『傷だらけの天使』『愚か者 傷だらけの天使』一気通貫レビュー

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『傷だらけの天使』

公開:1997年 時間:118分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:        阪本順治
脚本:        丸山昇一


キャスト
木田満:       豊川悦司
石井久:       真木蔵人
立花英子:      原田知世
倉井蛍:       類家大地
倉井拓也:      三浦友和
倉井錠治:      菅原文太
足立源太:      宇崎竜童
中津和江:      余貴美子
大島正次:      杉本哲太
たもつ: ザ・グレート・サスケ

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

あらすじ

横田基地の近くにオンボロ探偵事務所を構える木田満(豊川悦司)が、死に際のヤクザから一人息子、蛍を母親のもとに連れていってほしいと頼まれる。

八戸に向かう途中、満の相棒、久(真木蔵人)も車で駆けつけるが、ようやく会えた母親はケンもほろろで、怒った満たちは大ゲンカを起こしてしまう。

今更レビュー(ネタバレあり)

商売にならないから事務所を畳もうとしている、探偵の木田満(豊川悦司)とその相棒・石井久(真木蔵人)が、最後の仕事でトラブルに巻き込まれるバディムービー。

バイオレンスと笑いのほどよいバランスに男の哀愁を漂わせ、阪本順治監督の得意とする世界ではある。

ただ、タイトルを聞いて頭に浮かぶのは、当然、萩原健一水谷豊の不朽の名コンビによる傑作ドラマであり、そのキャラクターを下敷きにした本作は、さすがに本家にはとても及ばない。なんで、こういう無謀な企画を強行してしまうかなあ。

トヨエツはカッコいいが、あの頃のショーケンに比べるとインパクトは弱いし、「アニキ―っ」とコミカルで人の好い弟分を演じた水谷豊に比べると、真木蔵人はけして聞き分けのよい徒弟ではなく、出来がいいことに違和感を抱く。

元ネタのドラマに夢中になった世代には、どうしたって物足りなさを払拭できない。

ただ、そういう先入観さえなければ、この二人のバディの組み合わせはなかなかイケてるように見える。お調子者だが人情に厚い、長身にグラサン・ロン毛が似合う木田満役の豊川悦司

前年の『八つ墓村』金田一耕助に続いての探偵役だが、当然ながらまったく違うキャラ。トヨエツは本作以降、阪本組の常連となる。

一方、仕事もでき兄貴分にも厳しい物言いの相棒・石井久役の真木蔵人は、北野武監督の『あの夏、いちばん静かな海。』でも思ったことだが、佇まいが美しい。立っているだけで絵になる。

物語は、満が足立(宇崎竜童)からやむなく引き受けた仕事で、シャブ絡みのトラブルで瀕死の倉井(三浦友和)と遭遇し、その男の幼い息子・(類家大地)を別れた妻に送り届けることになる。

倉井はそのまま死んでしまが、義理堅いというか、蛍を不憫に思った満は、その子を連れて岩手県は宮古へと旅に出る。小さな子連れで母親探しのロードムービーとなると、またもや北野武監督の『菊次郎の夏』を思い出すが、本作の方が公開は早い。

東北で母親探しの最中、みちのくプロレスの面々と食堂で出会い、その社長(ザ・グレート・サスケ)が満の旧友だったことから、急遽覆面レスラーとして参戦させられることに。

本筋とはやや脱線するが、このプロレス場面は結構迫力もあるし、笑える。阪本監督は、ボクシング映画の試合シーンに笑いはなかったが、プロレスは違うのか。

宮古から引っ越したという母親を追って二人は青森県八戸へ。岩手では三陸鉄道が登場し、朝ドラ『あまちゃん』を思い出していたら、なんとドラマで駅長役だった杉本哲太が出てくるではないか(『ビリケン』か!)。これには驚いた。

満たちが探している母親役が原田知世なのか?三浦友和の妻だとすれば若すぎないかと思えば、これは早とちり。蛍の母親を演じるのは余貴美子だった。だが、彼女には再婚話があり、少年は捨てられようとしていた。

原田知世が演じているのは東京からきた化粧品講習のインストラクター。作品の中ではヒロイン的なポジションで、満とはいい雰囲気になるのだが、物語への絡み方がいまひとつ中途半端で分かりにくい気がする。

屋根のないフォード・マスタングで雪国まで追いかけてくる久は、満に比して出番が少ないものの、キャラが立っていて好感度大。蛍の髪を切ってリーゼントにしてやる場面も楽しい。眞木蔵人も本作以降、阪本監督作品に頻出。

結局、引き取り手のない蛍を最後に連れて行った先は、牧場主である父方の祖父(菅原文太)。頑固で怖そうな爺さんだが、跡取りにするかと蛍を受け容れる。

三浦友和の父親に菅原文太とは、ワンシーンだけの出演とはいえ何とも豪華な血筋だ。菅原文太『鉄拳』で阪本作品に主演。

本家の同じ井上尭之バンドが音楽を担当しているので、どことなく同じ匂いがするテーマ曲が流れてくるのは良かった。

ただ、ハチャメチャ展開の面白さはあったものの、シンプルなストーリー運びとほんのり漂うペーソスが『傷天』の本来の魅力だとすれば、やはり満足度は今ひとつ。

終盤、満は倉井を殺したヤクザに襲われてしまい、敵はくたばるが、その前に満が殺されてしまったと想像させるカットがあり、雪の中で久が待ちぼうけを食っているところで映画は終わる。

本作には続編があるので、満は生きているのだろうと思っていたが、なんとこの続編は前日譚だった。ということは、やはりあれで終わりなのか。