついに新しい手がかりを発見する。助手が必要となったミカエルは、自分を調査していたリスベットの腕を見込んで、彼女と組んで調査を進めることになる。

橋一本で本国と繋がっている離島に暮らすヴァンゲル一族。ハリエットの失踪時、その橋は交通事故で封鎖されており、島は密室状態にあった。
加えてヴァンゲルは互いに憎み合う資産家一族で、消息不明のハリエットは、一族の誰に殺されたのか。
舞台設定は正統派ミステリーのそれであるが、探偵役を務めるのは、出版社内で大っぴらに不倫中の発行責任者と、鼻ピにタトゥーのパンクファッション女という不思議な組み合わせ。

キャスティングについて
さてこの二本の映画。当然ながら、原作と同じスウェーデン製作でスウェーデン人のキャストで撮ったニールス・アルデン・オプレヴ監督の『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の方が、原作の雰囲気をよくつかんでいる。
聞いていてもまるで分からないスウェーデン語だったり、まるで知らない俳優ばかりだったりで、独特の雰囲気が映画を神秘的に格上げする北欧映画あるあるの効果もあって、この作品はよく出来ている。
今回は通常版より30分ほど長い完全版を観たせいか、内容的にも不足感はない。

こりゃ、いくらフィンチャーでも分が悪いかなと思っていたが、ハリウッド版を観ると、こちらも負けていない。
普通、ハリウッドリメイクはオリジナルの持つ独特の持ち味には遠く及ばず、廉価版扱いになるものだが、『ドラゴン・タトゥーの女』にはその劣等感を感じない。
これは舞台を同じスウェーデンにし、役名も変えていないことが大きい。台詞が英語になっただけなのだ。そこまで同じなら、なぜリメイクするのか理解に苦しむけど。
キャストはどうだろう。最も目を引くのは、細く華奢な体にピアスとタトゥーだらけのリスベット、オリジナルのノオミ・ラパスにリメイクのルーニー・マーラ。
『プロメテウス』のノオミ・ラパスに『キャロル』のルーニー・マーラだよ。よくぞここまでという変身ぶりと、奇異なキャラの熱演で、これはどちらも甲乙つけがたい。

そして主人公のミカエル役には、オリジナルのミカエル・ニクヴィストにリメイクのダニエル・クレイグ。これは好みの問題だが、仕事もできるが恋愛も盛んな主人公にはミカエル・ニクヴィストの甘いマスクの方が似合っていたかな。
ダニエル・クレイグはやはり、当時演じていたストイックなジェームズ・ボンドのイメージが強く、不倫は勿論、終盤で真犯人に拳銃向けられ首吊りにされる役とは相性が悪かった。

二作品の長所は異なる
映画全体の出来はどちらも優劣がつけがたいのだが、それぞれにセールスポイントが分かれるのが興味深い。
オリジナル版は舞台となる島の想像を絶する寒さだとか、本国に繋がる一本の長い橋の雄大さ、ヘンリックの暮らす大邸宅の重厚さといった、画面から滲み出てくる雰囲気がとても洗練されている。北欧ミステリーの名にふさわしいノワール感がある。
失踪したハリエットの写真も、どこか『ツインピークス』のローラ・パーマーを思わせる美人画で雰囲気十分。
◇
一方で、性の先進国といわれるゆえんか、映画の中の性描写は生々しいし、リスベットが後見人のビュルマン弁護士に手錠プレイで襲われる場面も相当ハードだ。
また、聖書の表現に沿った内容で女性の連続猟奇殺人が行われるのも、本来は『セブン』と同じだからフィンチャーの得意分野のはずだが、映画としてはオリジナルの表現のほうがグッときた。
最も気に入っているのは、ミカエルが古い写真からどうにか手がかりを発見していくプロセス。写真のピンボケ具合だったり、画像を加工してヒントの文字を浮かび上がらせたり、ここのアプローチはリメイク版よりも興奮させる。
◇
一方のリメイク版。舞台となった島の気候をはじめ、オリジナルで過激と思われた部分の多くはマイルドになっている。これは私には物足りなかったが、好みの問題かもしれない。
フィンチャー版は映画のリメイクではなく、原作からの再映画化という位置づけなのだろう。
ミカエルの娘が登場してきて、重要な暗号を解くヒントを偶然くれる。ヘンリックは表向きミカエルに評伝の執筆をさせている。契約終了時にミカエルが敗訴した相手の弱味の情報をくれる約束をする。
といった、オリジナルでは捨象したような点もわりと丁寧に拾い上げている。

ストーリーが分かりやすいのは、フィンチャー版の方かもしれない。
もっとも、常に原作に忠実というわけではなく、終盤に失踪したハリエットがどうなったのかを探り当てた結果は、原作(=オリジナル版)とは大胆に変更している。後発の作品としては、愛読者やオリジナルを観た人にサプライズを与えたかったのか。