『教皇選挙』
Conclave
エドワード・ベルガー監督がレイフ・ファインズ主演で描く、秘密めいたコンクラーベのミステリー。
公開:2025年 時間:120分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: エドワード・ベルガー
脚本: ピーター・ストローハン
原作: ロバート・ハリス
キャスト
トマス・ローレンス:レイフ・ファインズ
アルド・ベリーニ:スタンリー・トゥッチ
トランブレ: ジョン・リスゴー
テデスコ: セルジオ・カステリット
アデイエミ: ルシアン・ムサマティ
ベニテス: カルロス・ディエス
アグネス: イザベラ・ロッセリーニ
ウォズニアック: ジャセック・コーマン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
全世界14億人以上の信徒を誇るキリスト教最大の教派・カトリック教会。その最高指導者で、バチカン市国の元首であるローマ教皇が亡くなった。
新教皇を決める教皇選挙「コンクラーベ」に世界中から100人を超える候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の閉ざされた扉の向こうで極秘の投票がスタートする。
票が割れる中、水面下でさまざまな陰謀、差別、スキャンダルがうごめいていく。選挙を執り仕切ることとなったローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は、バチカンを震撼させるある秘密を知ることとなる。
レビュー(まずはネタバレなし)
コンクラーベのミステリー
ローマ教皇の突然の死去により、バチカン市国のシスティーナ礼拝堂で行われる教皇選挙を描いたミステリー。
コンクラーベといえば、新たな教皇が決まるまで隔離された環境の中で投票が繰り返され、選挙の終了は煙の色で周囲に知らされるなど、何百年も続くその秘密めいた儀式的な定めでも良く知られる。
いかにも映画的な題材だと、今回映画を観て再認識した。
その名を聞くと、オッサンなら「根比べ」というお寒い駄洒落を言わずにはいられないこの名前は、すっかり我が国でも知られていると思うので、原題ままのタイトルか、せめて副題に『コンクラーベ』と付けた方が分かりやすい気もする。

文字通り、教皇選挙の映画である。投票権のある枢機卿たちが各国から集まってきては、電子機器類を預けて何日間もシスティーナ礼拝堂に隔離される。
立候補者がいるわけではない。集まった枢機卿の中から、各自が適任者に投票する。投票総数の2/3の得票数を集めたものが、新教皇になるのだ。
そこに到達するまでに、何度も投票が繰り返される。観る者は枢機卿と同じように、礼拝堂に閉じこめられて、この選挙に付き合うことになる。
候補者の枢機卿たち
どう考えても地味な展開だが、不思議と緊張感が途絶えることがない。上質のミステリーのようだ。
レイフ・ファインズが演じる主人公のトマス・ローレンスは首席枢機卿であり、この教皇選挙を仕切る役割を担っている。信仰に悩み、前教皇に解職を申し出たほどであり、彼に選挙に勝ちたいという野心はない。
選挙は始まる前から波乱の予感。まず、認知されていないベニテス枢機卿(カルロス・ディエス)がアフガニスタンのカブール教区からやってくる。前教皇が秘密裡に認めた人物らしい。
そして何日も繰り返す選挙が始まる。回を重ねるごとに、候補者は絞られていく。
- ローレンスと親しい、リベラル派の米国人アルド・ベリーニ(スタンリー・トゥッチ)
- モントリオール出身の保守派トランブレ(ジョン・リスゴー)
- ナイジェリア教区からは初のアフリカ系教皇となるかアデイエミ(ルシアン・ムサマティ)
- 久々にイタリア人に教皇を戻したいベネチア教区のテデスコ(セルジオ・カステリット)
神に仕える聖職であっても、教皇の座を手に入れるために、策を講じたり、足を引っ張り合ったり。大体、<枢機卿>なる肩書も、スターウォーズ世代には悪のイメージがべったりだし。

レイフ・ファインズがいい
監督のエドワード・ベルガーはNETFLIX配信の『西部戦線異状なし』でアカデミー賞国際長編映画賞等を受賞。迫力満点の反戦映画だったが、今回はガラッと変わって静かな作品。
ダークな礼拝堂を舞台に赤や白の衣装を着た大勢の枢機卿たちをとらえたショットは、目を瞠るような美しさだ。
亡くなった教皇の嵌めていた指輪を悪用防止のために即座に破壊し、教皇の個室には赤いリボンをかけるかのようにテープをかけて蝋で封印。投票用紙は開票後に穴をあけ、毎回焼却炉へ。何から何まで伝統の風格が感じられる。
バチカン市国の近隣では自爆テロの騒ぎが発生した様子もあり、コンクラーベの間も世界は休むことなく動いているが、カメラはけして礼拝堂から離れることはない。

首席枢機卿のローレンスを演じるレイフ・ファインズがいい。
『キングスマン』やら『007』シリーズのボンドの上司やら、近年は派手に動き回る役が多かったが、彼はこういう落ち着いたキャラの方が断然合う。『グランド・ブダペスト・ホテル』以来のハマリ役だと思う。
新教皇の座をめぐって睨み合う枢機卿たちにスタンリー・トゥッチやジョン・リスゴー、更には出番こそ短いが存在感のあるシスター・アグネス役にイザベラ・ロッセリーニと、要所にベテラン勢を配しているのも安定感あり。

レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
ここまで、ローマ教皇という表現を使ってきたが、かつてはローマ法王と言っていたはずだ。バチカン市国からの提言を受け、2019年から教皇という呼び名に統一したそうだ。まったく認識がなかった。
現在の教皇フランシスコはアルゼンチン出身。欧州以外の出身者が就任したのは1272年ぶりだそうだ(何というスケール!)。
本作でも描かれていたが、枢機卿の出身国からも欧州比率は下がっており、他の大陸から教皇が選出される可能性は十分にある。
ただ、地域的なダイバーシティに比べると、女性活用の道はまだまだ険しく、家父長制は依然しっかりと残っている。
修道女のアグネスが「私たちは目に見えぬ存在」というように、女性が枢機卿になる道は、まだ開かれてはいないようだ。だって「パーパ」だもんな。

最終的に誰が選挙で選ばれるかは、ここでは触れないが、30年前の若気の至りで愛人が発覚したり、前教皇に解雇を言い渡された事実を隠蔽したり、いろいろな事実が発覚し候補者が自滅していき、ついに得票を集める人物が現れる。
満場一致の拍手には、枢機卿たちの安堵が窺える。この結果自体には当然納得感があるのだが、更に興味深いことに、そのあとにもうひとひねりが用意されている。
亡くなった教皇はチェスが強く、常に8手先を読んでいた。そんな彼に枢機卿たちはみな、いいように踊らされていたことに、ローレンスはようやく気付くのである。