『ショーイング・アップ』
Showing Up
公開:2022 年 時間:108分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ケリー・ライカート
キャスト
リジー: ミシェル・ウィリアムズ
ジョー(隣人): ホン・チャウ
ショーン(兄): ジョン・マガロ
ビル(父): ジャド・ハーシュ
ジーン(母): マリアン・プランケット
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
あらすじ
美術学校で講師を務めるリジー(ミシェル・ウィリアムズ)は、間近に控えた個展に向けて地下のアトリエで日々創作に励んでいる。だが、チャーミングな隣人ジョー(ホン・チャウ)や生徒たちのおかげで、集中はままならない。
レビュー(若干ネタバレあり)
A24の知られざる映画たち
ケリー・ライカート監督の新作は、「A24の知られざる映画たち」と銘打たれ、他監督の10本の未公開作品とともにU-NEXTで独占配信および特別上映がなされた。本作はその中でも、目玉商品となっていた一本。
確かに、単独で上映作品とするには日本ではあまりに集客力がないのかもしれないが、いかにもA24らしいというか、ケリー・ライカート監督らしい、軽やかな仕上がりのインディーズ映画だった。
◇
オープニングのクレジットで、女性をモデルにしたファッションイラストのようなデッサン画が何点か、随分と時間をかけて映し出される。
デザイナーか絵描きの話かと思いきや、その後に登場する主人公リジー(ミシェル・ウィリアムズ)は、自宅のアトリエで懸命に粘土細工を作っている。彼女は彫刻家だ。
猫と一緒に暮らしながら、目前の個展に向けて時間を惜しんで作品を創り出している。冒頭のイラストは、そのイメージ図なのだ。
もはやケリー・ライカート監督の作品には欠かせない盟友であるミシェル・ウィリアムズが演じる主人公は、毎度お馴染みの不機嫌そうな顔を見せる。
今回は、個展が近いというのに時間も足りず、作品の仕上がりも思うようにはかどらないことが最大のイラつき要因だ。
隣人と猫と鳩
リジーは美術学校で講師を務め生活費を稼いでいる。彼女の借家の隣には、女家主のジョー(ホン・チャウ)が暮している。
ジョーが自動車のタイヤを転がしながら舗道を左右に横切っていき、今度はスケボー少年たちが逆方向に移動していくショットは動きがあって面白い。ジョーはみつけたタイヤを庭の大木の枝にぶら下げ、ブランコを作ろうとしている。
ジョーはリジーと同様に芸術家だが、家賃収入があるので創作活動に時間が割けるのが羨ましい。さらに、リジーの家の給湯機が故障しているのに何日も対応してくれず、イライラは募るばかり。
こんな具合で、個展前に悪戦苦闘するリジーの様子を、カメラは追いかけていく。
苛立っていく彼女を観るばかりではこちらも疲れそうだが、随所に登場する彼女の彫刻作品が実にユニークでその造形や表情に引き込まれ、つい癒されてしまう。
焼き物の人形たちは、窯から出してみるとまるで別人のように色や表情を変え、リジーの創作活動の面白味に夢中になる。これはと思う作品が焼き加減で失敗することもあり、傑作の誕生は運命の巡りあわせなのだと改めて実感させられる。
ケリー・ライカート監督の作品によく登場するのは飼い犬のルーシーだったが、今回は猫のリッキーが活躍。
いつものパターンならこの飼い猫が主人公の良きパートナーとなるところだが、今回は創作活動を邪魔しがち。鳩を捕まえて家の中に引きずり込む。
この羽根を怪我した鳩を、「どこか違う所で死んでね」と外に放り出したリジー、そこから話は思わぬ方向に展開する。
家族もゲストもみな集まる個展
本作にはこれといった分かり易い起承転結のドラマがある訳ではない。それは不満でも不快でもなく、むしろケリー・ライカート監督の作品らしさが感じられて心地よい。
お仕着せの脚本で感動させるようでは、インディーズ映画といえないという自負もあるのだろう。
◇
著名な陶芸家だったが引退してしまった父(ジャド・ハーシュ)や、同じく芸術家だが被害妄想気味で精神状態がヤバそうな兄(ジョン・マガロ)、あまり頼りにならない母(マリアン・プランケット)といった、一見空中分解していそうな家族が、リジーの個展で再集合する。
そして家族のみならず、隣人のジョー(ホン・チャウ)をはじめ、多くの登場人物が、この個展のギャラリーに集結する。
スピルバーグの『フェイブルマンズ』でもミシェル・ウィリアムズと共演したジャド・ハーシュや、ケリー・ライカート監督の前作『ファースト・カウ』で主演したジョン・マガロ、『ザ・ホエール』(ダーレン・アロノフスキー監督)でオスカーノミネートのホン・チャウなど、アクの強い面々が脇を固める。
◇
このギャラリーで何が起きたかはここでは明かさないが、リジーとジョーが懸命に世話をした甲斐あって怪我から治った鳩がどうなるか。ヤバそうな兄のショーンが何かをしそうでハラハラすることだけは確か。
ここから急転してあの美しいアングルで和めるラストシーンに繋げるのは、さすがの手腕と思った。