『室町無頼』考察とネタバレ|笑い封印の大泉洋もいいじゃないか

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『室町無頼』

入江悠監督初の時代劇。大泉洋と堤真一の二人の無頼が洛中を舞台に暴れ回る

公開:2025年  時間:135分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:       入江悠
原作:      垣根涼介

         『室町無頼』
キャスト
蓮田兵衛:     大泉洋
骨皮道賢:     堤真一
才蔵:      長尾謙杜
芳王子:     松本若菜
赤間誠四郎:   遠藤雄弥
七尾ノ源三:   前野朋哉
馬切衛門太郎:  阿見201
唐埼の老人:    柄本明
小吉:        般若
超煕:      武田梨奈
伝助:      水澤紳吾
鎖鎌の斬ノ助:  岩永丞威
伏士のお千:   吉本実憂
孫八:      ドンペイ
小萩:     川床明日香
伏士頭の彦次郎: 稲荷卓央
蔵人:      芹澤興人
足利義政:     中村蒼
名和好臣:    北村一輝
伊勢貞親:    矢島健一
法妙坊暁信:   三宅弘城

勝手に評点:★★★☆☆4
 (オススメ!)

(C)2025「室町無頼」製作委員会

あらすじ

1461年、応仁の乱前夜の京。大飢饉と疫病によって路上には無数の死体が積み重なり、人身売買や奴隷労働も横行していた。しかし時の権力者は無能で、享楽の日々を過ごすばかり。

そんな中、己の腕と才覚だけで混沌の世を生きる自由人・蓮田兵衛(大泉洋)はひそかに倒幕と世直しを画策し、立ち上がる時を狙っていた。

一方、並外れた武術の才能を秘めながらも天涯孤独で夢も希望もない日々を過ごしていた青年・才蔵(長尾謙杜)は、兵衛に見出されて鍛えられ、彼の手下となる。

やがて兵衛のもとに集った無頼たちは、巨大な権力に向けて暴動を仕掛ける。そんな彼らの前に、兵衛のかつての悪友・骨皮道賢(堤真一)率いる幕府軍が立ちはだかる。

レビュー(まずはネタバレなし)

大泉洋主演の時代劇というと、近年なら「新解釈・三國志」(福田雄一監督)、ちょっと前なら「清須会議」(三谷幸喜監督)或いは大河ドラマの『真田丸』あたりが思い出される。

コミカルな役どころが持ち味であり、正統派の活劇はどうなのだろう。と不安は抱くものの、入江悠監督の新作なので劇場に足を運ぶ。

いや、驚いた。今回は笑いやアドリブを封印したか。そこには終始、時代劇の主役にふさわしい、胸のすくような豪傑の大泉洋がいた。

(C)2025「室町無頼」製作委員会

原作は垣根涼介の歴史小説。室町時代に起きた寛正の土一揆の首魁、徳政一揆の指導者として名が残る蓮田兵衛を主人公としており、完全フィクションの娯楽小説というのではなさそうだ。

室町時代という時代設定がそうさせるのか、堅苦しさはない。京都の洛外では、重税と飢饉に苦しめられる農民たちが苦しい生活に耐えきれず、武力蜂起しようと画策している。

幕府はそんな村民たちを虫けら同然に扱い、地位に胡坐をかいている。主人公の蓮田兵衛(大泉洋)はそんな世の中で幕府に盾突き、自由に生きる剣術使いであったが、牢人と洛外の村落をまとめあげようとしている。

 

一方、兵衛のかつての同志であった骨皮道賢(堤真一)は、極道者を集めて足軽集団を組織し陰で力をつけ、幕府に見込まれて洛中の警護を任されている。

京都で名を馳せるこの二人の剣の達人は、悪友でありながら立場の違いから対立関係にあり、やがて京都の町中を舞台にした大規模な一揆で対決することになる。

(C)2025「室町無頼」製作委員会

この二人に匹敵する存在感を示すのが、没落武士の子供、才蔵なにわ男子長尾謙杜)。

金貸しの法妙坊暁信(三宅弘城)に用心棒として雇われていたが、道賢一味がその屋敷を襲撃した際に孤軍奮闘したことで、敵ながら面白いヤツと道賢に拾われる。

その後、ひょんなことから蓮田兵衛に引き取られることになり、棒術の使い手として成長していくのだ。

(C)2025「室町無頼」製作委員会

当然、兵衛自身が鍛えるのだと思うところが、彼はすぐに才蔵を仙人のような唐埼の老人(柄本明)に預けてしまう。そこからの鍛錬ぶりが面白い。

琵琶湖に浮いた板の上で柱の釘を打ちこませたり、木の枝にぶら下げた大量の刃物をかわす命がけの訓練をさせたり。懐かしい『ベスト・キッド』カラテの特訓のような試練を経て、才蔵はみるみる成長し、棒術の達人になる。

老人の配下には弓の名手(武田梨奈)に刀鍛冶(般若)『ワカコ酒』ばかりじゃなく、久々アクションで武田梨奈が活き活きして見える。入江作品は『ビジランテ』『ギャングース』以来の般若も相変わらず渋い。

入江悠監督としては初の時代劇となるが、クライマックスで一揆をおこし洛中を兵衛たちが攻め込んでいくあたりの盛り上がりやライブ感に、傑作『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』にも通じるところがある気も。

同作主演の水澤紳吾も今回、芹沢興人とともに馬借役で登場。顔が汚れすぎて分かりにくかったけど。

殺陣のシーンは見事だった。JAC出身の堤真一のアクションが絵になることは初めから分かっているが、大泉洋も負けていない。稀代の剣術使いという設定にも肯ける。

それに、原作に従い、才蔵を六尺棒の使い手にしたことは、映画的にも新鮮味が生まれ、香港映画のような楽しさが加わった。

阿見201が演じた金棒使いの巨漢もそうだが、集団で斬りこむようなシーンでは、人と異なる戦い方や動き方をするキャラクターは貴重な存在。

(C)2025「室町無頼」製作委員会

東映の作品ということは、『侍タイムスリッパ―』と同様に、これらの殺陣は東映京都撮影所のベテラン勢が担っているのだろうか。そう考えると、つい斬られ役の俳優にも温かい目を向けてしまう

私は通常版で観たが、東映作品としては初のIMAX上映だそうで、それ自体は迫力がありそうだけど、公開時期を1週間先行させる商法はえげつないな

(C)2025「室町無頼」製作委員会

最近の娯楽時代劇としては『十一人の賊軍』(白石和彌監督)が楽しめたが、本作はそれに比肩するか、それ以上の面白さだった。

ストーリーの性質上、あちらはどうしても話が暗鬱としてしまい、賊軍だからみな乞食のように薄汚い風体の武士ばかりだったが、こちらは大泉洋明朗なキャラにも助けられ、カラッと明るい雰囲気があったことも大きいか。

最近売れに売れてる松本若菜の遊女役も似合っていた。『はたらく細胞』のように、彼女に槍でも持たせれば、更に活躍の場が見られた気もするが、遊女ではそうもいかないか。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

基本的な構図としては、蓮田兵衛(大泉洋)率いる牢人・村民たちの集団と、骨皮道賢(堤真一)率いる洛中警護団との攻防戦。牢人の中にいる前野朋哉が、いつもと違い豪傑なのが新鮮。

また、幕府の頂点には将軍・足利義政中村蒼のとぼけた感じがバカ殿っぽい)がいるが、事実上、最大の敵はその配下の名和好臣(北村一輝)

村民を虫けら同然に扱い、村の焼き討ちまで命じたこの奸臣に、兵衛が最後に牙をむく。ある因縁のある小道具を凶器に敵将を仕留めるその動きは、まるで『必殺仕事人』だ。

(C)2025「室町無頼」製作委員会

かつては同じ夢を見ていた兵衛と道賢が、その後の生き方の違いから、斬り合いをしなければならない運命となる。

どちらが勝つかはともかく、ともに相手を<無頼>として一目置いているところが、この作品の後味の良さに繋がっているように思う。

京都には当時七重の塔があり、この一揆においても重要な役割を担う建造物であったが、その後消失し、以降今日まで再建されることはない。当時の京都の町並がCGによって自然な感じで再現されている。

江戸時代よりも史実が不明な室町時代だから自由度がアップしたわけでもなかろうが、『マッドマックス』のような殺伐とした世界観から、マカロニウェスタンのような映画音楽まで、入江悠監督のやりたかったこと全部入りの爽快感

新年にふさわしい、勢いのある逸品でした。