『ロストチルドレン』今更レビュー|また組んでほしいよ、鬼才ジュネ&キャロの最強タッグ

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『ロスト・チルドレン』
La Cité des Enfants Perdus

ジャン=ピエール・ジュネとマルク・キャロの共同監督で贈るダークファンタジー第二弾

公開:1995年 時間:112分  
製作国:フランス

スタッフ 
監督:     ジャン=ピエール・ジュネ
             マルク・キャロ


キャスト
ワン:         ロン・パールマン
ミエット:    ジュディット・ヴィッテ
博士、クローン:    ドミニク・ピノン
マーサ:         ミレーユ・モセ
マルチェロ:ジャン=クロード・ドレフュス
クランク:   ダニエル・エミルフォルク
タコ姉妹:  ジュヌヴィエーヴ・ブリュネ
            オディール・マレ
ダンレー:      ジョゼフ・ルシアン

勝手に評点:3.5
  (一見の価値はあり)

(C)1996 STUDIOCANAL

あらすじ

暗く冷たい雨が降りしきる近未来の港町。心優しい大道芸人の怪力男ワン(ロン・パールマン)は、「一つ目族」と呼ばれる新興宗教団体に弟ダンレー(ジョゼフ・ルシアン)をさらわれてしまう。

教団は、夢を見ることができない天才クローン人間クランク(ダニエル・エミルフォルク)に夢を見させるため、子どもたちの頭の中から夢を取り出す実験を繰り返しており、そのために子どもたちをさらっていた。

途方に暮れるワンは、孤児たちの窃盗団を率いる少女ミエット(ジュディット・ヴィッテ)と出会い、ミエットはワンと一緒に彼の弟を捜すことにする。

今更レビュー(ネタバレあり)

『デリカテッセン』に続くジャン=ピエール・ジュネマルク・キャロの共同監督・脚本作品。

米国が舞台の『天才スピヴェット』を観ると、ジャン=ピエール・ジュネ監督作品の滋味は、やはりハリウッド映画では味わえないなと感じてしまう。

『エイリアン4』など論外だし、『アメリ』は傑作だし楽しいが、ジュネにしては洗練されすぎている気もする。

そう考えると、「ジュネらしさ」が存分に堪能できるのは結局、マルク・キャロと組んだ濃厚で手の込んだ世界観のダーク・ファンタジーである『デリカテッセン』と本作ということになるのかもしれない。

(C)1996 STUDIOCANAL

冒頭から怪しい雰囲気全開だ。煙突のある家に幼い子供。クリスマスなのか、暖炉からサンタが現れる。初めは喜んで迎えるが、そのうち何人もサンタが現れ、みんなで勝手に騒ぎ出し、子供は泣きだす。

画面全体が歪みだし、これは悪夢だと分かる。夢の中と同様、目覚めたあとも不気味な空間が広がる。

先ほどはサンタを演じていた、緑の服の6人のクローンジュネ作品常連のドミニク・ピノン)。スキンヘッドの老人のようなクランク(ダニエル・エミルフォルク)。小人の女性マーサ(ミレーユ・モセ)。それに水槽の中で生きる脳みそのイルヴィン

不思議な面々がどういう人物なのかを把握するのに結構難儀したが、みんな一人の天才博士が作り出したものらしい。

(C)1996 STUDIOCANAL

博士は孤独を癒そうと、美人の妻を造ったが、生まれてきたのは小人のマーサ。次に、自分と同じ姿をしたクローンを6体造ったが、みな眠り病を煩った失敗作。

次に素晴らしい知能を持つ脳みそイルヴィンを水槽の中で育成したが、肉体はない。ようやく最後に、優秀なクローンのクランクを造ったが、夢を見ることが出来ず、老化の進行が速かった

クランクはクローンたちがさらってきた子供から夢を盗もうとするが、みな悪夢になってしまうのだった。子供の悲鳴を集める、ピクサー『モンスターズ・インク』のような設定。勿論、こっちのが先行だけど。

オリジナルの博士は、彼らが住む海の上の楼閣のような要塞から、いつの間にか姿を消しており、子供たちから夢を奪う作業だけが行われていた。

どれも曲者揃いのキャラクターだが、ドミニク・ピノンのクローンたちが図抜けている。

ジュネ&キャロ同様に独特のダーク・ファンタジーを撮るティム・バートン監督は、ヒット作『チャーリーとチョコレート工場』(2005)で何人もが同じように踊るウンパ・ルンパを登場させた。

あの面白味を、10年前に本作でクローンたちが既に具現化していたといえるのかも。

さて、ここまでの話で、まだ主人公は登場していない。「一つ目族」という盲目の集団がいる。彼らは機械式の義眼を通して外界を見るのだが、攫ってきた子供と引き換えに義眼を渡しているのが、例のクローンたちなのだ。

そしてこの一つ目族に、食いしん坊の幼い弟ダンレー(ジョゼフ・ルシアン)を奪われ、必死に取り戻そうとするのが、ちょっと頭の弱い心優しき怪力男ワン(ロン・パールマン)、本作の主人公だ。

そして、子供窃盗団のリーダー少女ミエット(ジュディット・ヴィッテ)が、ひょんなことから出会ったワンの純粋さになぜか心惹かれ、一緒にダンレーを探すことになる。

(C)1996 STUDIOCANAL

ワンを演じるのは『ヘルボーイ』(ギレルモ・デル・トロ監督)でおなじみの大男ロン・パールマンだ。デル・トロ監督の最近作『ナイトメア・アリー』でも、本作と同じ見世物小屋の怪力男を演じていたのには笑。

美少女ミエットとの組み合わせは『美女と野獣』のようだったが、ヒロインのジュディット・ヴィッテは若くして引退してしまった模様。

本作の登場人物は変わった役名が多いが、ミエットは欠片やパン屑、ダンレーは食糧といった意味になるらしい。

ミエットたち子供窃盗団のボスは強欲な双生児のタコ姉妹。タコさんウィンナーじゃなくソーセージ。演じているのは双子の女優ジュヌヴィエーヴ・ブリュネオディール・マレ

一つ目族に処刑されようとしているワンは金庫運びに重宝だと救おうとする一方、宝石を盗んだミエットは見殺しにしようとする。

そしてこの老姉妹とかつて仲間だったノミ使いマルチェロ(ジャン=クロード・ドレフュス)。彼の操るノミは、特殊な薬品を注入することで狂い出すのだ。

どのキャラの設定も風変りなのに、ろくに説明することなく物語は早いテンポで進んでいく。

説明過剰で朝ドラなみに分かりやすい昨今の邦画の影響か老化現象か分からないが、すっかり理解力の衰えてしまった私には初見でストーリーを把握することは厳しく、二夜連続で観賞することとなった。

だが、けしてとっつきにくいことを非難しているわけではない。

  • 箱庭のように精緻にこしらえた舞台装置の美しさ
  • 偶発的なアクシデントが次々と重なっていき、最後には都合のよい結果に繋がるピタゴラスイッチ的な仕掛けの面白さ
  • 後に『アメリ』にも継承される、チマチマとした小ネタがマシンガンのように連射される展開

映画としての完成度は『デリカテッセン』に軍配があがるように思うが、遊び心と美的センスに衰えはない。