『東京上空いらっしゃいませ』今更レビュー|元気ハツラツ牧瀬里穂!考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『東京上空いらっしゃいませ』今更レビュー|元気ハツラツ牧瀬里穂!

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『東京上空いらっしゃいませ』

相米慎二監督が女優デビューとなる牧瀬里穂と中井貴一で贈る切なくも明るいファンタジー

公開:1990年  時間:109分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:         相米慎二
脚本:          榎祐平


キャスト
雨宮文夫:       中井貴一
神谷ユウ:       牧瀬里穂
コオロギ/白雪恭一: 笑福亭鶴瓶
田中郁子:       毬谷友子
和田毅:        竹田高利
橋本勝:        藤村俊二
早瀬俊夫:        出門英
川村:           谷啓
雨宮武夫:       三浦友和
中野豊:        工藤正貴

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

(C)1990「東京上空いらっしゃいませ」製作委員会

あらすじ

化粧品のCMのキャンペーンガールに起用され、注目を浴びる存在に躍り出たモデルの少女ユウ(牧瀬里穂)

ところが、スポンサー会社の好色専務・白雪(笑福亭鶴瓶)に無理やり迫られ、逃げようとした彼女は、車にはねられてあえなく急死。

天国に昇った彼女は、なぜか外見が白雪とそっくりの死神、コオロギと出会う。

コオロギをだまして元の自分の姿で地上世界に舞い戻ったユウは、広告代理店の自分の担当マネージャーだった雨宮(中井貴一)の部屋に転がり込む。

今更レビュー(ネタバレあり)

『翔んだカップル』薬師丸ひろ子から『雪の断章 情熱』斉藤由貴まで、相米慎二監督の撮るアイドル映画は基本的に併映作品との二本立て上映だったが、牧瀬里穂の初主演となる本作は松竹で単品上映。

DVDの購入はできても、レンタルや配信先はなかなか見つからず、再観賞しにくい状況が続いていたが、私の大好きな『お引越し』が4Kリマスター化公開されるのに合わせて、本作も限定上映された。35ミリフィルム上映を観るのは久々だ。

牧瀬里穂が演じるのは、CMのキャンギャルに起用され、注目を浴びる存在になった女子高生ユウ

彼女がクライアントの企業の専務・白雪(笑福亭鶴瓶)の誘いに嫌々付き合わされるも、あまりに気色悪いセクハラ攻勢に耐えきれず、同乗していたクルマから飛び降りたところをクルマに轢かれて死んでしまう

すぐに昇天するも、地上に舞い戻ってきて、広告代理店でマネージャーだった雨宮(中井貴一)のもとで、再度一生懸命に生きようとするファンタジー。

(C)1990「東京上空いらっしゃいませ」製作委員会

天上世界にはコオロギと名乗る人柄の良い死神鶴瓶の二役)がおり、ユウが死ぬ直前に網膜に焼き付けた、白雪の姿カタチをしている。

本来は死んだ人物と同じ顔で下界には戻せないのだが、「あの広告のモデルと同じにして!」と、自分の写った巨大な街頭広告を示したユウにまんまと騙され、コオロギは彼女を元の姿のまま地上に帰してしまう。

自分の部屋に突如降臨したユウに雨宮は驚くが、その彼女が死んでいると後から知らされると、更に驚く。

ぶっちゃけストーリーは二の次といってもよく、観終わって瞼の裏に残っているのは、ただただ牧瀬里穂溌剌とした笑顔であり、耳に残るのも、彼女のハイトーンの声である。

かつて本作を観た時には、どんなシーンでも明るい笑顔で、ハキハキとした元気いっぱいの台詞回し牧瀬里穂には、デビュー作とはいえもう少し抑揚をつけられなかったかと感じたものだ。

今回改めて観ても確かにその点は気になったが、一方で、そこが牧瀬里穂の魅力であり、個性なのだと認識を改めた。稲垣吾郎との共演ドラマ『二十歳の約束』の迷台詞「ヒューヒューだよ!」だって、彼女が言うから流行ったわけで。

本作も、どんなシーンでも元気に笑顔をふりまく彼女のおかげで、本来なら好色オヤジに手籠めにされそうになって死んでしまうという悲劇のヒロインの物語が、暗鬱としたものにならずに済んでいるのだ。

(C)1990「東京上空いらっしゃいませ」製作委員会

薬師丸ひろ子、河合美智子、斉藤由貴といった女優陣のキャリア初期に、トラウマになりそうな厳しい演技指導をしてきた相米監督が、この時期にもまだ牧瀬里穂相手に同レベルの指導をしていたのか定かではない。

彼女を神格化させたJR東海の名作CM『クリスマス・エクスプレス』は89年オンエアだが、撮影は本作の方が早いらしい。相米監督に鍛えられた成果が、あの傑作CMにも出ているのかもしれない。

相手役の雨宮文夫を演じているのは中井貴一笑福亭鶴瓶ともども相米監督作品には今回が初出演で、次作『お引越し』にも出演。若い頃の鶴瓶駿河太郎の面影をみる(逆か)。

雨宮ははじめ広告代理店の社畜のような人物にみえたが、ユウの置かれた状況を知り、徐々に彼女の理解者となり、頼もしくなっていく

(C)1990「東京上空いらっしゃいませ」製作委員会

夜毎、趣味のトロンボーンを持ち出して、どこかのクラブのステージでジャズを演奏しているという設定。いや、さすが1990年公開。バブルの匂い。

『愛と平成の色男』(1989、森田芳光監督)の石田純一はクラブでサックスを吹く歯科医だったが、こちらはトロンボーンを吹く広告屋か。

住んでる部屋もバブリーで、マンションのペントハウスにルーフバルコニー。そこから縄梯子でつながる下階の部屋には、雨宮といい仲の女性・郁子(毬谷友子)。まるでトレンディードラマだな。

でも、夜に大都会のバルコニーで派手に演奏しちゃいかん。クレームくるよ。

トロンボーンはソロ演奏の派手さには欠けるが、動きが大きいところは映画向きかも。演奏の動きに谷啓を思い出してたら、本人がカメオ出演。これは楽器の縁か。

(C)1990「東京上空いらっしゃいませ」製作委員会

さて、地上に戻ったところで自分は死んでおり、「それを知る人物とも会ってはいけない」とコオロギに言われたユウは、新しい自分として一から生きてゆこうと頑張る。雨宮はそんなユウがいじらしくなってきた。

高校にも通えずに、仕方なくバイトする先が懐かしのデイリークイーン。ソフトクリーム専業かと思ったら、バーガーもやってたか。

新人バイトのユウがワンオペでオーダー取って、ムチャクチャなバーガーを即興で焼くのが、コントのようで面白い。こんなシーンで相米の長回しが見られるとは。注文客も、牧瀬里穂の笑顔を前には本気で怒れず。

(C)1990「東京上空いらっしゃいませ」製作委員会

キャンペーンガールが事故死では縁起が悪いと、当初は情報を伏せるように指示していた白雪専務だが、むしろ悲劇的に伝えた方が売上に繋がると思い直し、公表を再指示。

だが、それではユウがこの世界で生きられなくなると、雨宮は白雪に、事故現場の写真と引き換えにユウのキャンペーンを続行させる取引をもちかける。

広告代理店の雨宮の上司に藤村俊二、先輩に竹田高利(コント山口君と竹田君)。ユウの交通事故写真を撮った人物は、本作が遺作となる出門英。ユウの高校の同級生には、『台風クラブ』工藤夕貴の実弟である工藤正貴

 

ユウがそぞろ歩く川越の実家近辺の風景や、雨宮と屋形船の屋根から見上げる夜空、東京上空のシーンは少なくても、絵になるカットは随所にみられる。

白いサマードレス姿牧瀬里穂はあまりに眩しく、その彼女が全身かぶり物で白雪たちの前についに姿を見せるクライマックスとのギャップにも驚かされる。

主題歌は井上陽水『帰れない二人』。これを陽水、加藤登紀子、憂歌団木村充揮と、それぞれの歌で聴かせるのがいい。ちなみに陽水の曲は次作『お引越し』でも積極使用。

終盤、ミュージカルのように中井貴一のトロンボーン演奏で牧瀬里穂が歌うのだが、この場面はすぐに歌が吹替と分かってしまう。口元は歌詞とピタッと合っているのだが、歌唱力が明らかにプロレベル。

でも、ここは歌のうまさより、彼女自身の歌で聴きたかったなあ

(C)1990「東京上空いらっしゃいませ」製作委員会

相米慎二監督は、『あ、春』斉藤由貴、遺作となった『風花』では小泉今日子の映画を撮っているが、すでに彼女たちはベテラン女優であり、駆け出しのアイドル主演で撮る映画というのは、本作が最後となった。

そう思うと、たとえプロット的にも演技指導的にも、首をかしげる部分が多かったとしても、牧瀬里穂の笑顔とともに燦然と輝き続ける作品なのだと思う。