『カンバセーション…盗聴…』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『カンバセーション 盗聴』今更レビュー|70年代はデンスケ持って生録ブームでした

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『カンバセーション…盗聴…』
 The Conversation

フランシス・フォード・コッポラ監督による心理サスペンス。盗聴屋にジーン・ハックマン

公開:1974年  時間:113分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督・脚本:
     フランシス・フォード・コッポラ
キャスト
ハリー・コール:   ジーン・ハックマン
スタン:        ジョン・カザール
バーニー・モラン:アレン・ガーフィールド
メレディス:    エリザベス・マクレー
マーク:    フレデリック・フォレスト
アン:      シンディ・ウィリアムズ
エイミィ:         テリー・ガー
マーティン・ステット:ハリソン・フォード
専務:       ロバート・デュヴァル

勝手に評点:3.5
  (一見の価値はあり)

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

あらすじ

サンフランシスコ。盗聴のプロであるハリー(ジーン・ハックマン)は依頼を受け、人混みの中で密会する男女の会話を録音していた。

後日、録音したテープを依頼主のもとへ届けに行ったハリーは、依頼主の秘書の態度に違和感を覚えてテープを持ち帰り、その内容を確認するが……。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

フランシス・フォード・コッポラ監督といえば、マフィア映画の金字塔『ゴッドファーザー』三部作や『地獄の黙示録』、或いは『アウトサイダー』に始まるヤングアダルト三部作と、壮大なスケールの作品イメージが強い。

『カンバセーション…盗聴…』はそんなコッポラ監督にとっては小品ともいえる地味な作品だが、サスペンス映画の佳作として、彼の代表作のひとつに挙げられることが多い。タイトルずばりの、盗聴屋の物語。

映画は冒頭、ジーン・ハックマン扮する盗聴の専門家ハリー・コールが、大企業からの依頼を受けて、サンフランシスコのユニオンスクエアで男女のカップル(フレデリック・フォレストシンディ・ウィリアムズ)の会話を盗聴する。

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

盗聴はチームプレイ。まるでスナイパーのようにビルの上階から超望遠マイクで集音する男もいれば、通行人を装い、標的に近づく男もいる。

チームワークで、盗聴されないように警戒して歩き回る二人の会話を残らず録音しようとするハリーたち。

この盗聴シーンは長いが、緊張感に溢れる。どこかの諜報部員、あるいはジャーナリストなのかと思うが、ただ依頼を受けて盗聴し、テープを渡してカネをもらうことを生業としているのが面白い。

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

盗聴業界でも名の知られた存在のハリーは、依頼人には公衆電話からしか接触しないし、自室には誰も踏み入らせず、恋人のエイミィ(テリー・ガー)にも素性は一切明かさない、プロ中のプロ

心の安らぎは、部屋でジャズのレコードに合わせて演奏するテナーサックス

盗聴した会話の中身に関心を持つ助手の技師スタン(ジョン・カザール)をプロ失格だと罵倒するハリーだが、ある事をきっかけに、その内容に深入りしてしまう。

まだ、ハン・ソロ役でブレイクする前のハリソン・フォードが、依頼人である専務(ロバート・デュヴァル)の秘書マーティン・ステットを演じている。

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

本来、専務に手渡しすべき盗撮テープを、「専務は国外出張中だ」と言って、この秘書が金を払って受け取ろうとする。

ハリーがそれを拒絶すると「深入りするな、これは危険なテープだ」と忠告され、更に標的の男女がともに依頼人と同じ会社勤めと気づくところから、ハリーはこの一件に危険な匂いを嗅ぎ取る。

そして苦労の末に復元した会話の内容から、依頼人がこの男女を殺そうとしているのではと疑い始める。

録音技師が意図せずに、ヤバいものを録音してしまうというプロットで思い出すのは、ブライアン・デ・パルマ『ミッドナイト・クロス』(1981)だ。

同作はミケランジェロ・アントニオーニ『欲望』(1966)に影響を受けた作品だが、コッポラ監督もこの『欲望』に触発されたことを公言している。

ただ、コッポラデ・パルマも、<録音>というところに想像をかき立てる良さがあったと思うのだが、『欲望』で扱っているのは盗撮の<映像>だ。

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

ジーン・ハックマンも出演している『エネミー・オブ・アメリカ』(1998、トニー・スコット監督)も、意図せずヤバいものを動画で撮ってしまうサスペンス映画だった。

本作もジャンルとしてはサスペンスだが、自分のせいで標的の男女が殺されてしまうのではないかと、ハリーが苦しむ心理的な恐怖の描き方がうまい。

ジーン・ハックマン、映画の中では42歳の設定で撮影時の実年齢もそんなものだ。どうみても50歳代にしか見えないが、いい円熟味が出ている。孤独な盗聴プロフェッショナルの哀愁があればこその本作だろう。

当初コッポラ監督マーロン・ブランドーを起用しようとしていたらしいが、ジーン・ハックマンの存在なかりせば、ここまでの高評価になっていただろうか。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

盗聴業界に見本市みたいなものがあるとは知らなかったが、そこには同業者のバーニー・モラン(アレン・ガーフィールド)がおり、いつの間にか、仲間うちでハリーの仕事場で飲んで騒ぐことになる。

技術もないのに目立ちたがりやのモランをハリーは内心蔑んでいたが、その彼に不覚にも盗聴器を仕込まれていたことに立腹し、宴会はお開きに。

 

ただ、モランが連れてきた女・メレディス(エリザベス・マクレー)とはいい雰囲気になり、ベッドインするが、朝になると、大事な盗撮の録音テープが盗まれていることに気づく。

普通、こんな重要なテープが盗まれたら、今度は依頼人から命をねらわれるとか、更なるトラブルに発展するものだ。

だが、ハリーが慌てて依頼人に連絡すると、秘書のマーティンから、「テープはいただいたよ」と返事が。不本意ではあるが、結局テープは依頼人のもとに渡っているのだ。こういう展開は珍しい。

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

ハリーが依頼人である専務のもとにカネを貰いにいくと、標的の女(シンディ・ウィリアムズ)は彼の妻であることに気づく。依頼人は、妻の浮気相手(フレデリック・フォレスト)を殺すつもりなのだろう(或いは二人とも)。

そう確信したハリーは、男女の泊っているホテルの隣室に部屋を取り、盗聴を始める。二人を救おうとしているのだろうか。便器の隣の床にしゃがみ、壁に穴をあけ、盗聴器を仕掛けるハリー。

だが、このあたりから、現実と妄想が入り乱れ始める。女が殺されそうな情景が目に浮かび、隣室に無断で侵入するハリー。そこには何の痕跡もないが、ふと気になって便器の水を流すと、中から鮮血が溢れてくる。

こりゃ、どこまでが現実なのだ。

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

以下、ネタバレになるが、その後ハリーは依頼人の会社を訪れ、専務が交通事故死したという報道を知る。

ホテルに襲撃に向かった専務は、その動きを読まれていた男たちに、返り討ちに遭ってしまったのだ。秘書マーティンが「深入りするな」と言っていたのはこのことだ。秘書と男女はグルになって、専務を陥れた。

かつて、自分の仕事が原因で標的を何人か死なせたことがあるハリーは、罪悪感に苛まれ、今度こそはと救いの手を差し伸べた。だが皮肉にも、今度は自分の録音で、罠にかかった依頼人の方を死なせてしまった。

専務の死因は窒息死か刺殺か詳細は不明だ。交通事故死に偽装する線は難しいのではないかとは思うけど、鮮やかなサプライズには違いない。

ハリーが真相に気づいたと睨んだマーティンは「盗聴してるからな」と彼の部屋に電話して口封じする。受話器の向こうからは、さっきまでのハリーのテナーサックス演奏が流れてくる。

不安にかられたハリーは、部屋中のあらゆるものを破壊し、壁紙や床板まで剥がすが、盗聴器は発見されない。廃墟と化した部屋で、ただ憑りつかれたようにサックスを吹くジーン・ハックマン。印象的なラストだ。

信仰厚い彼が盗聴器を探し求めてマリア像まで叩き割っても、自分の分身のようなサックスだけは手放さない。もはや、盗聴器はこの楽器の中くらいしか考えられない。そう言いたいのか

でも、サックス吹きとして言わせてもらえば、これだけの腕前の奏者なら、管内に何かが仕込まれてたら、さすがに異物感に気づくと思うけど。