『ランブルフィッシュ』
Rumble Fish
フランシス・フォード・コッポラ監督がモノクロで撮った、芸術志向のYA三部作の第二弾
公開:1983年 時間:94分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: フランシス・フォード・コッポラ
原作: S・E・ヒントン
『ランブルフィッシュ』
キャスト
ラスティ・ジェームズ:マット・ディロン
モーターサイクルボーイ:
ミッキー・ローク
二人の父: デニス・ホッパー
パティ: ダイアン・レイン
ドナ: ソフィア・コッポラ
カサンドラ: ダイアナ・スカーウィッド
スティーヴ: ヴィンセント・スパーノ
スモーキー: ニコラス・ケイジ
B.J.: クリス・ペン
ミジェット:
ローレンス・フィッシュバーン
ビフ: グレン・ウィスロー
ベニー: トム・ウェイツ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
アメリカの地方都市に住むラスティ・ジェームズ(マット・ディロン)は、仲間とケンカに明け暮れていた。
敵対グループのリーダーから果し合いの呼び出しを受けたラスティを、ガールフレンドのパティ(ダイアン・レイン)は心配する。
その夜、果し合いの最中に、失踪していたラスティの兄、モーターサイクルボーイ(ミッキー・ローク)が現れる。兄はラスティが憧れる札付きの不良だったが、その内面は変化していた。
彼は、喧嘩を嫌うようになり、水槽の中で殺し合うランブルフィッシュを見つめる。
今更レビュー(ネタバレあり)
大人にはこっちの作品
『アウトサイダー』に続くヤングアダルト三部作の第二弾となる本作は、前作に続きS・E・ヒントンの青春小説が原作。
マット・ディロンやダイアン・レインが引き続き出演していることから、同じテイストの青春映画かと思いきや、まるで別物というギャップに驚かされる。
それは単純に、あちらが総天然色、こちらがモノクロという目に見える差異によるものだけではない。

フランシス・フォード・コッポラ監督は、2024年に超大作『メガロポリス』が本国で公開されたが興行的には大不振で、日本での公開目途もたっていない。
更には、ゴールデンラズベリー賞で最低監督賞まで受賞する始末だが、「これは大資本の大衆路線に迎合していない、独自性のある作品を撮っているという証左でもあり、映画人としての勲章である」といった趣旨のコメントをしている。
そう、昔からコッポラ監督は、当たるときは桁外れだが、はずすときは一文無しどころか多額の借金で首が回らなくなるという、勝負師のような映画人なのだ。

『アウトサイダー』は、『ワン・フロム・ザ・ハート』で追い詰められた監督の起死回生の一打となったが、あのイケメン軍団を並べただけの甘口ラノベ映画が、本当にコッポラの撮りたい映画だったのかは、甚だ疑問だ。
その意味では、こちらは芸術性を前面に出してきている。青春映画に変わりはないが、分かりやすく、クサすぎた前作に比べれば、かなりビターな仕上がりになっている。
大人の鑑賞に堪えるのは、こっちじゃないかと、年を重ねた今、観直してみると感じる。
イケメン兄弟の再会
モノクロ画面に古臭い雰囲気のオープニング。ベニーのビリヤード場で球を突く主人公ラスティ・ジェームズ(マット・ディロン)のもとに、敵対グループのリーダー、ビフから果し合いの呼び出し。

- 店の主人ベニーはトム・ウェイツ、メッセンジャーはミジェット(ローレンス・フィッシュバーンが若くてスリム)
- ラスティの仲間は軟派なスモーキー(ニコラス・ケイジ)と硬派なB.J.(クリス・ペン)、そして優等生のスティーヴ(ヴィンセント・スパーノ)
- そしてラスティのカノジョ、パティにダイアン・レイン(セーラー服姿は稀少だが、似合わない)
それにしてもこのハイティーンの連中が、日本人の目からはおよそ未成年にはみえない。
◇
そして決闘の当日も、約束時間の前にパティの部屋で二人でベッドに入り、あやうく寝過ごしそうになるラスティ。喧嘩は強いが女に弱い、タンクトップにヘアバンドのゆるキャラの主人公はまるで『今日から俺は‼』のようだ。
不良グループ同士の対決だが、勝負はタイマン。ステゴロのつもりのラスティに、最初からナイフでとびかかる卑劣なビフ(グレン・ウィスロー)。
だが喧嘩慣れしたラスティの相手ではなく、たちまち形勢は明白に。そこに突如バイクで登場したのが、しばらく失踪していたラスティの兄、モーターサイクルボーイ(ミッキー・ローク)。
不良少年たちにとって憧れの存在だ。突然の再会に喜びのあまり油断したラスティはビフに腹を刺されるが、兄貴がバイクをビフに体当たりさせて、勝負あった。大映ドラマのヒーローのようなド派手な兄貴の登場。
◇
コッポラとの二作で世界的な人気者となったマット・ディロンと、本作以降『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』や『ナインハーフ』で<抱かれたい男>の代名詞となるミッキー・ローク。
イケメン兄弟の二人、そういえば、どっちもサントリー・リザーブのCMやってたよね。『アウトサイダー』はイケメン俳優が多すぎて、収拾がつかなかったけど、今回は二人だからよい。
ちなみに、本作の前年に映画デビューのニコラス・ケイジは、イケメン枠ではなく、コッポラの甥っ子なので親族枠。
全てが敵に見え、殺すまで止めない魚
前作ではC・トーマス・ハウエルやラルフ・マッチオらの兄貴分の立ち位置だったマット・ディロンが、今度は兄貴に憧れる軽薄そうな不良にレベル・ダウンしていることに違和感はある。
主人公ラスティは、下着姿のパティが本棚の上で悩殺ポーズで誘惑する妄想を見たり、ストリートギャングに襲われて死にかけて幽体離脱し、仲間やパティのいる場所を宙に浮いて彷徨ったり。
絵的には面白味のある演出が見られたが、物語そのものは、最初のビフとの決闘がピークで、次第に勢いを失っていく。それは、兄貴のモーターサイクルボーイの影響だ。

兄弟には、飲んだくれの父親(デニス・ホッパー)がいたが、母はとっくの昔に子供を置いて出て行った。
かつてはハメルーンの笛吹きのように、街の不良たちを付き従わせていた兄貴だが、カリフォルニアでその母親に会ってきたことで人が変わったようになり、争いごとも嫌うようになる。
モーターサイクルボーイの目は色が分からなくなっており(つまり、この映画はの彼の目を通して描かれている)、音さえも聞こえなくなっているようだ。
そんな彼が強い関心を示すのが、ペットショップにある、ランブルフィッシュの水槽だった。目に入った相手を殺すまで噛みついて離さない凶暴な魚。その魚の姿にだけ、この映画では色がついている。
コッポラのことだから、黒澤明の『天国と地獄』の有名な色付きの煙からの着想だろう。だが、熱帯魚のせいか、赤や青の原色に近い魚の色が美しくない。こういうのは、大林宣彦がよくモノクロ映画に施すような淡い色合いにした方がよいのに。
とはいえ、本作のモノクロ部分は、黒味へのこだわりもあるようで、とてもシャープで美しい。
前作に続き舞台となったオクラホマ州タルサのビル街を、日が落ちるまでコマ落しで数秒で見せたり、動物や警官のシルエットを壁に映してみたりと、面白い試みも多い。
今更レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレになりますので、未見の方はご留意願います。
次第に挙動不審になっていくモーターサイクルボーイは、ペットショップを襲い、動物たちを解放し、ランブルフィッシュの水槽も、海に空けようとする。
だが、かねてからモーターサイクルボーイを快く思っていない警官が、ここぞとばかりに彼を射殺する。
『アウトサイダー』で同じように殺されたマット・ディロンが、ここでは兄に駆け寄り、代わりに水槽の中の、原色のランブルフィッシュを海に解放する。

兄貴を殺され動揺し警官たちに暴れるラスティが、自分の顔の映った警察車両の窓を叩き割るシーンがある。ランブルフィッシュを除けば、その顔だけがカラー映像になっている。
これはつまり、ラスティも闘魚だったということだろう。だから、鏡に映った我が身を敵と間違え、攻撃してしまったのだ。
それが何を意味するか、或いは、兄貴は母親から何を聞いて、人が変わってしまったのか。謎は回収されない。モヤモヤは残る作品だが、前作よりは好き。音楽は、<ポリス>のドラマーだったスチュワート・コープランド。