『波の数だけ抱きしめて』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『波の数だけ抱きしめて』ホイチョイ的映画レビューこの一本③

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『波の数だけ抱きしめて』

馬場康夫監督のホイチョイ三部作の締め。中山美穂と織田裕二で贈る湘南純情物語。

公開:1991年  時間:104分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:         馬場康夫
脚本:         一色伸幸


キャスト
小杉正明:       織田裕二
田中真理子:      中山美穂
芹沢良明:     阪田マサノブ
高橋裕子:       松下由樹
吉岡拓也:       別所哲也
池本:         勝村政信

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

あらすじ

1991年、9年前に湘南で青春時代を過ごした男女が仲間のひとり、田中真理子(中山美穂)の結婚式に集まり、かつての自分たちを振り返る。

1982年、小杉正明(織田裕二)ら四人は異なる大学に通いながら、自分たちのミニFM放送を湘南中に流すのが夢だった。そんな中、真理子は、米国に転勤した両親から渡米して同居するよう求められる。

真理子は正明が告白さえしてくれれば日本に残る気だが、内気な正明はなかなか彼女に告白できずにいた。

今更レビュー(ネタバレあり)

このレビューを書いている日に、中山美穂さんの突然の訃報を聞くことになるとは思わなかった。この映画を観た翌日のことだっただけに、殊更大きな悲しみと喪失感にとらわれた。ご冥福をお祈りします。

さて、本作は、いわゆるホイチョイ三部作の三作目にあたる作品。

『私をスキーに連れてって』でスキー、『彼女が水着に着替えたら』でマリンスポーツと、過去二作で夏冬のシーズンスポーツを扱ってきたが、三作目が湘南とサーフィンでは、やや前作とかぶっている気がしなくもない。

ただ、本作がメインに扱っているのはミニFM局の放送を湘南エリアに広げることであり、また音楽も前作のサザンオールスターズから松任谷由美、それも1作目の冬のユーミン曲から今回は夏のユーミン曲と、一応区分けはなされている模様。

主演は織田裕二中山美穂。好き合ってるが、気持ちを伝えられずにいる大学生同士。仲間とサーフショップでバイトしながら、手作り感溢れるミニFM局での放送に夢中になっている。

舞台は茅ヶ崎。そこに別所哲也演じる、東京の広告代理店勤めの軽薄なナンパ男がやってきて、場をかき回す展開。

意図的なのか知らないが、これまでホイチョイプロの映画は、バトンをつなぐように出演者のうち一人だけが次作に連続出演している。

『私をスキーに連れてって』⇒原田知世⇒『彼女が水着に着替えたら』⇒織田裕二⇒『波の数だけ抱きしめて』⇒別所哲也『メッセンジャー』小木茂光『バブルへGO!!』薬師丸ひろ子

今のところ、角川三人娘だった原田知世から薬師丸ひろ子バトンが渡っている状態だ。別所哲也は8年の開きがある二作で、同じように軽薄イケメンキャラを維持しているところがある意味凄い。

映画は冒頭1991年、真理子(中山美穂)の結婚式のシーンから始まる。神父の前で誓いをたてた後に、「何でまた父親とバージンロードを戻るのかと不思議に思うほど、相手の新郎は老け顔の男だ。

参列した仲間たちの中に浮かない顔の小杉(織田裕二)。懐かしの湘南のトンネルまでロードスターを走らせ、そこから回想に入るとともに、モノクロ映像が一気に総天然色に変わる。

1982年。クルマはダットサンのピックアップ。海沿いの道に”Yes, Coke, Yes”の真っ赤な看板が眩しい。

仲間や後輩には強気に出るが、真理子の前ではモジモジする純情青年の小杉、キャラ的には『東京ラブストーリー』カンチっぽく、こういう織田裕二は懐かしい。

真理子はミニFM局でレコードを廻しつつ、語りも流暢にDJをこなすサーファー娘。中山美穂の小麦色の日焼け顔に派手めなメイクが、時代を感じる。このアクティブな女子大生役に中山美穂がフィットしていたのかは、やや疑問。

とはいえ、両手の指をからめて、おまじないをする彼女の姿は、颯爽とマイクに向かって語る様子と共に魅力に溢れており、ファンにはたまらない輝きを放つ。

もうすぐ、渡米して住商のLA支店に勤める親元で暮らさなければならない真理子。小杉が「行くな」と告白すれば、彼女も心変わりするかもしれないのに、小杉にはその勇気が出せずにいる。

そこに真理子を見初めて猛烈なアプローチをかける吉岡(別所哲也)が登場し、やきもきさせる展開が続く。

映画としては当然織田裕二中山美穂がメインで、次に目立つのは別所哲也なのだが、久しぶりに本作を鑑賞すると、実は一番おいしいポジションは、主演二人の親友である芹沢良明(阪田マサノブ)と高橋裕子(松下由樹)だったのだと気づかされる。

芹沢は自作のミニFM送信機を作るほどの無線マニアだ。ミニFMの電波を次々と中継器で繋いでいくことで、湘南エリアに放送を届けることが彼らの夢なのだから、芹沢の存在は極めて重要

しかも、親友の小杉の行動を実に正確に予測することができ、何とも頼もしい。ドラマをかき乱すのが吉岡なら、立て直して軌道に乗せるのが芹沢。阪田マサノブは映画としては本作が初出演だが、今や性格俳優としてドラマ等で活躍中。

そして本作随一の陽気で賑やかなキャラが、真理子の親友、高橋裕子。演じるのは、当時このポジションをやらせたら無双だった松下由樹

ガハハと大声でいつもバカ笑いしている陽キャであるが、実は小杉に恋心を抱いていることも序盤から薄々とは匂わせ、終盤では苦しい想いを吐露する。気丈に笑って心で泣くピエロ的な演技には心を揺さぶられる。

主役の二人がウジウジと本心を言えずに話が進む本作だけに、松下由樹がいなければ、相当淡泊で盛りあがらない作品になってしまっていたのではないか。

要所に登場するのは松任谷由実だが、FM放送の話ゆえ、JDサウザーやらネット・ドヒニ―、カラパナ、TOTO、バーティ・ヒギンズといった、当時を知る人なら懐かしさ満載の曲が次々と流れるのも嬉しい。

輸入盤LPを開封して匂いを嗅いだり、盤面にスプレーかけたり、カセットテープに鉛筆さして弛みをとったり、小ネタも豊富。

今ではヘッドフォンで有名なSHUREゼンハイザーの音響製品をはじめ、日本からはTEAC、DENON、TASCAMといったブランド名をみるのも楽しい。TRIOからKENWOODへ」のポスターに感涙。

あと、FM茅ヶ崎(KIWI)のジングルも雰囲気あっていいよね。

吉岡が広告代理店のクライアントである専売公社(今の日本たばこですな)の夏キャンの企画に、このミニFMを売り込む。

中継機を繋いで放送を葉山のサムタイム(メンソール煙草ですな)の特設ステージまで届かせる。そして湘南にクルマでやってくる専売公社のお偉いさんに、真理子の放送を聴かせることが、彼らの当面の目標となる。

強引にこの手の勝負企画を物語の真ん中に据えて、観客をハラハラさせる手法は、ホイチョイ作品に通底するもの。

今回は、葉山までの間にいくつも設置している送信機がひとつでも壊れるとそこから先に電波が届かないという点がハラハラのもと。

だが最後にはどうにかうまくいってハッピーエンドというのも、馬場康夫監督のホイチョイ映画お約束のフォーマットのはずだった。

ところがどっこい、今回は放送こそ無事に葉山まで届いたものの、意外にも苦い結末が待っていた。

ちょっとした成り行きで小杉(織田裕二)裕子(松下由樹)が抱き合っているのを目撃してしまった真理子(中山美穂)は、大事な日の放送をオープンリールに録音で残し、渡米してしまう。

「彼女は絶対に放送をどこかで聴いているはずだ」吉岡(別所哲也)に言われ、小杉は曲を中断し「好きだ!愛してる!」の声をマイクに。

だが、その瞬間、クルマがトンネルに入って真理子はそれを聴けずに渡米。結果が冒頭の、他の男と結婚となるわけだ。

 

主人公たちが悲恋で終わるホイチョイ映画は珍しい。だが、馬場康夫監督は、「本作を撮影中にまさにバブルがはじける音を聞いた」と語っている。もはや、これまでのキラキラした映画が、時代に合わなくなってしまったのだろう。

だからこそ、本作はきらびやかな青春時代をモノクロの現実社会から振り返る、『バブルへGO』 ならぬ『バブル後』的な作品になっているのかもしれない。

バブル期を象徴するホイチョイ三部作の締めに相応しい余韻を残して、幕はとじる。