『ワンダフルライフ』今更レビュー|思い出を探すまで

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『ワンダフルライフ』

是枝裕和監督のデビュー二作目は、人生で一番輝いていた思い出を選ぶ死者たちの物語

公開:1999年 時間:118分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:       是枝裕和


キャスト
望月隆:          井浦新
里中しおり:      小田エリカ
川嶋さとる:        寺島進
杉江卓郎:        内藤剛志
中村健之助:         谷啓
伊勢谷友介:      伊勢谷友介
庄田義助:         由利徹
西村キヨ:        原ひさ子
天野信子:        白川和子
吉野香奈:        吉野紗香
山本賢司:       志賀廣太郎
渡辺一朗:        内藤武敏
渡辺京子:        香川京子

勝手に評点:1.5
(私は薦めない)

あらすじ

霧に包まれた施設にたどりついた22人の死者たちは、待ち受けていた職員から、天国へ行くまでの7日間で人生で一番大切な思い出を選ぶように指示される。

すぐに思い出を選ぶ者もいれば、なかなか選べない者もいた。しかし試写会の開かれる最終日は刻々と迫ってくるのだった。

今更レビュー(ネタバレあり)

是枝裕和監督のデビュー二作目は、前作『幻の光』の暗さを引きずりながら、そこにドキュメンタリーのテイストを加え始める。

風格のある洋風建築に集まる職員たちに、上司(谷啓)が今週の対象者の担当を割り振る。やがて来訪してくる22名の大半は老人で、中には少数の若者もいる。

職員たちは、どうやらこの人々に何やらカウンセリングのようなことをするように見える。だが、真相がすぐに明かされる。

訪れたのは死んだばかりの人々で、職員は彼ら彼女らから、人生で一番大切な思い出を選んでもらうのだ。三日間のうちにそれを選び、その思い出を映画撮影のようにセットを作り映像化する。

こうして一週間のうちにその映像を観てもらい、記憶が鮮明に戻れば、死者の魂は永遠にその記憶とともにあるのだという。

職員には本作が映画デビューとなる井浦新、前作『幻の光』から連続起用の内藤剛志、そして既に北野武監督作品に重用されていた寺島進

見習い職員のようなポジションで、小田エリカがヒロインを演じている。ずっと奥菜恵と勘違いしていたが、この小田エリカの透明感がとてもいい。

死んだ人間を成仏させるような設定自体はそう珍しいものではないが、職員が応対して美しい思い出を引き出すという展開は面白かった。ただ、その見せ方があまりにつまらない。

是枝監督はドキュメンタリー出身だから、本作もモキュメンタリ―っぽく撮っている。そのアイデア自体は悪くない。

だが、絵的にみると、入れ替わり立ち代わり、カウンセリングを受けた老人が自分の過去を振り返って語っているだけの映像なのである。それも、カウンセラー目線で、正面からこの対象者と背後の壁を写しているだけなのだ。

だから、映像的には退屈極まりない。勿論、死んだ老人を演じている由利徹原ひさ子、志賀廣太郎、内藤武敏あたりはみな芝居もうまいのだが、結局語っているのはフィクションであり、それを延々と聞かされるのは堪らない。

ドキュメンタリーだったら変化や動きのない画面で長々と語られても聞く気になるのかもしれないが。

また、思い出を選ばないと決める若い死者を演じた伊勢谷友介(彼も本作で映画デビュー)や女子中学生の吉野紗香なども、まだ演技が青臭い。

是枝監督はこの映画を撮っている頃にはまだ、俳優に演技をさせることにあまり興味はなく、何か輝くものをもっている素人を使って、ドキュメンタリー風に映画を撮ることにこだわっていたのではないか。

まあ、そうはいっても、この映画でモデルの世界から井浦新伊勢谷友介を俳優の道に歩ませることになるわけだから、先見性があるのだとは思うが。

映画は後半に、死者たちがそれぞれ選んだ思い出に基づいて、職員たちが映像を撮り始めるようになって、やっと面白味を帯びてくる。

自分でセスナを飛ばした時に見た雲海、都電の運転席で風を顔に受けながら眺めた風景、少女の頃親しかった兄にせがまれて踊った赤い靴、竹藪で母親と食べたおむすび、等々。

でも、最後にその映像を見たことで成仏していく死者たちのシーンがないのは、映画として盛り上がりに欠けたように思う。

本作はハリウッドにリメイク権が売れ、アン・リー監督で撮る企画があったものの、結局実現しないままに終わってしまったようだ。そうだろうな。これをリメイクしてもヒットは難しかったのではないか。

結局、この映画を観て一番考えさせられたのは、自分だったらどの瞬間を切り取って思い出に選ぶだろうかということだった。その時点で、映画に没入できていないということになるわけだが。

いくつか候補は浮かぶけど、その思い出と永遠に暮らすというのもちょっと薄ら寒くなる。いっそ、伊勢谷クン(役名です)のように、選ばない選択肢もあるかもしれない。

職員たちも、実はすでに死んでおり、しかも思い出を選べなかった者が職員となっているというのが、終盤に明かされる。

なかなか思い出を選べなかった老人(内藤武敏)に、70年分の人生を70本のビデオにした参考資料が提供される。若い頃の本人を阿部サダヲ、妻を香川京子が演じているのだが、一歩間違えば貞子が出てきそうな、画質を落としたこのビデオ映像が面白い。

ネタバレになるが、この老人が妻との思い出をようやく選んだ際に、担当職員の望月(井浦新)こそ、妻が長年想い続けた戦死した婚約者であることに気づく。それを明かさなかったことを望月に感謝し、老人は昇天していく。

望月は、妻が最後の思い出に自分を選んだことを知り、彼もようやく職を辞し昇天する決意を固める。群像ドラマのようで、結局この老人とのエピソードだけが、ドラマとして深掘りされているようだ。

そして、成仏できた職員(井浦新)に代わり、思い出を選べずに期限を迎えた対象者(伊勢谷友介)がその補充要員となる。

井浦新、伊勢谷友介、寺島進の三人を再度起用し、是枝裕和監督は次作『DISTANCE ディスタンス』を撮る。引き続きドキュメンタリー風な演出にこだわるが、本作とは異なり、だいぶ動きのある作品になっているのは有難い。