『映画 おいハンサム!!』
深夜ドラマからじわじわと人気沸騰、ゴールデンを飛ばして劇場版に進出
公開:2024年 時間:119分
製作国:日本
スタッフ
監督・脚本: 山口雅俊
原作: 伊藤理佐
『おいピータン!!』『おいおいピータン!!』
キャスト
<伊藤家>
伊藤源太郎: 吉田鋼太郎
伊藤千鶴: MEGUMI
伊藤由香: 木南晴夏
伊藤里香: 佐久間由衣
伊藤美香: 武田玲奈
<その他>
大森利夫: 浜野謙太
渡辺: 太田莉菜
ユウジ: 須藤蓮
シイナ: 野波麻帆
原さん: 藤原竜也
たかお: 宮世琉弥
幹九郎(たかお父): 六角精児
京子(たかお母): 松下由樹
イサオ: 野村周平
スグル: 内藤秀一郎
ミチル: 藤田朋子
謎の男: 中尾明慶
橋本: ふせえり
占い師: 光宗薫
美緒: 浅川梨奈
ナンシー: アナンダ・ジェイコブズ
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
家族の幸せを心から願う伊藤家の父・源太郎(吉田鋼太郎)と、幸せを求め人生に迷う三姉妹、そして全てを包み込むマイペースな母・千鶴(MEGUMI)。
長女・由香(木南晴夏)は仕事は絶好調だが恋愛は絶不調。次女・里香(佐久間由衣)は浮気されて離婚したのに“好きになってはいけない”原さん(藤原竜也)にひかれてしまう。三女・美香(武田玲奈)は婚約者と上手くいっていない。
ある日、千鶴からショッキングな告白をされた源太郎は、テレビに出演して不規則発言を連発。
一方、由香は寂しさのあまり元恋人の大森(浜野謙太)を思い出し、里香は危険な恋から逃れるため訪れた京都で幼なじみのたかお(宮世琉弥)と再会、美香は声を掛けてきたイサオ(野村周平)やスグル(内藤秀一郎)からの猛烈なアプローチを断りきれずに悩んでしまう。
レビュー(ほぼネタバレなし)
予備知識なしは辛かった
ノーマークでひっそり始まった深夜枠のドラマがコアなファンに支えられ、ゴールデンタイム進出の方向に行かずに映画化に向かってしまったらしい。
伊藤理佐の原作コミックもこの深夜ドラマも存在すらしらなかったが、劇場予告からは脱力系のコメディと思われ、ならば予備知識ゼロでも行けるだろうといきなり映画鑑賞。
結果からいえば、乗り切れなかった。
いや、オフビートな笑いというか、何となくニヤリとしてしまう小ネタの数々と、たまに味わい深いことをいう三姉妹の父・源太郎(吉田鋼太郎)の慈愛は分かる。こういうジャンルは嫌いじゃない。
この作品にも登場しているふせえりが得意とするような、三木聡監督っぽいナンセンスな喜劇に、まともな家族ドラマが一応存在するところに懐の深さを感じはする。
ただ、伊藤家の家族構成と、三姉妹はまだみんな独身(バツイチ含む)というのまでは容易に分かったが、娘たちの男性との交際遍歴やら、今気になっている男たちの相関関係がよく呑み込めない。
ここをきちんと笑うためには、予備知識ゼロでは厳しかったのだ。
結果的に、ナンセンスな笑いにしか関心が向きにくくなってしまった。これで、映画がイマイチと結論付けてしまうのは申し訳なく、ドラマを全話観てから、もう一度映画に挑戦してみたくなる作品だったと言っておきたい。
◇
監督は『闇金ウシジマくん』の山口雅俊。今回特別出演の藤原竜也が主演の『カイジ』シリーズも手掛けている。テレビ畑のひとだが、彼の作品で好きなのは竹内結子と組んだ『ランチの女王』と『不機嫌なジーン』かな。
伊藤家の食卓
「母さんは良かったわね、最愛のひとと結婚できて」
娘たちの何気ない一言に、母(MEGUMI)がさらっと答える。
「あら、お父さん二番目よ」
夫婦の年齢にして、今更さほど驚くべき発言ではないような気もするが、父・源太郎(吉田鋼太郎)は激しく動揺する。映画を牽引するにはこのネタでは弱い気もするが、それでも物語は転がっていく。
◇
三姉妹では、圧倒的に長女の由香役の木南晴夏が面白い。何をするわけでもないが、あのとぼけ具合がいい。『勇者ヨシヒコ』シリーズで福田雄一に鍛えられたのか、彼女でなければ出せない面白味が確実にある。
<パジャマは下のズボンだけで売ってくれ委員会>から独走状態。
次女の里香役の佐久間由衣は、浮気されて前夫と離婚したのに原さん(藤原竜也)にひかれたり、京都で幼馴染のたかお(宮世琉弥)と再会したりと、映画では恋愛パートを主に担う感じで、その分ボケ度は控えめ。
三女の伊藤美香(武田玲奈)ははじめにスグル(内藤秀一郎)に付きまとわれ、次にヤバい若者集団のリーダー・イサオ(野村周平)に惚れられて熱烈公開プロポーズを受ける。野村周平のオラオラ感がすごい。
長女・由香のカニしゃぶ、次女・里香の餃子、三女・美香のオムライスと、家庭料理とドラマを組み合わせるのも、このシリーズの特徴なのだろうか。
「ウチのオムライスは、チキンライスが主役なのだ!」と伊藤家の食卓について熱く語る源太郎を、我が家には子供たちにしっかり継承された家庭の味がどれだけあるだろうかと思って眺めていた。
〇〇してくれて、ありがとう
同じ三姉妹のコメディでも、江口のり子、内田滋、古川琴音の三人が母と訪れた温泉旅館で一晩中口論ばかりしている『お母さんが一緒』(2024)のうるさいバタバタ感に比べると、こちらの方が家族同士の仲もよいし、笑いに温かみが感じられてよい。
気になった点もいくつかある。
- パーティで出会った外国人女性に東京の隠れた名所や名店を源太郎が案内してあげると、後日その女性が米国政府の要人の夫人と分かったり
- 或いは、母が一番好きな人というのが、子供の頃に食堂で留守番していたときにやってきた若者客で、自分の作った下手な焼きそばを黙って食べてくれたからという理由だったり
もう少し掘り下げようがありそうなネタが、そのまま放置されてしまっているのは少々勿体ない気がした。娘の吐き気だけで、「悪阻か」と慌てるのも、あまりに短絡的だ。
<〇〇してくれて、ありがとうございます>と、やってほしいことを事前に言ってしまうスタイルが、伊藤家で流行するのだが、源太郎だけが、うまく活用できずにいる。
そのやりとりについ笑ってしまうのだが、クライマックスでは、この、うまく使えない用法を逆手にとって、泣かせることを言う。
◇
このシリーズにおける「ハンサム!」の用法が結局よく分からなかったのが心残りで、さっそくドラマも観始めた。
父がカッコいいことや大袈裟なことを声高に言い始めるのを、まだ幼かった頃の由香が聞きかじりの言葉を使って「ハンサムで」と茶化したのが、姉妹たちに根付いてしまったのだ。
こういう、子供の間違った用法がその一家にだけ愛され続けることって、我が家にもある。だからほんわか温かいのか。