『化け猫あんずちゃん』考察とネタバレ|化け猫の先入観を覆すユルい本格派アニメ

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『化け猫あんずちゃん』

いましろたかしの原作コミックを山下敦弘と久野遥子が共同監督でロトスコープアニメ化

公開:2024年 時間:94分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:          山下敦弘
             久野遥子
脚本:       いまおかしんじ
原作:       いましろたかし


声優
あんずちゃん:      森山未來
かりん:         五藤希愛
和尚さん:        鈴木慶一
哲也(かりん父):    青木崇高
柚季(かりん母):   市川実和子
貧乏神:         水澤紳吾
閻魔大王:        宇野祥平

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

あらすじ

ある豪雨の日、寺の住職が段ボール箱の中で鳴いている子猫を見つける。その猫は「あんず」と名付けられて大切に育てられるが、奇妙なことに20年が過ぎても死ぬことはなく、30年経った頃には人間の言葉を話して人間のように暮らす化け猫となっていた。

現在37歳のあんずちゃんは、原付バイクに乗って移動し、マッサージ師のアルバイトをしている。

ある日、親子ゲンカしたまま行方がわからなくなっていた住職の息子が、11歳の娘かりんを連れて寺に帰ってくる。かりんの世話を頼まれたあんずちゃんは、仕方なく面倒を見ることになる。

レビュー(ネタバレあり)

いましろたかしの原作コミックは未読であり、いつもならそのままスルーしてしまいそうな、ゆるい感じのアニメ映画なのだが、なぜだか山下敦弘が監督しているので、つい気になってしまった。

調べてみると、いましろたかし原作の映像化は、山下敦弘監督が映画『ハードコア』『週刊真木よう子』の挿話ドラマ、いまおかしんじ監督が映画『デメキング』をそれぞれ撮っている。

そうなると、今回の脚本・いまおかしんじ、監督・山下敦弘の座組は、アニメであることを除けば、自然な流れなのかもしれない。

なお、アニメに関しては、共同監督の久野遥子が担当し、山下監督実写部分を撮ったあとにその映像と音声を活かしてアニメーションを作っている

これは、例のあれだ、ロトスコープというやつだな。相当手間暇かけているということになる。

正直、そんな裏の事情は、観終わった後に知ったのだが、まさか、田舎町の寺で和尚さんのもとで働き、人とも会話をする37歳のゆるキャラ的な化け猫のアニメに、ロトスコープが使われているとは驚いた。

ただ、何も知らずに観ていても、主人公のあんずちゃんや、寺に住むことになる美少女かりん始め、周辺キャラが独特な動きをしていることは気づいた。

理屈でいえば無駄な動きかもしれないが、実写ならそうなる無意識な動作。だから、作画は思いっきりシンプルな2Dでも、妙にリアリティがある。

この動きで思い出したのは岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』だったのだが、それも同じ久野遥子の手による作品だったとは。

映画は冒頭、池照町の駅に降り立つ父・哲也と娘のかりん。3年前に妻に先立たれた哲也は、長年音信不通にしていた実家の寺に帰ってくる。

サラ金の返済に追われ、カネを無心に来たのだが断られ、かりんを寺に置いたまま、哲也は東京に戻る。

このまま少女が異世界に置き去りにされると『千と千尋』『トトロ』のようだが、かりんが出会うのは、人間のように言葉を話し、原チャリを乗り回す巨大な猫。30年以上前に拾った子猫が、化けてしまったらしい。

(C)いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

マッサージ師で小遣い稼ぎしたり、パチンコで有り金すったり、無免許で警察につかまったり。妙にオヤジっぽいこの化け猫あんずちゃんを、山下監督とは『苦役列車』で組んでいる森山未來が演じている。

実際に演じたときの動きと声を使っているのだから、声優以上にキャラと近い存在といえる(顔は似てないけど)。森山未來のやる気のなさそうな声の出し方が、実にあんずちゃんっぽくていい。

ロトスコープの手法と、この平面的な造形のゆるキャラの相性がよいのかはよく分からないが、少なくともこの映画では森山未來の声質と話法によって、文句を言わせないだけの説得力が生まれていた。

この、妙に世間ずれした化け猫と、父親に置き去りにされてひねくれている少女は、けして仲良しではなく、あんずちゃんは反発するかりんの面倒を仕方なくみている。

不良に憧れる小学生の少年二人組が兄貴と慕うあんずちゃんとの関係が面白いのだが、更に途中から、巨大なカエルやキノコや地蔵や山姥、それに貧乏神など、多様なキャラが登場してくる。

カエルとタヌキがゴルフのキャディをやっている場面があったが、まるで懐かしいDCカードのカッパとタヌキだ。

(C)いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

もうひとつ頭をよぎったのは、村上春樹短編原作を繋ぎ合わせたアニメ『めくらやなぎと眠る女』人間大のアマガエルが登場してきて、ちゃぶ台に座る構図まで本作と同じなので笑ってしまった。

日本人の顔のデザインがあまりに不細工で個人的にはまったく愛着が湧かなかった『めくらやなぎ~』に比べると、本作はおっさん臭い化け猫も、バカボンのパパっぽい和尚さんも、みんな親しみの持てるキャラばかりで、好感度大。

(C)いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

でも、どっちもフランスのMIYUプロダクションが製作に関わっているそうで、共に実写を撮ってからアニメにしているのに、こうも受け手の印象が異なるのか。

舞台は池照町から離れないのかと思っていると、後半でかりんが父を探しに東京に戻る。あんずちゃんも保護者として付き添うのだが、実在の都内各所を背景にしているのが笑ってしまう。

(C)いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

そして、そこで再会した貧乏神に、「死んだ母さんに会わせて」とかりんが懇願したことで、三人はこっそりと死後の世界に侵入する展開になる(壊れた便器が魔界に繋がっているとは)。

生きているのに勝手に魔界に侵入して、閻魔大王や鬼たちの目を盗んで、死んだ母親を探し回る。

死後の世界のコミカルな描き方はピクサーの傑作『リメンバー・ミー』っぽい、いや、そこで死に別れた親と再会するのだから、ティム・バートンの近作『ビートルジュース ビートルジュース』の方が近いか。

更に、死んだ母を強引に現世に連れて帰ってきちゃうところとか、鬼たちが追いかけてくるところは、アニメならではの無茶な展開で楽しめた。閻魔大王以下、鬼たちはみな関西弁なのだなあ。

素直になれないお年頃の少女かりんとあんずちゃんとの別れの場面が、ほんのり甘酸っぱくて良かった。3Dに頼らずともアニメの可能性はいろいろあることを再認識できた。