『ブラックハット』今更レビュー|天才ハッカーがマッチョなのはどうなのよ

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『ブラックハット』
Blackhat

マイケル・マン監督がクリス・ヘムズワース主演で撮る天才プログラマーのアクション活劇

公開:2015年  時間:133分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:          マイケル・マン
脚本:   モーガン・デイビス・フォール


キャスト
ニコラス・ハサウェイ:

          クリス・ヘムズワース
チェン・ダーワイ大尉:  ワン・リーホン
チェン・リエン:      タン・ウェイ
バレット捜査官:  ヴィオラ・デイヴィス
ジェセップ捜査官:ホルト・マッキャラニー
アレックス・トラン刑事: アンディ・オン
ドナヒュー局員:ウィリアム・メイポーザー
エリアス・カサール: リッチー・コスター
サダック:

   ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(C)Universal Pictures

あらすじ

ネットワークに不法侵入した何者かの仕業によって香港の原子炉が爆破され、アメリカの金融市場も大打撃を被る。

米中合同の捜査チームは、事件解決の糸口を得るため、ハッキングの罪で服役中だった天才プログラマー、ハサウェイ(クリス・ヘムズワース)に捜査への協力を依頼。

ハサウェイは、大学時代のルームメイトで捜査チームの中国側のリーダー、ダーワイ大尉(ワン・リーホン)や、彼の妹で優秀なネットワーク・エンジニアのリエン(タン・ウェイ)らと力を合わせ、犯人の後を必死で追う。

今更レビュー(ネタバレあり)

ネットワークに不法侵入する謎のハッカーを相手に繰り広げられる攻防戦を描いたサスペンスアクション。監督はマイケル・マン、主演はクリス・ヘムズワース

映画は冒頭、原発のシステムに不正アクセスしたコードがプログラムを書き替えていく様子がしばらく映し出される。何か怪しげな攻撃がなされていることだけが、そのCG表現で伝わってくる。

原発のコントロール室には中国語のキーボードと制御画面。不穏な雰囲気が漂う。

これは香港の原発に仕掛けられた攻撃と判明。そして同一犯と思われるハッカーが、大豆相場の急騰を仕掛けて、巨利を得る。事態の深刻さをふまえ、米国と中国が合同捜査。今なら考えられないか。

この分野の第一人者で中国側の捜査のリーダーに任命されたチェン・ダーワイ大尉(ワン・リーホン)

(C)Universal Pictures

彼が米国FBIに要求した協力者が、カード詐欺で刑務所に服役中の天才プログラマーでダーワイとMITの学生時代に級友だったニコラス・ハサウェイ(クリス・ヘムズワース)

こうして、ハサウェイは探知機の足環をはめられて仮出所が認められる。

「事件解決のために仮出所するだけじゃ割に合わねえ。お断りだ。成功したら釈放する条件なら受けてもいい」

あくまで強気な天才プログラマーを捜査に借りだすまでの流れは分かり易くテンポもよい。

頭脳派のコンピューター技術者は、青白く繊細そうな草食系男子というのがその頃までのステレオタイプなイメージだったのを、マイケル・マン監督はクリス・ヘムズワースの起用で覆したかったらしい。

『インサイダー』の神経質そうな内部告発者に、ラッセル・クロウをあてたのと同じような理屈なのかもしれない。

たしかに、この作品のクリス・ヘムズワース『マイティ・ソー』『タイラー・レイク』のような筋骨隆々のマッチョ野郎とは一味違い、体躯もワンサイズ小さく見える。

 

だが、彼が華麗なブラインドタッチで易々と堅牢なシステムに侵入する天才プログラマーに見えるかというと、それはまた別のお話だ。

実際、クリス・ヘムズワースは映画の後半、拳銃やナイフを手に敵と戦い始めるあたりから俄然イキイキとしてくる。それは娯楽作品としては面白くもあるが、同時に『ブラックハット』という映画の扱いたかったテーマからは離れてしまうように思える。

(C)Universal Pictures

大きな事件の解決のために、服役中の大犯罪者が特別な措置で出所扱いとなり、探知機を身体に装着させられて戦場に放り出される。

この映画の序盤で私がワクワクしてしまったのは、このあたりの要素が、ジョン・カーペンター監督の傑作アクション『ニューヨーク1997』にそっくりだから。

だが、あの映画はカート・ラッセル演じる破天荒なタフガイがいてこその快作だった。

本作に同じような興奮を期待すればするほど、クリス・ヘムズワースは天才プログラマーではなく、タイラー・レイクのような傭兵に近づかなければ話が成り立たなくなる。

だから、やはり天才プログラマーは、世間に認知されやすい草食系のインテリキャラにして、中国人民解放軍のダーワイ大尉をタフガイに仕立てた方が、座りが良かったのではないかと思わずにはいられない。

(C)Universal Pictures

ダーワイ大尉の妹で優秀なネットワーク・エンジニアのチェン・リエン(タン・ウェイ)も仲間に加わり、ハサウェイとダーワイとの三人が敵のブラックハットの居所を探る。

そこにFBIのバレット捜査官(ヴィオラ・デイヴィス)ジェセップ捜査官(ホルト・マッキャラニー)らが絡んでくる。FBIの二人は犯罪者のハサウェイを自由にさせることにはじめは難色を示すが、次第に協力的になっていく。

(C)Universal Pictures

そこはいいのだが、ダーワイの妹がすぐにハサウェイを気に入ってしまい、深い仲になってしまうのがあまりに短絡的。

そりゃ何年も刑務所暮らしだった主人公に、『別れる決心』のファム・ファタール役をはじめ、妖しい魅力たっぷりのタン・ウェイが近づけば、こういう男女関係になるのは理解できるが、007じゃあるまいし、この物語に色恋要素必要だったか。

(C)Universal Pictures

以下、ネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

ブラックハットとのハッカー対決を見せるのならば、ありきたりな銃撃戦はかえって邪魔だったように思う。

怪しいコードが原発や市場のシステムに入り込むのを見せる映像表現は面白かったが、それ以外のハッキングの手口等にあまり目新しさはなく、映画的には盛り上がらない。

米国の誇るデータ復元のプログラム<ブラックウィドウ>も、その名前が出るとクリス・ヘムズワースマイティ・ソーに見えてしまいそうだが、それがどんなに優れた技術だったとしても、映像的にはただのデータ復元なので興奮はない。

原発の制御室からデータを奪還するシーンも、防護服を着用し過酷な状況で限られた時間内でミッションクリアする場面にもっと盛り上げようはあったはずだが、随分淡泊に終わる。

アクション映画としてみた場合、レバノン人の傭兵エリアス・カサール(リッチー・コスター)だけはキャラが立っていた。彼の一味とのバトルは迫力十分で、敵ながらあっぱれ感がある。

結局このカサ―ルの一派の攻撃により、ハサウェイとリエンを残して、仲間たちはみな殺されてしまう。余計なお世話だが、仲間が乗るクルマが爆発するシーンは、不自然なカット割りで読めてしまった。

ついに二人だけになったハサウェイとリエンが、敵の攻撃目標のマレーシアの平原に降り立つ。ここはロケーションの雰囲気がよく、その地下に隠された錫の製造工場も出来がよい。007でスペクターが保有するアジトの人工的なセットよりも格段にそれっぽい。

だが、結局ラスボスのサダック(ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン)は、この工場を爆破することで錫価格の暴騰で一儲けしようと企んでいるだけなのだ。

これまでの悪事の手際の良さに比べれば、なんかショボい話に思えてくる。直接相場操作できる腕があるのに、なぜこんな手の込んだことをするのか。

(C)Universal Pictures

しかも、さんざん苦しめられたレバノン人傭兵カサ―ルはハサウェイの反撃であっさりと刺殺。ブラックハットのサダックにはラスボス感が皆無で、これでは映画が締まらない。

マイケル・マン監督の冴えがあまり感じられない作品だった。

教訓:天才ハッカーをマッチョにしてしまうと映画は凡庸になる。